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暗雲が海外からやってくる
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彼女は豪速球をぶつけてきた。
「なぜ、武臣はあなたなんかと付き合っているの?」
曇りのない綺麗な瞳で問われた。
(『なんか』……言われ慣れてるよ)
とはいえ、傷つかないわけではない。
「教えて?」
「それは……、」
迫られたが、言葉に詰まる。武臣の腕の中で目覚めているたび、仁那自身が毎回感じている疑問だったから。
俯いた仁那を前に、時任は牙を剥いた。
「今回騒がれたことで、あなたにはCEO夫人はできないってよくわかったでしょう?」
仁那は目を見開く。ネットで調べたにしろ、言い方が引っかかった。
「あなたが?」
目の前の女性が情報を操作したのだろうか。
(悪意をネットでばら撒くって、犯罪行為では?)
まさか、とも思う。
(いくら武臣さんを取り戻したいからって、そこまでする?)
たしかに、いくら武臣がイケメンで独身で伝統を誇る一流企業の御曹司だからといっても、ネットの沸騰ぶりは異常だった。
でも、それは『まつしろ』内の、半武臣派役員の仕業だと自分たちは思っていた。
「……時任さんは、なぜ武臣さんの足を引っ張るようなことをするのですか」
怒りに体が震えてくる。
仕事に関係ないことなのに。ネットへの対処が武臣を疲弊させていた。
(彼が後始末にどれだけ苦労しているか!)
仁那が時任を睨む。
けれど彼女は、仁那の怒りが理解できないという表情を浮かべた。
「私は武臣のような素晴らしい男性に、あなたなんか分不相応よね、って書き込みしただけ」
胸を突かれた。
(そうだ)
「賛同したのは世界中の人々よ。ということは、みんなが思っている、ってことでしょう?」
考えてみると、武臣についての悪意ではなかった。
(全部、私に向けての)
ゾワリとする。背中に冷たい手が這い回っているようだ。
「あなたはネットミームに対処できない。オロオロしているだけ」
(そのとおりだ)
自分は対処を恋人や兄に任せて、閉じこもっているだけ。
自分のことなのに、なにもしていない。そのくせ、一人前に憤っているだけだった。
(私がいけないのに。武臣さんや和登が大変な目に遭っているのは、全部私のせいなのに)
「私はね、TTフーズの社長を父に持っているのよ」
「え?」
唐突な情報に面食らう。
(フーズ? ……ってことは食品会社? だとしても、なんでいきなり?)
よほど怪訝な表情をしたのだろう。
時任は知らないの、という顔をして見せた。
「食品に関しての原料を輸入している会社よ。『まつしろ』とも取引させて頂いているわ。だから、私と武臣の交際は両家とも歓迎している」
説明されるまで、予想もしなかった自分を恥じる。
(かなわない)
自分はもしかしたら、一般常識もないのかもしれない。
(それに家柄なんて、私にはない)
実家は四代続いた書道具屋であるが、それがなんだというのだろう。
「でも!」
いまどき、政略結婚は意味がないのではないだろうか。精一杯、抵抗しようとした。
「『いまどき政略結婚を強いるなんて、ナンセンスだ』と。世間の風潮から、武臣のご両親はあなたを受け入れたんでしょうね。でも、合理的で素晴らしいシステムなのよ?」
結婚はビジネスよ、と言い切る時任は、仁那にとってもはや異世界人だ。
「なのに、あなたときたら【菓匠まつしろ】CEO夫人になれるというのに、書道教師なんてくだらない仕事にしがみついているんでしょう?」
時任から宇宙人を見るような目を向けられた。
「それは」
CEO夫人に比べたら、書道教師はそんなにもつまらない仕事なんだろうか。
(そんなことない! 私は、書を嫌いな人たちの手助けをしている!)
