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第二章 少年期編
第七十一話 再・本物の無気力はお迎えに行く(12)
「リッツェ抱っこ」
「あれ?これ僕の耳がおかしいんですかね」
「はやく」
「はいはいはいはい」
『はい』が多いリッツェはなんだかんだ両手を広げて太腿の上に俺を乗せた。リッツェの肩に両腕を乗せて思う存分体重をかける。昔は胸の中にすっぽり収まっていたのに今は肩から上がはみ出してしまう。それでも変わらないこともあった。
「抱っこは久しぶりですけど………大きくなりましたねぇ」
リッツェが俺の背中に腕もを回して噛み締めるよう呟く。
声音だけで表情が想像ができた。溢れんばかりの温もりと慈しみが感じられて心臓を直接くすぐられたようなむずがゆさがあった。
これでよく心が無いなんて言えたものだ。
『無い』わけではないことは本人もきっと分かっている。しかし同時に人工的に作られた部分があるのも事実。
「魔法で分身とか作れないのか?」
「さっきから会話になってます?」
「作れないのか?」
「………得意な属性によりますね。僕は作れません」
「なら駄目だ」
「急な否定!?傷つく!!」
今では誰よりも安定感があるこの抱っこも俺が生まれたばかりの頃はひどいものだった。
ベッドで眠る俺を見守りながら育児書を開きぬいぐるみを使って練習していたこともあったっけ。
「分身できたらリッツェもリッツェに抱っこしてもらえるのにな。
知ってるか?リッツェの抱っこが一番あったかくて一番眠くなるんだぞ。俺は人一倍抱っこされてきたから分かる。心が籠ってないとこんな安心できる抱っこはできない」
「そう、なんですか………?」
そうだぞ。だから今も気を抜いたら寝そうなんだ。寝ていい状況じゃないのは分かっているが瞼が重くて重くて。多分今世界中の重力が俺の二つの瞼に集まっている。つまり俺は今世界を背負っているということで………
「坊ちゃま?寝てません?」
「寝てない」
危なかった。世界の重みに負けるところだった。
「………ふ、あはは!すごい、本当に一番眠くなるんですね!まぁ坊ちゃまはいつも眠そうですけど!
でも、もし僕に心があってもお金は受け取りません。この心が本物なら尚更。こうして会いに来てくれただけで十分です」
「チッ」
「ち!?」
「リッツェの浮気者!!大噓吐き!!」
もう怒った。ていうか屋敷にいる時から怒ってたんだった。忘れてたけど。
無気力の境地に至った冷静沈着な俺とは少しの間お別れだ。偶には感情的になって発散しないと!
リッツェの太腿から下りてさっきまで座っていた場所に戻る。胡坐をかいて腕を組み思い切り睨み付けるとリッツェは顔を青くした。
「そんなお行儀の悪い座り方したら駄目でしょう!」
「ふん。お世話係でもない奴の言うことなんか聞くもんか」
「………」
「傷ついた顔するな!俺の方が傷ついてるんだから!」
リッツェが目を丸くする。そんなまさか、とでも言いたげな表情は余計に俺の琴線を揺さぶった。
「リッツェの方こそ俺に心がないと思ってるじゃないか。突然置いて行かれて傷つかないはずないだろ。散々世界一とか抜かしといて………俺より魔塔の方が大事なんじゃないか!最低三股野郎!!」
「み、三股ぁ!?」
「神子様最高!!腹いてぇっ」
オーガスが後ろで爆笑している。人が真剣に怒っているというのに馬鹿にしやがって。後で本当にお腹が痛くなる呪いをかけてやろう。
「待ってください誤解ですよ!僕は魔塔より坊ちゃまの方が大事です!そもそも魔塔の方が大事ならとっくの昔に戻ってました。勿論ここも大切ではありますけど坊ちゃまとは比べ物にもなりません!」
「ハッ、口ではなんとでも言えるからな」
「信じてください!ていうかなんで三股?三つ目はなんですか?」
「そんなのヨル以外ないだろ。本当の主だもんな。ヨルに負けるならまだしも魔塔に負けるなんて………魔塔にはせいぜい六年くらいしかいなかったはずだろ!俺と過ごしたこの十年はなんだったんだ!」
「よ、ヨル様とのことまで知ってるんですか!?年数まで!?なんでそんな詳しいんですか!」
「それは言いたくない」
「言いたくないぃ!?じゃあもう僕から言わせてもらいますけどね、僕の核にはヨル様を害するものを排除する術式が刻まれてるんです!だから万が一にも坊ちゃまを傷つけないために………」
「それも知ってる」
「なんでぇ!?!?」
「言いたくない」
「くそう!!」
リッツェが悔しそうに床を殴った。
口喧嘩は先に暴力に切り替えた方の負けだと相場が決まっているので完全に俺の勝利である。あーすっきりした。もう十分だ。力を抜こう。
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