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幸福物質の瞬間 5
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高石祐介 5
それから、俺の毎日は散々なものになっていった。毎日毎日、西坂は俺の元へ来ては粘着していき、それを俺の周囲の人間、友達なんかは気味悪がって、西坂が教室に来ると、教室には異様な空気が流れるようになっていた。
そして、毎晩の電話だ。知らない番号からの電話。着信拒否をすれば、また違う番号から電話が掛かってきて、今度はその番号を着信拒否にすると、また違う番号から電話が来る。番号非通知でも電話が来たため、非通知も知らない番号もまとめて着信拒否にすることで事なきを得た。しかし、携帯が震える度に、いちいち体がビクンと跳ねてしまうのが恥ずかしい、というよりももはや屈辱だった。この屈辱をいかにして晴らしてやろうか、とも考えたが、まさか霊に嫌がらせを受けているなどと相談することはできない。
これ以上の霊障とでも言うべきものが起こるのであれば、本格的にお祓いを受けなければならないかもしれない。その時には、仕方ない。両親にだけは相談することとしよう。ただし、自分が墨田先生を殺したということは伏せて。
それにしても、肉体と精神にかかる負荷は、看過できないものがあった。睡眠不足は慢性的なものになり、ものを深く考えるのが難しくなってきた。
ともあれ、今日も学校だ。都道沿いの狭い道を、麻友と二人で歩く。
「ねぇ、祐介大丈夫? 顔色悪いよ」
心配そうな顔で覗きこんでくる。ただ、こうして心配してくれるだけでありがたい。ここのところの最低な生活の中で、麻友の存在だけが清涼剤だった。
「大丈夫。最近寝不足で」
「忙しいの?」
「そういうわけでもないんだけど」
こうして、通学時だけは麻友に遠慮しているのか西坂は姿を現さないので、唯一リラックスできる。寝不足でも遅刻せずに来ているのは、この時間のためかもしれない。
学校が近づいてくるのは憂鬱だったが、駅からはそう遠くない。学校に到着してしまうと、ここからは西坂のターンだ。嫌がらせなんだかなんなんだか、俺が逃げても追いかけてくる。
休み時間が来たら、すぐに教室から移動だ。西坂から逃げるためというのが癪だが、教室にいる友達の視線の中で絡まれるのが一番苦痛だった。見つかって絡まれるとしても、人目のない場所の方がいい。
今日も一日、朝から追い回されて、午後一の休み時間、授業が終わるタイミングが悪かった。向こうが早くて、こっちが遅い。先生が教室を出て、すぐに西坂のいる方のドアと反対側のドアから教室を飛び出したが、廊下を進んで階段を降りたところで捕まった。
「なぁなぁ、逃げるなって。今日は用事があるんだよ。マジで」
「俺はない」
どんなに素気ない対応をしても、こいつがめげないことは知っている。しかし、フレンドリーに対応なんて絶対にしてやらない。
「これ見てくれよ、これ」
そう言って西坂がポケットから取り出したのは、携帯だった。
「この動画見て欲しくてさ」
大きな画面をタップすると、すぐに動画が再生された。見せるために、初めから用意していたのか、再生までが流れるようにスムーズだ。俺に逃げられないようにするための対策だろう。
「なんだよ?」
できるだけ不機嫌な面を作ってみたものの、その画面から目を離すことができない。これから何が映し出されるのか、気になって仕方がない。
「まぁまぁ、見てくれよ」
流れて来たのは、見覚えのある光景だった。学校の最寄り駅。日本有数のターミナル駅、渋谷の改札付近の様子だ。しかも、いつも俺が使っている路線の改札口。
そこで、一人の女が喚き散らしている。あまり性能のいいカメラで撮影したのではないらしく、画面は揺れて、音は割れている。
女はどうやら妊婦のようだ。腹が大きく出ている。怒りの矛先は、どうやら男子学生、しかもうちの学校の制服。いや、待て。これは。
