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第二章 少年期編
第七十話 再・本物の無気力はお迎えに行く(11)
リージャを見張りとして外に置き、儀式の間とやらに入る。
そこは真っ暗………というか真っ黒で部屋の広さすらいまいち掴めない。その上人の気配もなく静寂が流れていて騒がしいリッツェが此処にいるとは到底思えなかった。
「なるほどな。リッツェさんは多分あの辺りだ」
あの辺り…?
オーガスの指の先を見ても俺には同じ黒にしか見えない。
「魔導書が空間を展開してんだろうな。あの辺りだけ空気がない。多分試練が終わるまで出れねぇだろうからここでちょっと待つか」
取り敢えず部屋は間違っていなかった。それしか分からなかったがそれだけ分かればいいのだ。
「つーかいくらなんでも暗すぎるな。蝋燭持ってくるわ。ここで一人で待てるか?」
「ん」
「よし。いい子にしてろよ」
オーガスは俺を下ろして出て行った。
自分が座っている床すら視認できない闇の中でよくもまあ躊躇なく動けるものだ。俺はここから一歩も動きたくない。膝を抱えて座り大人しくオーガスが戻るのを待つ。
「ふわぁ………ん?」
ぱっ、っと。弱い照明でも灯されたかのように視界が薄く明るくなった。見慣れた暗さになったおかげでまるで初めからそこにいたかのように立っているリッツェに気付くことができた。リッツェの髪が特徴的でよかった。もし黒髪ロングだったら俺は意識を失っていたかもしれない。
「えええええええええええ!?!?!?!」
「………リッツェうるさい」
………何も見えなくても髪型が変わってもこの騒がしさなら気付くか。
「あれ、試練終わったんすか。お疲れ様です。てか部屋明るくなってんな」
「幻覚………これは幻覚なのか………?ここに坊ちゃまがいるわけないのに………」
「あー、俺は眼中にないんすね」
丁度戻って来たオーガスが燭台を置いて俺の後ろに座った。その後は動揺するリッツェを放置して無言を貫くばかりでこれ以上干渉する意思がないのが伝わって来る。視線だけはしっかり背中に突き刺さっていてどうやら事の次第を見守るつもりのようだ。
「これはもう触って確かめるしか………でも幻覚だったら悲しすぎる………よし。このまま消えるまで堪能しよう」
堪能ってなんだ。なんでそんなに見つめてくるんだ。無理に開き過ぎて目玉が零れ落ちそうだぞ。怖い。
取り敢えずここに至る経緯を説明………するのは面倒だな。
「リッツェ」
「はいぃ!!」
「まずは座る。ゆっくり呼吸する。俺は本物。いいな?」
「はいぃ!!」
言われた通り正面に正座して何度か深呼吸するとリッツェは漸く落ち着いた。心做しかいつもより目が大きい気もするが魔塔主がいつ来るかも分からないのに細かいことは気にしていられない。
「あの………本物なら、どうしてここに?」
「………」
「坊ちゃま?」
首を傾げて俺の返事を待っているのを見るに冗談ではないらしい。
この鈍感執事は俺が簡単に自分の退職を受け入れると思っていたというわけだ。むかつく。
とはいえ俺も伊達に前世から無気力に生きているわけではないのでここで感情的になっても無駄な体力を浪費するだけだと知っている。
「ん」
最初に渡しそびれた重たい布袋をリッツェの前に置いた。
「お小遣い袋…このまま持って来たんですか!?こんな大金持ち歩いたらダメですよ!せっかく貯めたんだから大事にしまっておかないと!」
「退職金」
「へ?」
「退職金。今まで散々お世話になったんだからお礼くらいさせろ」
「そんなの受け取るわけないでしょう!僕はそんなつもりで………」
「ならどういうつもりなんだ?どういうつもりで俺に仕えて、どういうつもりで急に辞めるなんて言い出すんだよ」
「………」
リッツェは何も答えない。
リッツェが本心から辞めたがっているわけじゃないと信じていたから説得して連れ帰るつもりでここまで来た。
それを『どうして』なんて。
この十年間、リッツェはどんな思いで俺の側にいたんだ?勝手にいなくなっても迎えにすら来てくれないと、本気でそう思っていたのなら………それは間違いなく俺の惰性が生んだ誤りだ。
「このお金は証だ。リッツェがこれまで俺を誠心誠意お世話してくれて、それが俺に伝わった証。リッツェの誠意に対する感謝なんだ」
「僕の誠意………」
リッツェは呆然と俺の言葉を復唱した後自分の胸元に手を当てて強くローブを握り締めた。そうして少しの間何かを深く考え込むと覚悟を決めたように顔を上げる。
「だったら尚更受け取れません。
僕のここにあるのは心臓でも、ましてや心でもないから。
坊ちゃま僕は………僕は、人形なんです」
それはきっと、リッツェにとって一世一代の告白だった。
「あ、うん。知ってるけど」
「だから僕に誠意なんて………え?今なんて?」
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