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第二章 少年期編
第六十一話 再・本物の無気力はお迎えに行く(2)
「下りる」
「ええ!?なんで!?僕の抱っこ居心地悪い!?」
心配性のユーリに首を振って下ろしてもらう。
「「僕………?」」
「幻聴か?幻聴であってくれ」
「幻聴じゃなかったらどうしましょう」
オーガスとリージャが何やらコソコソ話し合っている。二人とも深刻な表情だ。
緊急事態か?今話しかけたら邪魔になるだろうか。
「大丈夫?疲れない?僕の腕掴んでて」
ユーリは地面に足を着いた俺を覗き込んで腕を差し出してくれる。
「「幻聴じゃなかった………」」
「ぶりっ子とかいうレベルじゃねぇだろ。別人だろ」
「別人じゃなかったらどうしましょう」
その奥で二人は愈々頭を抱え始めた。どうやらとんでもないことが起こっているようだな。
面倒事には関わりたくない。言いたいことだけ言って先へ進むべし。
「ルー?腕いらない?」
「大丈夫」
「でもほら、ここ足場が悪いよ。小石もたくさん転がってる。もし躓いたら痛いよ?」
心配性どころの騒ぎじゃない。どうやらユーリの中の俺は三歳で止まっているらしい。
何を言っても下がった眉が戻ることはなさそうなので綺麗な唇に人差し指を添えて子どもに伝えるようにはっきり口を動かした。
「しー」
「………」
幸いユーリの眉は平行に戻った。何故か膝を追って腕を出した体勢のまま固まっているが静かになったということは伝わったということだ。
ユーリの横を通りすぎてオーガスとリージャの前へ行く。
ガッ。
「あ」
ドテッ。
ユーリは言霊使いだったのか。そうでなければ予知能力者か。
まさか本当に小石に躓いて転ぶとは思わなかった。
「いたい…」
転んだ後すらユーリの言う通りだ。屋敷の廊下で転ぶのとはわけが違う。短パンのせいで剥き出しになっていた脚に小石が遠慮なくめり込んで膝がじんわり熱を持つ。
「神子様!?無事ですか!?」
「おいおい。怪我したんじゃねぇか?」
オーガスとリージャは駆け寄って来て未だ地面に這いつくばったままの俺を起き上がらせようとしてくれる。
しかし二人の手が触れる前に身体が浮いた。ユーリの絶叫とともに。
「うわぁあああああ!!」
風に持ち上げられた身体は綺麗にユーリの腕に収まる。今回は横抱きではなく向き合って縦に抱っこされた。
「大丈夫!?痛くない!?」
「普通に痛い」
「普通!?普通ってどのくらい!?」
「だいじょーぶなくらい」
「本当に大丈夫?無理にでも抱っこしておけばよかった…。もう放さない!!」
絶対不可能であろうユーリの誓いに甘えて肩に顎を乗せる。
コアラにでもなった気分だ。いいなぁコアラ。皆喜んで抱っこしてくれるんだもんな。俺も今日からコアラになる。飼い主はユーリ。勝手に決めた。
襲いかかる疲労感に負けて視線を俯ける。
パチっと視線が交わった。
「………」
「………」
後ろに立っていたその人と無言で見つめ合う。
「お前実は二重人格者だったのか?」
「………」
「おい!会話を面倒くさがるな!」
「これですよ!これこそがユリシスです!」
三人が盛り上がっている間も俺達は黙ってお互いを見ていた。
「………」
「………」
「やっぱさっきのぶりっ子は幻覚か。お前そんなことに体力使うタイプじゃねぇもんな」
「ルーの前でかわい子ぶることが『そんなこと』だと…?」
「うわ、先輩逆鱗に触れましたよ」
んー。俺と同じくらいの背丈だな。とはいえリージャ達と同じローブを着ているということは魔塔の魔法使に違いない。
男の子は髪をふわふわ揺らしながら灰色の目をぼんやり此方に向けていた。
「落ち着け!喧嘩しに来たわけじゃねぇんだから!」
「あ!そうでした!私達二人を止めに来たんですよ!」
「止めに………?」
「はい。リッツェさんに会いに来たんですよね?」
「………」
「………みーこ?」
「………」
「みーこ、親和力なくしちゃったのー?」
男の子はゆっくり首を傾げながら『みーこ』さんに話しかけた。
猫でも探してるのか?
