魔女見習いともふもふ黒猫騎士は、今日も呪いと奮闘する

琴乃葉

文字の大きさ
12 / 31

呪いの強さは大きさに比例しない.1

しおりを挟む

「ふえっ~怖かったです」

 鼻をずずっと啜りながら、ティナはお城の敷地内にある騎士団の倉庫へと向かっている。思い出したのかちょっと涙目だ。

「俺も怖かった」
「指輪の呪いが生優しく見えた……リアム、おまえも気をつけた方がいいぞ。これを機に女遊びからは足を洗った方が良い」

 ボブが意味ありげな顔でティナを見る。
 はて、と首を傾げれば、恐る恐るといった風に聞いてきた。

「解呪できる者は呪いをかけることもできると聞いたが本当なのか」
「はいできますよ。むしろかける方が簡単です。今まで複雑な呪いを沢山解いてきましたから、知識は豊富ですし、やるなら未だかつてないほど解呪が困難なものをかけたいですね」

 目指すは師匠でも解けない呪い、と思わず拳を握ればヒッと言う悲鳴が二人分聞こえた。

「それにしても、また人が多くなりました。目玉が怖いのでリアム様、手を繋いでください」
「あ、あぁ。って、ここでか?」

 三人が歩いているのは城の中庭。
 ベンチで昼食を摂る人達がティナをチラチラ見てくる。普段着姿が珍しいだけではない、リアムが女性を連れて歩いているからだ。

「リアム、お前の顔が無駄によいせいだ」
「だとすれば、この状況で手を繋げば余計に目立つだろう」
「いいから、ほら。ティナちゃんが緊張で立ち止まったじゃないか」

 無遠慮に見てくる目玉に耐えきれず、ティナは唇を尖らせ下を向いている。
 すると、すっと手が伸びてきて、握りしめていた手を引っ張ってくれた。そのまま再び歩き出す。

「リアム様、早いです」
「それぐらいは妥協してくれ」

 半ば引っ張られつつ、斜め後から見上げたリアムの耳が赤い。どうしたのかなと、思わないではないけれど、ひとまず手のひらから感じる呪いに安堵し、ティナ達は早歩きで中庭を突っ切った。



 持ち込まれた遺産は、今は使われていない旧騎士倉庫にあった。
 大砲や甲冑、その他諸々を保管していたそこは平屋作りだけれど高さがあり、作りもしっかりしている上に鍵もかかるので仕舞うのにちょうどよかったらしい。

 騎士団が遺産整理を任されているのは、甲冑など重い物が多く力のある騎士が適任と判断されたから。
 
 倉庫に近づくにつれ、顔見知りの騎士が増える。当然向こうも気づき、話しかけようとしては、リアムが手を繋いでいることに驚き立ち止まる。

「……ティナ、ここで手を繋ぐのは逆に目立つと思うのだが」
「今手を離されたら私は逃げます」
「……分かった」

 気まずそうに頬を赤らめ眉間を指で押さえるリアム。
 ヒューとか、おぉ、とか声が飛び交うのがさらにティナの緊張を煽り、握る手に力が入るという悪循環が起きる。
 沢山の、それも屈強な男性の目玉を恐れるティナにとって、今や天使の呪いは暗闇に射す一筋の光明だ。

 しかし、流石に倉庫に入る時には手を離した。リアムにしてみればこれから上司の第三騎士隊長に会うのだ、女性と手を繋いだまま任務報告なんてできやしない。

 倉庫の中にも、もちろん騎士がいた。密度は外以上。
 それが瞬間キャベツ畑に変わる。言うまでもなくティナの仕業だ。
 たまらずリアムが笑い出した。

「次はキャベツか。おい、頭の方が白くなっているのがいるがあれはどうしてだ」
「あの体格は……ほら、年配騎士のあいつだ」
「ああ、では毛がないとああなるのか」

 ははは、と笑いなだら、あっちは虫食いだの、あれは形がいびつだの、言いたい放題である。
 しかし、背後から掛けられた声に、ふたりはヒッと笑みを吞み込んだ。

「おい、お前達何を笑っている」
「えっ、そ、の声はレオン隊長! 失礼いたしました。呪いを解く魔法使いを連れて参りました」

 二人はピシッと敬礼をした。
 ひと際大きく立派な体格をしたキャベツがそこにいる。

「そうか、そちらが件の魔女殿か。ここにいるということは王太子殿下の呪いは解けたのだな」
「はい。しかも、二度と浮気はせず政務に取り組むと宣言されておりました」
「うん? ということはあの女癖の悪さとサボり癖も呪いだったのか?」

 いったいどういうことだと眉間に皺を寄せるキャベツが渋い。リアムがかいつまんで説明すると、レオンは目を大きくしてティナを見た。

「これで殿下が心を入れ替え名君になれば、ティナは国をも救ったことになるな」
「まさしく救世主ですね」

 リアムが笑いを堪えながら頷く。
 レオンは、ティナに向かって大きな手を出してきた。戸惑いつつそれを握り返す。

「かなり数があるので時間がかかると理解している。無理のない範囲で進めてくれ」
「はい、ありがとうございます。それでは細長い布を用意していただけますか? まずは呪われている品とそうでないものを分けます。触れば分かりますが、これだけあると一日では難しいと思います」
「分かった。昼めしは誰かに届けさせよう。リアムはティナの補助を頼む。それからボブは医務室から包帯を持ってこい。それを切ったものを布の代わりに使おう」
「承知しました」

 ボブは敬礼すると倉庫から出て行く。レオンもやりかけの仕事があるとかで、遺産の山の向こうへと消えていった。
 
 ティナは改めて倉庫内を見る。遺産は貴金属や甲冑、骨董品と種類も豊富で多岐にわたっている。

「侯爵家の別荘があった森は、コーランド伯爵領のどのあたりですか?」
「領地の北だ。巷では呪われた森と言われているらしい」
「その森なら聞いたことがありますが、そんな場所に城なんてありましたでしょうか」
「密猟者が森で迷い偶然見つけたそうだ。それで別荘の中にあった遺産を内密に隣国に持ち出そうとしたのを国境警備の衛兵が見つけ、絞り上げたら白状したらしい。で、国王が伯爵に正式に発掘を命じた」

 国王命令だったこともあり、遺産の半数近くは国の博物館に保管されることとなったらしい。
 だからこんなに量が多いのかと納得する。

「それにしても、コーランド伯爵はよく文句を言わなかったな」
「文句を言わない代わりにあえて呪いの品ばかりを送りつけてきたのかも知れませんよ」

 リアムの問いにティナが呆れながら答える。
 この国で魔法を使える人間は限られているけれど、それに近い能力を持つ人は少なからずいる。とは言っても勘が鋭い程度で詠唱や魔法陣を描くことはできない。

「コーランド伯爵家には昔から魔力持ちが生まれることが多いですから。誰か呪いを感じられる人がいるのかも知れませんね。その人が呪われた品を王都に送っている可能性はあると思います」
「やけに詳しいんだな」
「……魔法使いは群れませんが、情報共有はしていてそこそこ仲がいいんですよ」

 魔法で手紙のやり取りをするのは日常茶飯事だし、たまには会ってお茶ぐらい飲む。
 一口に魔法使いといっても得意分野はそれぞれだから、手に負えない依頼は助け合って解決することもあるのだ。

 だけれど、ティナはそこまで説明しない。この話題はもう終わりにしたいところだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...