書道教師はクールな御曹司に甘く手ほどきされました

花押は愛のあかし

5.

　……正直いって、毛筆で他人に落書きするのは楽しい。

　子供の頃、生徒同士で墨をつけあっては祖母に雷を落とされたものだ。
　大人になっても楽しいのだが、墨が肌の肌理に入り込んでしまい、なかなか落ちない。
　理性が勝ってくると、そうそう出来る遊びではない。
　しかし。
　
　――今日はいいかな。

　誘惑に負けて、仁那は墨をすると松代の体に字を書いてみせた。
　
「人の体に墨書するのって、子供の頃以来だなあ」

　書いてみると、意外と難しい。
　紙より起伏はあるし、墨をもっとつけたほうが滑りがいいように思う。
　
「ん……っ」

　夢中になりはじめた彼女は、松代の様子には気づかない。
　
「『仁』だと単純すぎるかな。やっぱり『那』のほうが。あと、『武』と『臣』でも、意匠を試してみようっと」

「ハ……」
　
　吐き出された息の熱さに、慌てて顔をあげれば松代の表情がなまめかしい。
　性的プレイだという意識が飛んでしまっていた彼女は慌てた。