武臣だって。
「お義母さまがこぼしてらしたわよ? 『仁那さんは、家柄で助けることもできないのに、武臣を蔑ろにしている』って。私もそう思うわ」
時任の言葉に、仁那は固まった。
「お義母さまが……」
(やっぱり、受け入れられていなかったんだ)
それでも、武臣が望むから花嫁修行をしてくれていたのだろう。
義母の気持ちも知らず、ストレスに感じていた。
(私は世間知らず過ぎたかもしれない)
「なぜ、武臣はあなたなんかと付き合っているの?」
曇りのない綺麗な瞳で問われた。
(『なんか』……言われ慣れてるよ)
とはいえ、傷つかないわけではない。
「教えて?」
「それは……、」
迫られたが、言葉に詰まる。武臣の腕の中で目覚めているたび、仁那自身が毎回感じている疑問だったから。
俯いた仁那を前に、時任は牙を剥いた。
「今回騒がれたことで、あなたにはCEO夫人はできないってよくわかったでしょう?」
仁那は目を見開く。ネットで調べたにしろ、言い方が引っかかった。
「あなたが?」
目の前の女性が情報を操作したのだろうか。
(悪意をネットでばら撒くって、犯罪行為では?)
まさか、とも思う。
(いくら武臣さんを取り戻したいからって、そこまでする?)
たしかに、いくら武臣がイケメンで独身で伝統を誇る一流企業の御曹司だからといっても、ネットの沸騰ぶりは異常だった。
でも、それは『まつしろ』内の、半武臣派役員の仕業だと自分たちは思っていた。
「……時任さんは、なぜ武臣さんの足を引っ張るようなことをするのですか」
怒りに体が震えてくる。
仕事に関係ないことなのに。ネットへの対処が武臣を疲弊させていた。
(彼が後始末にどれだけ苦労しているか!)
仁那が時任を睨む。
けれど彼女は、仁那の怒りが理解できないという表情を浮かべた。
「私は武臣のような素晴らしい男性に、あなたなんか分不相応よね、って書き込みしただけ」
胸を突かれた。
(そうだ)
「賛同したのは世界中の人々よ。ということは、みんなが思っている、ってことでしょう?」
考えてみると、武臣についての悪意ではなかった。
(全部、私に向けての)
ゾワリとする。背中に冷たい手が這い回っているようだ。
「あなたはネットミームに対処できない。オロオロしているだけ」
(そのとおりだ)
自分は対処を恋人や兄に任せて、閉じこもっているだけ。
自分のことなのに、なにもしていない。そのくせ、一人前に憤っているだけだった。
(私がいけないのに。武臣さんや和登が大変な目に遭っているのは、全部私のせいなのに)
「私はね、TTフーズの社長を父に持っているのよ」
「え?」
唐突な情報に面食らう。
(フーズ? ……ってことは食品会社? だとしても、なんでいきなり?)
よほど怪訝な表情をしたのだろう。
時任は知らないの、という顔をして見せた。
「食品に関しての原料を輸入している会社よ。『まつしろ』とも取引させて頂いているわ。だから、私と武臣の交際は両家とも歓迎している」
説明されるまで、予想もしなかった自分を恥じる。
(かなわない)
自分はもしかしたら、一般常識もないのかもしれない。
(それに家柄なんて、私にはない)
実家は四代続いた書道具屋であるが、それがなんだというのだろう。
「でも!」
いまどき、政略結婚は意味がないのではないだろうか。精一杯、抵抗しようとした。
「『いまどき政略結婚を強いるなんて、ナンセンスだ』と。世間の風潮から、武臣のご両親はあなたを受け入れたんでしょうね。でも、合理的で素晴らしいシステムなのよ?」
結婚はビジネスよ、と言い切る時任は、仁那にとってもはや異世界人だ。
「なのに、あなたときたら【菓匠まつしろ】CEO夫人になれるというのに、書道教師なんてくだらない仕事にしがみついているんでしょう?」
時任から宇宙人を見るような目を向けられた。
「それは」
CEO夫人に比べたら、書道教師はそんなにもつまらない仕事なんだろうか。
(そんなことない! 私は、書を嫌いな人たちの手助けをしている!)
武臣だって。
「お義母さまがこぼしてらしたわよ? 『仁那さんは、家柄で助けることもできないのに、武臣を蔑ろにしている』って。私もそう思うわ」
時任の言葉に、仁那は固まった。
「お義母さまが……」
(やっぱり、受け入れられていなかったんだ)
それでも、武臣が望むから花嫁修行をしてくれていたのだろう。
義母の気持ちも知らず、ストレスに感じていた。
(私は世間知らず過ぎたかもしれない)
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