記憶を辿ってみても夢で大きなプリンに吸い込まれたことしか思い出せない。
ここに来るまでの間ずっと寝ていたから猫を見かける暇もなかったな。
首を二回横に振る。
男の子が残念がる様子はなく、視線を逸らさずに近づいてきた。
「だとしたらなんだ」
「私も訳が分からないんですが魔塔主がリッツェさんと神子様を会わせたくないみたいなんですよ」
「なくしてないならどこにしまったのー?」
ユーリに抱っこされている俺を男の子が見上げた。これが背が高い人間の景色か。
「しまってない」
そもそも猫に会ってないんだから出すもしまうもない。
「………?」
「………?」
微妙に意思疎通できてない気がするな。
「あの人リッツェさんのことになると過保護だから会う前にはやく帰った方が………」
「リージャ、手遅れだ」
「げぇ」
「チッ」
突然ユーリの腕に力が籠る。
何かあったのかと辺りを見渡せば少し離れたところに懐かしの爺さんが立っていた。
「久しいのう、『ルー』。はるばる来てくれたとこ悪いがここからは立ち入り禁止なんじゃ」
「………だる」
「ええ!?なんで!?僕の抱っこ居心地悪い!?」
心配性のユーリに首を振って下ろしてもらう。
「「僕………?」」
「幻聴か?幻聴であってくれ」
「幻聴じゃなかったらどうしましょう」
オーガスとリージャが何やらコソコソ話し合っている。二人とも深刻な表情だ。
緊急事態か?今話しかけたら邪魔になるだろうか。
「大丈夫?疲れない?僕の腕掴んでて」
ユーリは地面に足を着いた俺を覗き込んで腕を差し出してくれる。
「「幻聴じゃなかった………」」
「ぶりっ子とかいうレベルじゃねぇだろ。別人だろ」
「別人じゃなかったらどうしましょう」
その奥で二人は愈々頭を抱え始めた。どうやらとんでもないことが起こっているようだな。
面倒事には関わりたくない。言いたいことだけ言って先へ進むべし。
「ルー?腕いらない?」
「大丈夫」
「でもほら、ここ足場が悪いよ。小石もたくさん転がってる。もし躓いたら痛いよ?」
心配性どころの騒ぎじゃない。どうやらユーリの中の俺は三歳で止まっているらしい。
何を言っても下がった眉が戻ることはなさそうなので綺麗な唇に人差し指を添えて子どもに伝えるようにはっきり口を動かした。
「しー」
「………」
幸いユーリの眉は平行に戻った。何故か膝を追って腕を出した体勢のまま固まっているが静かになったということは伝わったということだ。
ユーリの横を通りすぎてオーガスとリージャの前へ行く。
ガッ。
「あ」
ドテッ。
ユーリは言霊使いだったのか。そうでなければ予知能力者か。
まさか本当に小石に躓いて転ぶとは思わなかった。
「いたい…」
転んだ後すらユーリの言う通りだ。屋敷の廊下で転ぶのとはわけが違う。短パンのせいで剥き出しになっていた脚に小石が遠慮なくめり込んで膝がじんわり熱を持つ。
「神子様!?無事ですか!?」
「おいおい。怪我したんじゃねぇか?」
オーガスとリージャは駆け寄って来て未だ地面に這いつくばったままの俺を起き上がらせようとしてくれる。
しかし二人の手が触れる前に身体が浮いた。ユーリの絶叫とともに。
「うわぁあああああ!!」
風に持ち上げられた身体は綺麗にユーリの腕に収まる。今回は横抱きではなく向き合って縦に抱っこされた。
「大丈夫!?痛くない!?」
「普通に痛い」
「普通!?普通ってどのくらい!?」
「だいじょーぶなくらい」
「本当に大丈夫?無理にでも抱っこしておけばよかった…。もう放さない!!」
絶対不可能であろうユーリの誓いに甘えて肩に顎を乗せる。
コアラにでもなった気分だ。いいなぁコアラ。皆喜んで抱っこしてくれるんだもんな。俺も今日からコアラになる。飼い主はユーリ。勝手に決めた。
襲いかかる疲労感に負けて視線を俯ける。
パチっと視線が交わった。
「………」
「………」
後ろに立っていたその人と無言で見つめ合う。
「お前実は二重人格者だったのか?」
「………」
「おい!会話を面倒くさがるな!」
「これですよ!これこそがユリシスです!」
三人が盛り上がっている間も俺達は黙ってお互いを見ていた。
「………」
「………」
「やっぱさっきのぶりっ子は幻覚か。お前そんなことに体力使うタイプじゃねぇもんな」
「ルーの前でかわい子ぶることが『そんなこと』だと…?」
「うわ、先輩逆鱗に触れましたよ」
んー。俺と同じくらいの背丈だな。とはいえリージャ達と同じローブを着ているということは魔塔の魔法使に違いない。
男の子は髪をふわふわ揺らしながら灰色の目をぼんやり此方に向けていた。
「落ち着け!喧嘩しに来たわけじゃねぇんだから!」
「あ!そうでした!私達二人を止めに来たんですよ!」
「止めに………?」
「はい。リッツェさんに会いに来たんですよね?」
「………」
「………みーこ?」
「………」
「みーこ、親和力なくしちゃったのー?」
男の子はゆっくり首を傾げながら『みーこ』さんに話しかけた。
猫でも探してるのか?
記憶を辿ってみても夢で大きなプリンに吸い込まれたことしか思い出せない。
ここに来るまでの間ずっと寝ていたから猫を見かける暇もなかったな。
首を二回横に振る。
男の子が残念がる様子はなく、視線を逸らさずに近づいてきた。
「だとしたらなんだ」
「私も訳が分からないんですが魔塔主がリッツェさんと神子様を会わせたくないみたいなんですよ」
「なくしてないならどこにしまったのー?」
ユーリに抱っこされている俺を男の子が見上げた。これが背が高い人間の景色か。
「しまってない」
そもそも猫に会ってないんだから出すもしまうもない。
「………?」
「………?」
微妙に意思疎通できてない気がするな。
「あの人リッツェさんのことになると過保護だから会う前にはやく帰った方が………」
「リージャ、手遅れだ」
「げぇ」
「チッ」
突然ユーリの腕に力が籠る。
何かあったのかと辺りを見渡せば少し離れたところに懐かしの爺さんが立っていた。
「久しいのう、『ルー』。はるばる来てくれたとこ悪いがここからは立ち入り禁止なんじゃ」
「………だる」
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