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しおりを挟む新月で星が我が物顔に空で瞬いている。
彼女の新しい日々の始まり。
昼過ぎから沐浴し、香油を塗り込めると皮膚の内側から仄かに発光するような体。
身に付けるもの全て新しくおろした最上級のもの。
多少の緊張感は有るものの、彼女の決意は揺るぎなかった。
厳かにも感じる空気が突然打ち破られる。
バタバタバタ…
「お待ちくださいっ!お待ちくださいお嬢様っ!!本日、シンデレラ様はっ…」
「なによっ?いつものことでしょ?会うのもダメだって理由はなに?」
「あ~…」
廊下から使用人と押し問答をしながら、長女のドロテアがやって来たようだ。
バンッ!!
力任せにドアを開けてドロテアが入ってきた。
じろりと部屋を一回り見渡し、ふんと鼻を鳴らす。
「ドロテア様、わざわざのお運びで…
どうかなさいましたか?」
「あらぁ、センセ。お願いしてあったお薬を頂きに来たの」
凱が声をかけると、急に態度を一変させ猫なで声で答える。
十九になった彼女は幾つか縁談も持ち上がっているのだが、あれこれと難癖をつけては断っている。
ドロテアの絵姿は美しく描かれ、相手はすっかりその気になるのだが…
実際には、我慢しきれずに潰してしまったアバタで赤らんだ顔をしている。
おまけに、凱に少なからず気持ちがあるものだからタチが悪い。
何かにつけては凱を追い回す。
「…また、その子の具合が悪いの?」
顎で指し見下ろす。
「ドロテア様、お薬でしたらお付きの侍女の方に昼間お渡ししましたが」
す…とドロテアの視線を彼女から遮るように、凱が間に立つ。
「あら、そうなの?私、センセから直接頂こうと思って来たのに…
なんだか…とてもお邪魔のようね」
「いえいえ、そんなことはございませんよ。ドロテア様にわざわざご足労頂いて恐縮です。
さ、お部屋までお送りいたします」
舌打ちしたいのをぐっと堪えて、凱はドロテアの背にそっと手を添える。
「あらぁ!そう?別に送ってもらわなくても…
あ、でもせっかくですものね」
はしゃいだ声を上げるドロテアを促し、部屋を出た。
後…
一時間後。
いつまでも長居されたくなかった。
「ふぅ…」
部屋に戻った凱は、疲れはてたと言わんばかりのため息をつく。
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