その1歩に全力を

もあい

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1組第1レーン「入部」

ナルゴリ

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 部活が終わると、水澤に追い出された1年生達のところに大川がやって来た。
「ねえ、青木くんたちなにやらかしたの?」
青木は答えた。
「なんか、当たり前のことができない奴は部活やるなって…」
大川は青木の話を聞いて、笑い出した。
「先輩、笑い事じゃないんですけど…」
青木は答えた。
「君たち、よく覚えておいた方がいいよ、あのね、水澤先生の部活は挨拶、返事、あと移動は走る。これがないと部活に来るなって言われるからね。」
大川は、楽しそうに話している。
「先輩、なんでそんなに楽しそうなんですか?」
1年のひとりが聞いた。
「え、だって去年の今頃同じような事になった奴がいるから。ちょっと待ってて。」
そう言うと、大川はひとりの体の大きな男の先輩を連れてきた。
「彼が去年退部させられたナルゴリくんでーす!」
「お前、後輩にバカにされるじゃねーかよ!」
「イイじゃん!退部って言ってもちょっとの間部活が行けないだけだし!」
大川ともうひとりの先輩が言い争っていたところに、青木が口を挟んだ。
「ナルゴリ先輩は、今陸部ですよね?あとなんでナルゴリなんですか?」
ナルゴリが反射的に答えた。
「いいか、俺はナルゴリじゃない。竹山だ、ナルゴリって呼ぶん…」
言いかけたところで大川が、竹山を突き飛ばして言った。
「ナルゴリはね、体がゴリラみたいにゴツいのに、動きがナルシストだからナルゴリっていってね…」
竹山は既に真っ赤になった顔を両手で隠している。大川は続けた。
「こいつさ、去年のこの時期に退部になってるって言ったでしょ?他にもさ、やるきがねー!って水澤先生に言われて、退部になってるの。なのにその度に毎朝水澤先生が来る時にさ、校門にたって謝ってんの。」
竹山は恥ずかしさのあまり、しゃがみこんで1年生に背中を向けている。
「やめてくれ」
竹山は大川にすがった。1年からクスクスと笑いが漏れた。すると、大川から笑顔が消えた。
「君たち、明日からこれやらないと、部活戻れないよ。」
1年生はハッとして大川をみた。今となってはあの優しい大川先輩が悪魔にも見える。いつの間にか竹山もウンウンと頷いている。1年生は絶望に似た感情を覚えた。朝の校門と言えば、生徒がたくさん歩いてる。その中で挨拶だなんて、友達からバカにされるに決まっているからだ。竹山が言った。
「あ、おれ、許してもらうまで一週間かかったから。」
1年生は絶望した。
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