「俺?」
見間違えかもしれないと、目を細めて確認してみるが、やはり自分で間違いないようだ。俺は妊婦から離れていく。その間も、妊婦は画面からはけた俺の背中に向かって怒りをぶちまけている。そして、胸を押さえ、地面に膝をついた。誰も助けない。そのまま前に倒れ、額を地面にぶつけた。やっとOLらしき人が声をかける。だが、妊婦はもう動くこともできないようだ。動画は長かった。チャイムが鳴り、現実に引き戻される。
「さ、一本目はこんなもんか」
「一本目?」
「そう、一本目。まだまだあるからさ。放課後、付き合ってくれよ。見るよな?」
返答を考えるとか考えないとかの前に、俺は操られたみたいに、首を縦に振っていた。
そして放課後、俺は大変不本意ながら、西坂と駅の近くのファストフード店で向かい合わせに座っていた。
「じゃ、まずはこれかな」
差し出された携帯の画面に、動画が映し出される。動画が撮影されている場所には見覚えがあった。さっきの妊婦の動画と同じく渋谷周辺、つまりこのすぐ近くだ。雑踏の中、おっさんがが胸を押さえて倒れる。ざわつく人たち。そして、おっさんは動かなくなった。そこには、ざわつく愚かな人たちの中で一人、凛然と立つ俺の姿があった。
「なんなんだよ、これ?」
「これ? これはさ、『幸福物質の瞬間』てサイトで紹介されてた動画なんだ。あ、学校で見せたやつもな。いわゆる動画まとめサイトってやつ。そのサイトで紹介されてるのはさ、人が死ぬ瞬間が映ってる動画を集めたサイトなんだけどさ、ありがちなグロ動画サイトじゃないんだよね。骨が折れてとか、内臓が飛び出てとか、寄生虫が食い破ってとかじゃなくてさ、もっと高尚なわけ、人の死の瞬間だけを集めててさ。そういうのって、ゾクゾクするだろ? 『幸福物質の瞬間』に張り付いてさ、動画見てて、俺、気がついちゃったんだよね。日本の、首都圏あたりの動画にさ、高石が映ってんの。別に高石がなんかしてるわけじゃないんだけどさ、おかしくね? 普通、人が死ぬとこに居合わせるなんてこと、そうそうないじゃん? 俺なんて居合わせたいって思ってんのに、一回も見たことなくてさ、正直うらやましいんだよね。なぁ、なんでこんなに、人が死ぬとこにいられるんだ? 教えてくれよ、方法をさ」
ニヤニヤと笑いながら、俺の心を覗こうとするみたいに、俺の目を真っ直ぐに見て西坂は言った。
「そんなん、たまたまだろ。それに、その動画ってのも、全部が全部俺ってわけじゃないだろうし」
そうだ。こんなに小さい画面で見て、それを俺だと特定したと言い切るのは苦しいはず。
「そうかなぁ。ちなみにさ、これも、これも、それにこれ。こっからここまで、全部高石が映ってるんだけど?」
かなりの数の動画だった。こんなに殺していたか、と疑問に思ったが、そのひとつひとつを見せられているうちに、記憶が蘇る。確かに、どれもこれも俺が殺した人の、死の瞬間を映したものだ。だが、それを表情に出してはならない。こいつはずっと、俺の表情の変化を見逃さないように、注意深く観察している。
「いやいや、俺じゃないだろ」
「いや、そんなことないって。こっちのフォルダにはさ、全部の動画の、高石っぽいとこをキャプチャして、拡大したのが入ってるんだけど」
わざわざ動画を画像にして、拡大するような真似までしているのか。
「な、これ全部、高石だろ?」
正面から写されたものなどは、どう足掻いても否定できなかった。どんな言い訳をしても、そこに俺がいたということは事実だ。どうしようもない。どうしたらいい。さっき、サイトを見て発見したと言っていたが、こんなものがインターネット上に流出しているというのか。ということは、全世界に俺が人を殺した現場が発信されているということだ。俺がやったなんてこと、誰にも分かるわけがない。それでも、殺しの瞬間が保存されているというのは、不快極まりない。
「いや、俺じゃないのも……」
言葉に詰まる。こいつは全部俺だということを確信して言っている。誤魔化しがきかない。
