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第一章 幼少期編
第九話 本物の無気力は主人公に『無気力』を伝授する(7)
カーペットに座りエド先生に包帯を取り替えて貰っている最中。俺は身動ぎすることすら許されず欠伸を零すくらいしか出来なかった。
診察を受けている当人がこんなにも大人しくしているのに俺を抱っこして座っているリッツェとすぐ隣で怪我していない方の手を握っているユーリは二人して俺にしがみつき喚いている。
「もう二度と坊ちゃまから離れませんからね!たとえ世界一の美女に呼び出されたって目も向けません!」
最近忙しそうだと思ったら世界一の美女に弄ばれてたのか。あんまり貢ぎすぎないようにするんだぞ。
「ひっく、ぐすっ」
君はいつまで泣いているんだい。あれからもう五日は経っているというのに隙あらば大粒の涙を零している。そんなに泣いたら干からびるぞ。
魔力暴走というのは文字通り体内にある魔力が暴走して勝手に放出される現象だという。しかしその魔力が自身を傷付けることはないらしくユーリは無傷で済んだ。
それなのに俺より泣きじゃくっている。自分のせいで俺が火傷を負ったのが余程悲しかったようだ。
「順調に治ってきています。跡も残らないでしょう。ユリシス様も落ち着いてください。精神的な安定が魔力の安定にも繋がってきますから」
そうだぞ。そんなに毎日ビャービャー泣いてるから可愛いお目目が腫れ上がっているじゃないか。
「ルー痛くない?」
「いたーない」
「痛いんだぁっ!!わーん!ごめんね、ごめんねえええ」
痛くないって。動揺しすぎて理解力がいつもの半分以下になっとる。
「ユリシス様落ち着いてください」
「わーん!坊ちゃますみません!!僕が側に付いていなかったばっかりにー!!!」
「り、リッツェさんも。大丈夫ですから」
お前も泣くのかよ。ユーリに負けじと声を上げて泣くリッツェ。泣くのは別にいいんだけどお腹に回っている手に力を入れるのはやめて欲しい。指先よりお腹が痛い。吐きそう。
いつも冷静なエド先生もどうしたら良いか分からずアタフタしている。
どうしたもんか。リッツェは置いといて、ユーリの精神的ダメージは実際かなり深刻だ。
部屋の隅にあるテーブルを見ればそこには全く手が付けられていない料理が並んでいる。
この五日間ユーリはまともに食べれていない。そのせいですっかり身体も細くなってしまった。折角屋敷に来たばかりの頃に比べて肉がついてエド先生も喜んでいたのにこれでは元通りどころかマイナスになってしまう。
「エドしぇんしぇ、あれとって」
「果物ですか?」
「ん」
ユーリがここまで凹んでいる理由は二つある。
一つ目は言うまでもなく俺の指先の怪我。そして二つ目は今回の事件で俺が歩けることがバレてしまったこと。
今は怪我のおかげで過保護すぎるくらい過保護だが、怪我が治ったらもう二度と抱っこはしないとリッツェに宣言された。そのせいで俺が絶望しているのを見て余計罪悪感が湧いてしまったらしい。
エド先生は俺が食べると思ったのか実が柔らかいものを選んで怪我していない手に握らせてくれる。冷たそうに見える切れ長の瞳に『よし!食べろ!』という圧が透けている。ごめんね。食べるのは俺じゃないんだ。
果物をそのままユーリの口元に差し出した。首を横に振って拒否しても絶対に引いてやらない。
「けが、もうすぐなおるからだいじょーぶ」
「………」
頑固な奴め。
この俺が喋ってやってるというのに無視するなんて頭が高いぞ。というのは勿論冗談だがいつも俺の言葉には割と素直に従うユーリに無視されるのは悲しい。
エド先生もユーリの精神面にはかなり頭を悩ませていて今も深刻そうに眉間に皺を寄せている。因みにリッツェはまだ泣いてる。いい加減うるさいな。
「たべておっきくなって」
「………お腹空いてないもん」
