魔女見習いともふもふ黒猫騎士は、今日も呪いと奮闘する

琴乃葉

文字の大きさ
13 / 31

呪いの強さは大きさに比例しない.2

しおりを挟む

「では、あちらの端から順に見て行きます」

 弾む声でスキップしながら倉庫の右奥へと向かうと、嬉々として遺産を手にしていく。

「これはいいですね。あっ、こちらも! これなんてなかなかどうして」

 わぁ、とかきゃぁ、とか嬌声を上げながらティナがうっとりと瞳を潤ませる。なんだろう、蕩けるような顔が妙に色っぽい。そうしているうちに籠に包帯を沢山入れたボブが戻ってきた。

「……ボブ、俺がティナに遺産を手渡すから、お前は印を付けてくれ」
「ふーん。俺にはあの顔、見せたくないってか。お前、一晩中あの顔を眺めていたのか、面構えがいいってだけで人生ずるいだろ」

 眺めていたのは寝顔。天使のようにすやすや、寝息が髭をくすぐるのをじれじれしながら動けずにいた。なんて、ことは言えないので、リアムは無言を返事とした。
 ボブはチェッと舌打ちひとつ。そのあとは黙々と印を付けていく。

 お昼を随分過ぎたところで、やっとレオンが差し入れを持ってきてくれた。朝が早かった三人の腹が、それを受け取りながらぐうっとなる。遅かったじゃないかという抗議の声である。

 レオンの後には複数の騎士。選別が終わり、呪われていないと分かった遺産は城の地下倉庫に保管され、倉庫は解呪の作業場になるらしい。
 
 三人は、運び出し作業の邪魔にならぬよう倉庫の外に出る。
 近くにある大木の下に木箱をひっくり返して机にし、焼きたてのパンと、ベーコンとじゃがいもの串刺し、珈琲を並べる。
 少し伸びた草の上に座ろうとしたら、リアムがティナのためにハンカチを敷いてくれた。

「汚れてしまいます。自分のがありますから」
「それだとティナのハンカチが汚れるだろう、いいから座れ」

 いいのかな、と思いつつ腰を下ろすティナ。それをニヤニヤ見ながら、場所を移動しようとするボブをリアムが引き止める。

「いやいや、どう考えてもお邪魔虫だろう」
「虫がいるのですか? 魔法でピッてしますよ?」
「ティナちゃん、発言が怖いんだけど」
「ビッ、の方がよいでしょうか?」

 ティナが指先から小さな稲妻を出すと、二人はひっっと身を仰反らせた。

「そんなこともできるんだな」
「大した威力はありませんが。得意なのはやはり解呪です」

 山で育ったので、害虫、害獣の類はしょっちゅう出てきた。それらを退治したり、捕まえたりぐらいならできる。結局ボブも腰をおろし三人は食事を始めた。

「そういえば、今、遺産に関わっている第三騎士団の方々は、普段何をしているのですか?」
「俺もボブも町の警邏を主に担当している。あとは来賓が来るときなんかは護衛の応援に駆り出されるし、高価な物の輸送の護衛なんかもしている。ま、下っ端のなんでも屋だ」
「だから遺産の担当なんかになったんだろうな」

 ははは、と乾いた笑いをしつつ、リアムは串刺しを頬張る。

「それにしても、思ったより遺産が多いな」
「それに、呪われた品の割合も高いです」
「コーランド伯爵家が代々魔力に準ずる力があるなど初耳だ。ボブ、お前の家は俺と違ってずっと貴族なんだから何か知っているんじゃないか?」

 ボブは、ベーコンを咥え串から抜くとモグモグと咀嚼しながら宙を見る。

「そう言えば曽祖母が、コーランド伯爵家の娘の占いはよく当たるって生前言っていたような」
「それはあり得そうですね。それに今まで森の調査が行われなかったのは、そこから嫌な気配を感じていたからかも知れません」

 話しながら、ティナはポテトに塩とブラックペッパーを沢山振る。
 ティナの魔力量で緻密な作業を続けるのはかなりの集中力が必要。魔力切れは起こさないけれど、精神力には限界がある。要するにちょっと眠い。

(睡眠不足にこれだけ大量の選別はきついわね)

 込み上げる欠伸を噛み殺しつつ、ポテトを頬張る。お腹が膨れたせいか、さらに睡魔が勢いを増した。しまった、悪循環だ。

 そんなティナの様子を見たリアムが気遣わしげに声をかける。

「大分疲れているようだが、残りは明日にするか? 無理はしなくていい」
「ありがとうございます。そうですね、残りの選別は明日以降でもいいですか?」
「もちろんだ。顔色が悪い、温かい飲み物を用意しよう」

 立ちあがろうとするリアムをティナが制する。
 半分残っていた珈琲に視線を落とすと、冷めたはずのカップから湯気が立ち上った。

「凄いな」
「お二人とも温めますか? これぐらい疲れていても平気です」

 ティナは二人のカップにサッと視線を走らせ、同じように温め直した。

「ありがとう。では、これを飲んだら送っていくよ」
「私もそうしたいのですが、そういうわけにもいかないのです」

 ティナがカップを両手で包み、はぁ、とため息を一つつく。

「続きの作業は明日するんじゃないのか?」
「選別はそうします。でも、今日中に解呪しなきゃいけない遺産が一つあります。あれは物騒ですから死人が出るまえにやっちゃいましょう」

 死人と聞いて二人の顔が分かりやすく青ざめた。ティナがニコニコと選別していくものだから、どれも大した呪いではないと高を括っていたのだ。

「俺、その呪いの品触っているよな」
「俺は印をつけたはず」

 二人は自分の両手を広げてまじまじと見るが、もちろんいつもと変わらない。

「ちなみに品は何だ」
「剣です。この国ではあまり見ない緩く弧を描いた、錆びたものですが覚えていますか?」
「ああ、柳葉刀か。確かにあれは不気味だった。見るだけでもこうぞわぞわと……」 
「の隣にあった兎の置物です」
「……」

 ぶるっと震えて、両手で自分の腕をさすっていたリアムは、そっと手を離し膝に乗せた。

 ちょっと思い出してみるも、そんなものあったかな、と覚えがない。ボブを見れば同じように首を傾げている。
 
「今回は解呪するんだよな。トニーから聞いたが、天使像は呪いが可愛いから持って帰るんだろう」
「天使像とあれは別物です。あんな恐ろしいもの私だってお断りですよ。何か勘違いされているようですが、私だって人を害する呪いは容赦しません」
「黒猫は困っていたぞ」
「うっ、それは。天使像あの子は言えば分かる子ですから」
「その違いは何なんだ」

 呆れ顔のリアムに対し、ティナは全然違うと熱弁を振るうも、その熱意が伝わることはもちろんない。
 ティナがコーヒーを飲み終わったのを確認して、リアムが「そろそろ行くか」と声を掛けた。

「ちょっと待て、俺はまだ飲んでいる」
「男で猫舌は可愛くないぞ」
「熱すぎましたか。すみません、冷やします」
 
 ティナの申し出に、ボブは大丈夫だと頭上で手を振り、眉根を寄せながら残りを喉に流し込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~

ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。 絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。 アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。 **氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。 婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...