記憶

荒木公治

文字の大きさ
2 / 9

楽しみ前夜

しおりを挟む
 月に一度、母の姉の家に遊びに行く事があり、前日の夜から気持ちが高ぶり、熱々のお風呂に二十数えて上がり、びしょびしょの足のまま、部屋をウロウロする者だから、いつも、母に怒られ、バスタオルで体を拭いてもらってはニコニコ笑っていた。
 火照ってた体で入る、冷たい布団が気持ち良くて、お風呂に入る時は、肩まで風呂に浸かり、二十数えると、顔が真っ赤になって、上がるとフワっと頭が飛ぶ感覚が好きだった。

 この日は母に言われる前に、歯磨きもトイレも済ませ、布団の中にいた。
 枕の耳を人差し指でクリクリ触ったり、顔にスリスリ撫でたりする。
 枕を何度もひっくり返し、冷たさを感じながら、明日の事を考えると、居ても立っても居られなくなり、早く寝て、朝にならないかと、目を瞬きして寝た。

 時計の針は朝を目指し、ゆっくり、ゆっくり進んでいる。
 秒針一秒、一秒の間に楽しい絵をいくつ描いただろう。
 想像力は時間を飛び込え、頭の中は無限に広がる映画を見るようだった。

 目が覚めると、汗をびっしょり掻いていた。
 外はまだ暗かった。
 喉の渇きが我慢できず、重い腰を上げて、暗闇の中を恐る恐る歩き、何とか台所に着いた。
 冷蔵庫の音が静かに聞こえる。
 小ぶりな照明のヒモを引っ張り、ガラスコップに冷たい水道水を入れてゴクンと飲むと、汗が急に冷たくなり、寒気を感じた。
 暗い部屋に一人ぼっちで、寒さと怖さの中、目をつぶって部屋に戻りたいと思った。

 朝がきた。
 白く煙っていた。
 とても長い時間、旅をした気分で、何か少し疲れていた。
 母も妹もまだ寝ていて、僕は居間に行き、黒いボッチの電源を上げ、テレビのチャンネルをガチャガチャと回し、意味の分からない大人の話をただずっと観ていた。

 母が起きてきた。

「風邪引くから上着を着なさい。」

 返事もせず、畳に寝たまま、擦れ落ちたズボンを上げ、シャツをズボンの中に入れようとするが、うまくいかず、背中に冷たさを感じながら、何度も何度も繰り返し、体をくねらせていた。
 
 母が飽きれて、

「これ着なさい!」と

上着を渡すが、聞こえないフリをして、立ち上がり、また寝室に戻ってしまった。

 妹はすでに起きていて、鏡台に座り、髪をクシで梳かしていた。
 布団に転がり込むと、川の字に並んだ布団にゴロゴロと回転して縦断した。
 何度も何度も繰り返すと、飽きて、母の布団の上で止まり寝てしまった。

 母の布団。大人の匂い。お化粧やシャンプーの匂い。女性の柔らかい甘い匂い。この場所だけは、どこか知らない外国に来たようだった。

「バッ」

 布団が巻くり上がった。

 照明の明かりが目に刺さった。

 母はカンカンに怒っている。

「もう、連れていかないよ!」

「早く、ご飯を食べなさい!」と言い、

 布団を片付け始めた。

 一気に体が軽くなり、立ちあがると、部屋着に急いで着替えて、キッチンテーブルの椅子にすわり、母が作ってくれた朝食。 甘い卵をぐちゅぐちゅにしたもの、ウィンナーを油で炒めもの、ご飯を食べた。
 母さんも妹も食べ終わっていて、鏡を見ながら、二人で今日着て行く服を相談していた。

「にいちゃんはこれを着るよ!」

 何の相談もなく、言われたまま、外行き服に着替えさせられた。 
 母と妹はまだ何か話してる。

 いつもそうだが、女性は準備に時間が掛かる・・・

 テレビを付けて、ヒーロー者のアニメを観ていた。
 母は、お化粧に時間を掛け、鏡とずっと睨めっこしていた。


 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...