嘘つけ。グーグー鳴ってるぞ。
「おーきくないと抱っこできない」
「抱っこ?」
「ん。ユーリが抱っこちてくれれば歩かなくてしゅむでしょ」
その瞬間やっとユーリの目が昼間の海みたいな輝きを取り戻した。よかったキラキラだ。余程俺の言葉が響いたらしくポロポロ涙を零しながら一口で全部食べてしまう。
リッツェが抱っこしてくれなくてもユーリが抱っこしてくれるなら百人力だ。なんたって小さい身体で必死に日向ぼっこ会場まで運んでくれた力持ちだからな。俺は途中で寝ちゃったけど。
エド先生はユーリが食べ始めたのを見てテーブルにあった料理を続々と此方へ持ってきてくれた。これまで抜いた分を補うかの如く食べ進めていく。取り敢えずこれで栄養不足は解決だな。たくさん食べてスクスク大きくなってくれ。
「うわーん!やだやだ!坊ちゃまを抱っこするのは僕の役目ですよ!略奪しないでください!!」
コイツは信じられないくらい役に立たないな。エド先生の爪の垢を煎じて飲ませるべきだ。
「やはりルシオン様はとても賢いですね」
エド先生は感心するように俺を見つめた。ユーリのはじめてのおつかいの時もそんなようなこと言ってたな。
悪いけど賢くはない。今は見た目が子どもだからそう思うだけであって、ある程度成長したら周りの子たちと何も変わらない平凡な青年になることだろう。
前世の記憶があるって言ったって手に職があったわけでもなければ異世界で活用できる知識を持っているわけでもない。一般市民が転生して異世界で大暴れ。なんてのは結局物語の世界だけの話なのだ。
「ルーも食べる?」
「………」
遠慮しておこう。噛むの面倒くさい。
「駄目ですよ。ルシオン様も食べましょう。これなら柔らかいですから」
「リッテ抱っこちて。おしゃんぽいく」
「もちろんです!いつでもどこでも抱っこいたします!」
「リッツェさん待ってください、リッツェさん!」
「ルー待って!僕も行く!」
俺はこうやってのんびり平和に生きていければ十分幸せだ。あー、抱っこっていいなあ。楽だわー。
診察を受けている当人がこんなにも大人しくしているのに俺を抱っこして座っているリッツェとすぐ隣で怪我していない方の手を握っているユーリは二人して俺にしがみつき喚いている。
「もう二度と坊ちゃまから離れませんからね!たとえ世界一の美女に呼び出されたって目も向けません!」
最近忙しそうだと思ったら世界一の美女に弄ばれてたのか。あんまり貢ぎすぎないようにするんだぞ。
「ひっく、ぐすっ」
君はいつまで泣いているんだい。あれからもう五日は経っているというのに隙あらば大粒の涙を零している。そんなに泣いたら干からびるぞ。
魔力暴走というのは文字通り体内にある魔力が暴走して勝手に放出される現象だという。しかしその魔力が自身を傷付けることはないらしくユーリは無傷で済んだ。
それなのに俺より泣きじゃくっている。自分のせいで俺が火傷を負ったのが余程悲しかったようだ。
「順調に治ってきています。跡も残らないでしょう。ユリシス様も落ち着いてください。精神的な安定が魔力の安定にも繋がってきますから」
そうだぞ。そんなに毎日ビャービャー泣いてるから可愛いお目目が腫れ上がっているじゃないか。
「ルー痛くない?」
「いたーない」
「痛いんだぁっ!!わーん!ごめんね、ごめんねえええ」
痛くないって。動揺しすぎて理解力がいつもの半分以下になっとる。
「ユリシス様落ち着いてください」
「わーん!坊ちゃますみません!!僕が側に付いていなかったばっかりにー!!!」
「り、リッツェさんも。大丈夫ですから」
お前も泣くのかよ。ユーリに負けじと声を上げて泣くリッツェ。泣くのは別にいいんだけどお腹に回っている手に力を入れるのはやめて欲しい。指先よりお腹が痛い。吐きそう。
いつも冷静なエド先生もどうしたら良いか分からずアタフタしている。
