書道教師はクールな御曹司に甘く手ほどきされました

水田歩 

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お手並み披露

1.

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 三人で話し合った結果、『紫藤瑞葉』には触れることなく、『袋田仁那』を松代の婚約者として公表することになった。

 併せて、記者の前で書を披露する会を設ける。
 その会で仁那は松代の家族と引き合わされることになった。
 
「緊張してる?」

 自分を抱きしめてくれている愛おしい存在に訊かれた。
 
「ウン」 

 嘘を言っても仕方ない。
 仁那の体が縮こまる。
 彼女を『格差婚』『身の程知らず』などのキーワードが怯えさせていた。
 
「俺が君を護る。誰にも仁那を傷つけさせない。……俺を信じてくれとしか言えない」

 ささやかれた。
 
「俺はずるい。守れないかもしれない約束と、綺麗事しか与えられない」

 自嘲気味な言葉に抗議しようとした。だが、深く胸にしまいこまれる。

「育ってきた俺ですら、三五〇年の重みに震えてる。そんな家に君を入れようとしているんだ」

 彼女も五代続いている商家の娘であるから、伝統という化け物がうっすらと見えている。

「仁那の不安を想像出来ても、完全に把握することは出来ない。……覚えてもらわなければならない、しきたりも沢山ある」
 
 仁那の大好きなひとは、『愛のために全てを捨てられるか』と聞かれればイエスと答えてくれるだろう。
 だが、自分は。
『愛のために全てを犠牲に出来るのか』と問われれば、彼女は口ごもるだろう。

「頑張ります、としか言えない」

 くぐもった声で返事をすれば頭のうえで、松代が大きく息を吐き出す音がした。

「一緒に戦うと言ってくれているだけで充分だ。問題が起こるたびに、納得出来るまで話し合おう」
「ウン」

 愛情だけではどうにもならないことがあるのは、互いにわかっていた。
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