「でも、少なくとも、これと、これと、これに、これも、それからこれも」
「分かった。分かったから」
「何が分かった?」
俺はこいつのことを全然知らない。それでも分かる。この勝ち誇ったような顔は、完全に俺をやりこめたと思い込んでいる。一体こんなことをして、どんな目的があるんだ。
もし俺が動画の死人たちを殺したのだと疑っているのだとしても、俺が殺人に関わったという証拠などは出てくるわけがない。
だが、こいつがいかに粘着質であるかは、新学期に入ってからこっち、もう十分に理解していた。こうやって、俺に近づいてきて聞き出したかったであろう本題について触れてきたということは、今後、さらに俺に粘着してくるということだ。目に見えている。
教室で、衆人環視の中、あんなにしつこくつきまとってきた西坂だ。これ以上はもう耐えられない。
「とりあえず、今日はもう帰らせてくれ。疲れた」
逃げよう。まずは逃げて、今後どうするか、方針を決めなければならない。
「え? もうかよ? もっと話聞かせてくれよ」
「勘弁してくれ」
「じゃ、明日。明日また話聞きにいくからさ」
これ以上会話をする気にはなれなかった。俺は鞄を引っ掴み、まだ飲み干していないコーラのカップもトレイもそのままに、席を立った。
「明日、約束だからな」
一方的に、何を言っている。返事なんてしてやる義理はない。俺はまっすぐに、早足で、ファストフード店を後にした。
それから俺は真っ直ぐに帰宅した。気晴らしをしたい気分ではあったけれど、とにかく早く一人になりたくて、帰り道を急いだ。
帰宅してすぐに、着替えもせずにベッドに寝転んで、両手を重ねて枕に、目を閉じて結論を出す。もう、耐えられない。色々なデメリットを考慮しても、あいつを殺すメリットの方がでかい。あいつを殺すしかない。殺すことを決意するのは簡単だった。深夜にラーメンを食べる決意をするよりは、ずっと気安い。もう決めた。明日が西坂の命日だ。そう決心すると、一気に睡魔が押し寄せてきた。楽しみだ。明後日からの素晴らしい日々を夢想していると、いつのまにか眠りに落ちていた。
それから、俺の毎日は散々なものになっていった。毎日毎日、西坂は俺の元へ来ては粘着していき、それを俺の周囲の人間、友達なんかは気味悪がって、西坂が教室に来ると、教室には異様な空気が流れるようになっていた。
そして、毎晩の電話だ。知らない番号からの電話。着信拒否をすれば、また違う番号から電話が掛かってきて、今度はその番号を着信拒否にすると、また違う番号から電話が来る。番号非通知でも電話が来たため、非通知も知らない番号もまとめて着信拒否にすることで事なきを得た。しかし、携帯が震える度に、いちいち体がビクンと跳ねてしまうのが恥ずかしい、というよりももはや屈辱だった。この屈辱をいかにして晴らしてやろうか、とも考えたが、まさか霊に嫌がらせを受けているなどと相談することはできない。
これ以上の霊障とでも言うべきものが起こるのであれば、本格的にお祓いを受けなければならないかもしれない。その時には、仕方ない。両親にだけは相談することとしよう。ただし、自分が墨田先生を殺したということは伏せて。
それにしても、肉体と精神にかかる負荷は、看過できないものがあった。睡眠不足は慢性的なものになり、ものを深く考えるのが難しくなってきた。
ともあれ、今日も学校だ。都道沿いの狭い道を、麻友と二人で歩く。
「ねぇ、祐介大丈夫? 顔色悪いよ」
心配そうな顔で覗きこんでくる。ただ、こうして心配してくれるだけでありがたい。ここのところの最低な生活の中で、麻友の存在だけが清涼剤だった。
「大丈夫。最近寝不足で」
「忙しいの?」
「そういうわけでもないんだけど」
こうして、通学時だけは麻友に遠慮しているのか西坂は姿を現さないので、唯一リラックスできる。寝不足でも遅刻せずに来ているのは、この時間のためかもしれない。
学校が近づいてくるのは憂鬱だったが、駅からはそう遠くない。学校に到着してしまうと、ここからは西坂のターンだ。嫌がらせなんだかなんなんだか、俺が逃げても追いかけてくる。
