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第一章 最強様に目をつけられました
第十九話 似た者(1)
カーテンから差し込む月明かりに灯された広い寝室に秒針が進む無機質な音だけが響いている。
そんな中ダブルベッドの真ん中で布団にくるまって座っているととてつもない孤独感に襲われた。
兄が用意してくれたマンションの最上階の一室は一人で暮らすには全てが大きくて、贅沢だと分かっていても居心地が良いとは言えない。
ふと、零の家のあの木の香りが恋しくなった。
三人でホイップがたっぷりのったゼリーを食べた後零はご丁寧にマンションまで送ってくれた。
意外なことに文句の一つも言わないで送り届けてくれて、一度頭を撫でた後すんなり踵を返してしまった。
実はその腕を掴もうと2、3歩背中を追ったんだけど、結局背を向けて一人で部屋に入った。
布団を巻いたままベッドに横になる。
いつもだったら人肌恋しさに遊び相手を探しに外へ出ていたのにそれもできない。
「………ねむい」
眠気を感じるのに瞼を閉じても眠れなくて、時間が過ぎるのを静かに待った。
速く朝にならないかな。声に溢れたあの場所に行きたい。
✽✽✽
「お前最近授業寝すぎじゃねえか?」
「そんなことない」
机に突っ伏したまま聞こえてくる淳希の声に適当に返事をする。
「そんなことあるよ!昼休みも寝てるじゃん!」
「ずっとフラフラしてるし…病院行く?」
響と奏の声も聞こえるけど応える気力がなくて首を横に振った。
体調は悪くない。
ただ、零達の家に行ったあの日から時折やって来る寝付けない日々がまた始まっただけ。
よくあることだけど零の出した禁止令のせいでどう対処したら良いのか自分でも分からず、夜の時間を持て余していた。
学校に来るのをやめればいいだけ。
そうすれば迷惑をかけることはないし今までの生活に戻るだけだ。
なのにどうしてこんなにもここに執着しているんだろう。
「漣!!」
休み時間に教室にいない筈の人に名前を呼ばれて顔を上げると、ユキチ先生が入口から手招きしている。
「げ」
淳希達が分かり易く顔を歪めた。
「ちょっと来い」
「………ヤダ」
これは絶対怒られるやつだ。心当たりがありすぎる。
助けを求めて周りを見渡すと見事に全員自分の席に戻っていた。
薄情者め!!
「いいから来いって」
「もう次の授業始まるし!」
「どうせ聞いてねえだろ。ほら、怒んないから来なさい」
これ以上言い合っても意味ないので渋々ユキチ先生についていく。廊下を歩いている間に授業開始のチャイムが鳴ったのに、先生は全く気にしていない様子だ。
「最近眠れてねえのか?」
「学校で寝てるから寝れてる」
「机で浅く眠ったって疲れは取れないだろ。転校してきて慣れないことばっかなんだからベッドでしっかり寝ないと駄目だ」
「………」
正論を言われたって黙ることしかできない。
そんなことは俺だって承知の上で、どうにもできないから困ってるんだ。
そう言い返すのも面倒で、頬を目一杯膨らませた。
「つーわけで、寝ろ」
「………俺体調悪くないよ」
ユキチ先生が連れてきたのは保健室だった。
二つ並んだベッドの片方を指差して、ユキチ先生は上から目線で言い放つ。
「その顔色で何言ってんだ。直ぐ保健室の先生来るから、取り敢えずここ使っとけ」
俺が大人しく寝転んだのを確認した後、ユキチ先生はベッドを囲うカーテンを閉めて保健室を出て行った。
「変なせんせえ」
授業中に眠ることを勧めるなんて教師がやっていいんだろうか?
あまり嗅いだ事のないツンとした香りに違和感を覚えながら瞼を閉じる。
先生もいないし一人になってしまったから眠れないと思っていたけど、グラウンドから聞こえてくる愉快な声は人の気配を感じるには十分で、久々に心地良い眠気が訪れた。
―――よりにもよってそんなタイミングで、聞き覚えのある甘えるような人懐っこい声が響き渡る。
「せんせ~、ベッド貸してー………っていないじゃん」
最近は朝から登校していたし放課後も生徒会室に来ていなかったから全然会ってなかったけど、まさかこんなタイミングで遭遇するとは。
とはいえ相手にはカーテンで隠されているベッドに誰がいるかなんて分かるはずないので、このまま眠りについてしまおう。
「あれ~?瑠夏じゃん」
………このカーテン、生徒が勝手に開けていいものなん?
「茜、体調悪いの?」
「ううん。眠いだけ」
どうやら眠いという理由で保健室に来るのはこの学校ではよくある事らしい。
正直折角の久々の安眠を邪魔されたのは悔しいけど、ずっと言いたいことがあったので丁度良かった。
「茜、この間はごめんね」
「ん~?ああ、いいよいいよ。抱き締めたのに拒否されたのは悲しかったけど、オレは心広いから」
「いやそれは絶対俺悪くない。
そうじゃなくて、ハナちゃんのやつ!」
「あー、それねー」
茜は態とらしく今理解した風に振る舞って、そのまま自然とベッドの端に腰掛けた。
「瑠夏ってさあ、やっぱり馬鹿だよねえ」
「何急に」
「だってさ、それ本気で言ってるんでしょ?」
『それ』とは謝罪のことだろうか。だとしたらその通りなので無言という肯定を返す。
「オレ知ってたんだよ?ハナちゃんが面倒臭ーい男と付き合ってるの。瑠夏が問題に巻き込まれるって分かってて何にも教えてあげなかったの。だから瑠夏が謝ることなんてないんだよ」
ニコニコ、ニコニコ。
何が楽しいのか茜は常備品のように笑顔を貼り付けている。
どうしてそんな風に自分を悪者にして話すんだろう。余程俺に嫌われたいのかな。
何となくその笑顔を崩したくなって、手を伸ばして茜の頬を抓った。
「バーカ。そんなの関係ないし。茜にどんな思惑があったとしても、最終的には助けてくれたじゃん。それに対して謝っただけ。他のことなんてどうでもいい、し………」
一体どういう流れでこうなったのか。
話を遮るみたいに、茜の唇が俺の唇にそっと触れた。
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