どうしたもんか。リッツェは置いといて、ユーリの精神的ダメージは実際かなり深刻だ。
部屋の隅にあるテーブルを見ればそこには全く手が付けられていない料理が並んでいる。
この五日間ユーリはまともに食べれていない。そのせいですっかり身体も細くなってしまった。折角屋敷に来たばかりの頃に比べて肉がついてエド先生も喜んでいたのにこれでは元通りどころかマイナスになってしまう。
「エドしぇんしぇ、あれとって」
「果物ですか?」
「ん」
ユーリがここまで凹んでいる理由は二つある。
一つ目は言うまでもなく俺の指先の怪我。そして二つ目は今回の事件で俺が歩けることがバレてしまったこと。
今は怪我のおかげで過保護すぎるくらい過保護だが、怪我が治ったらもう二度と抱っこはしないとリッツェに宣言された。そのせいで俺が絶望しているのを見て余計罪悪感が湧いてしまったらしい。
エド先生は俺が食べると思ったのか実が柔らかいものを選んで怪我していない手に握らせてくれる。冷たそうに見える切れ長の瞳に『よし!食べろ!』という圧が透けている。ごめんね。食べるのは俺じゃないんだ。
果物をそのままユーリの口元に差し出した。首を横に振って拒否しても絶対に引いてやらない。
「けが、もうすぐなおるからだいじょーぶ」
「………」
頑固な奴め。
この俺が喋ってやってるというのに無視するなんて頭が高いぞ。というのは勿論冗談だがいつも俺の言葉には割と素直に従うユーリに無視されるのは悲しい。
エド先生もユーリの精神面にはかなり頭を悩ませていて今も深刻そうに眉間に皺を寄せている。因みにリッツェはまだ泣いてる。いい加減うるさいな。
「たべておっきくなって」
「………お腹空いてないもん」
嘘つけ。グーグー鳴ってるぞ。
「おーきくないと抱っこできない」
「抱っこ?」
「ん。ユーリが抱っこちてくれれば歩かなくてしゅむでしょ」
その瞬間やっとユーリの目が昼間の海みたいな輝きを取り戻した。よかったキラキラだ。余程俺の言葉が響いたらしくポロポロ涙を零しながら一口で全部食べてしまう。
リッツェが抱っこしてくれなくてもユーリが抱っこしてくれるなら百人力だ。なんたって小さい身体で必死に日向ぼっこ会場まで運んでくれた力持ちだからな。俺は途中で寝ちゃったけど。
エド先生はユーリが食べ始めたのを見てテーブルにあった料理を続々と此方へ持ってきてくれた。これまで抜いた分を補うかの如く食べ進めていく。取り敢えずこれで栄養不足は解決だな。たくさん食べてスクスク大きくなってくれ。
「うわーん!やだやだ!坊ちゃまを抱っこするのは僕の役目ですよ!略奪しないでください!!」
コイツは信じられないくらい役に立たないな。エド先生の爪の垢を煎じて飲ませるべきだ。
「やはりルシオン様はとても賢いですね」
エド先生は感心するように俺を見つめた。ユーリのはじめてのおつかいの時もそんなようなこと言ってたな。
悪いけど賢くはない。今は見た目が子どもだからそう思うだけであって、ある程度成長したら周りの子たちと何も変わらない平凡な青年になることだろう。
前世の記憶があるって言ったって手に職があったわけでもなければ異世界で活用できる知識を持っているわけでもない。一般市民が転生して異世界で大暴れ。なんてのは結局物語の世界だけの話なのだ。
「ルーも食べる?」
「………」
遠慮しておこう。噛むの面倒くさい。
「駄目ですよ。ルシオン様も食べましょう。これなら柔らかいですから」
「リッテ抱っこちて。おしゃんぽいく」
「もちろんです!いつでもどこでも抱っこいたします!」
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俺はこうやってのんびり平和に生きていければ十分幸せだ。あー、抱っこっていいなあ。楽だわー。
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