休み時間が来たら、すぐに教室から移動だ。西坂から逃げるためというのが癪だが、教室にいる友達の視線の中で絡まれるのが一番苦痛だった。見つかって絡まれるとしても、人目のない場所の方がいい。
今日も一日、朝から追い回されて、午後一の休み時間、授業が終わるタイミングが悪かった。向こうが早くて、こっちが遅い。先生が教室を出て、すぐに西坂のいる方のドアと反対側のドアから教室を飛び出したが、廊下を進んで階段を降りたところで捕まった。
「なぁなぁ、逃げるなって。今日は用事があるんだよ。マジで」
「俺はない」
どんなに素気ない対応をしても、こいつがめげないことは知っている。しかし、フレンドリーに対応なんて絶対にしてやらない。
「これ見てくれよ、これ」
そう言って西坂がポケットから取り出したのは、携帯だった。
「この動画見て欲しくてさ」
大きな画面をタップすると、すぐに動画が再生された。見せるために、初めから用意していたのか、再生までが流れるようにスムーズだ。俺に逃げられないようにするための対策だろう。
「なんだよ?」
できるだけ不機嫌な面を作ってみたものの、その画面から目を離すことができない。これから何が映し出されるのか、気になって仕方がない。
「まぁまぁ、見てくれよ」
流れて来たのは、見覚えのある光景だった。学校の最寄り駅。日本有数のターミナル駅、渋谷の改札付近の様子だ。しかも、いつも俺が使っている路線の改札口。
そこで、一人の女が喚き散らしている。あまり性能のいいカメラで撮影したのではないらしく、画面は揺れて、音は割れている。
女はどうやら妊婦のようだ。腹が大きく出ている。怒りの矛先は、どうやら男子学生、しかもうちの学校の制服。いや、待て。これは。
「俺?」
見間違えかもしれないと、目を細めて確認してみるが、やはり自分で間違いないようだ。俺は妊婦から離れていく。その間も、妊婦は画面からはけた俺の背中に向かって怒りをぶちまけている。そして、胸を押さえ、地面に膝をついた。誰も助けない。そのまま前に倒れ、額を地面にぶつけた。やっとOLらしき人が声をかける。だが、妊婦はもう動くこともできないようだ。動画は長かった。チャイムが鳴り、現実に引き戻される。
「さ、一本目はこんなもんか」
「一本目?」
「そう、一本目。まだまだあるからさ。放課後、付き合ってくれよ。見るよな?」
返答を考えるとか考えないとかの前に、俺は操られたみたいに、首を縦に振っていた。
そして放課後、俺は大変不本意ながら、西坂と駅の近くのファストフード店で向かい合わせに座っていた。
「じゃ、まずはこれかな」
差し出された携帯の画面に、動画が映し出される。動画が撮影されている場所には見覚えがあった。さっきの妊婦の動画と同じく渋谷周辺、つまりこのすぐ近くだ。雑踏の中、おっさんがが胸を押さえて倒れる。ざわつく人たち。そして、おっさんは動かなくなった。そこには、ざわつく愚かな人たちの中で一人、凛然と立つ俺の姿があった。
「なんなんだよ、これ?」
「これ? これはさ、『幸福物質の瞬間』てサイトで紹介されてた動画なんだ。あ、学校で見せたやつもな。いわゆる動画まとめサイトってやつ。そのサイトで紹介されてるのはさ、人が死ぬ瞬間が映ってる動画を集めたサイトなんだけどさ、ありがちなグロ動画サイトじゃないんだよね。骨が折れてとか、内臓が飛び出てとか、寄生虫が食い破ってとかじゃなくてさ、もっと高尚なわけ、人の死の瞬間だけを集めててさ。そういうのって、ゾクゾクするだろ? 『幸福物質の瞬間』に張り付いてさ、動画見てて、俺、気がついちゃったんだよね。日本の、首都圏あたりの動画にさ、高石が映ってんの。別に高石がなんかしてるわけじゃないんだけどさ、おかしくね? 普通、人が死ぬとこに居合わせるなんてこと、そうそうないじゃん? 俺なんて居合わせたいって思ってんのに、一回も見たことなくてさ、正直うらやましいんだよね。なぁ、なんでこんなに、人が死ぬとこにいられるんだ? 教えてくれよ、方法をさ」
ニヤニヤと笑いながら、俺の心を覗こうとするみたいに、俺の目を真っ直ぐに見て西坂は言った。
「そんなん、たまたまだろ。それに、その動画ってのも、全部が全部俺ってわけじゃないだろうし」
そうだ。こんなに小さい画面で見て、それを俺だと特定したと言い切るのは苦しいはず。
「そうかなぁ。ちなみにさ、これも、これも、それにこれ。こっからここまで、全部高石が映ってるんだけど?」
かなりの数の動画だった。こんなに殺していたか、と疑問に思ったが、そのひとつひとつを見せられているうちに、記憶が蘇る。確かに、どれもこれも俺が殺した人の、死の瞬間を映したものだ。だが、それを表情に出してはならない。こいつはずっと、俺の表情の変化を見逃さないように、注意深く観察している。
「いやいや、俺じゃないだろ」
「いや、そんなことないって。こっちのフォルダにはさ、全部の動画の、高石っぽいとこをキャプチャして、拡大したのが入ってるんだけど」
わざわざ動画を画像にして、拡大するような真似までしているのか。
「な、これ全部、高石だろ?」
正面から写されたものなどは、どう足掻いても否定できなかった。どんな言い訳をしても、そこに俺がいたということは事実だ。どうしようもない。どうしたらいい。さっき、サイトを見て発見したと言っていたが、こんなものがインターネット上に流出しているというのか。ということは、全世界に俺が人を殺した現場が発信されているということだ。俺がやったなんてこと、誰にも分かるわけがない。それでも、殺しの瞬間が保存されているというのは、不快極まりない。
「いや、俺じゃないのも……」
言葉に詰まる。こいつは全部俺だということを確信して言っている。誤魔化しがきかない。
「でも、少なくとも、これと、これと、これに、これも、それからこれも」
「分かった。分かったから」
「何が分かった?」
俺はこいつのことを全然知らない。それでも分かる。この勝ち誇ったような顔は、完全に俺をやりこめたと思い込んでいる。一体こんなことをして、どんな目的があるんだ。
もし俺が動画の死人たちを殺したのだと疑っているのだとしても、俺が殺人に関わったという証拠などは出てくるわけがない。
だが、こいつがいかに粘着質であるかは、新学期に入ってからこっち、もう十分に理解していた。こうやって、俺に近づいてきて聞き出したかったであろう本題について触れてきたということは、今後、さらに俺に粘着してくるということだ。目に見えている。
教室で、衆人環視の中、あんなにしつこくつきまとってきた西坂だ。これ以上はもう耐えられない。
「とりあえず、今日はもう帰らせてくれ。疲れた」
逃げよう。まずは逃げて、今後どうするか、方針を決めなければならない。
「え? もうかよ? もっと話聞かせてくれよ」
「勘弁してくれ」
「じゃ、明日。明日また話聞きにいくからさ」
これ以上会話をする気にはなれなかった。俺は鞄を引っ掴み、まだ飲み干していないコーラのカップもトレイもそのままに、席を立った。
「明日、約束だからな」
一方的に、何を言っている。返事なんてしてやる義理はない。俺はまっすぐに、早足で、ファストフード店を後にした。
それから俺は真っ直ぐに帰宅した。気晴らしをしたい気分ではあったけれど、とにかく早く一人になりたくて、帰り道を急いだ。
帰宅してすぐに、着替えもせずにベッドに寝転んで、両手を重ねて枕に、目を閉じて結論を出す。もう、耐えられない。色々なデメリットを考慮しても、あいつを殺すメリットの方がでかい。あいつを殺すしかない。殺すことを決意するのは簡単だった。深夜にラーメンを食べる決意をするよりは、ずっと気安い。もう決めた。明日が西坂の命日だ。そう決心すると、一気に睡魔が押し寄せてきた。楽しみだ。明後日からの素晴らしい日々を夢想していると、いつのまにか眠りに落ちていた。
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