異世界細腕奮闘記〜貧乏伯爵家を立て直してみせます!〜

くろねこ

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少女期~新しい日々と、これからのあれこれ~

15

ミーティアはベッドで寝返りを打つ。正直、目が冴えて眠れる気がしなかった。

王子のことはともかく、ジルベルトが王城へ遊びに出向いていたことも知らなかったし、王女のどちらかと婚約する寸前だったことも寝耳に水だった。知らなくてよかったことを知るというのは、あまり気分が良くないものだ。
それに、ジルベルトがハイスペックである事実を目の当たりにして、今までは対等のつもりでいたけれど、やはり自分とは違うのだと落ち込んでもいた。

一番身近であると思っていたのは、自分だけだったのかもしれない、そのことで一抹の寂しさを感じたんだろうとミーティアは自己分析してみる。誰しも、他人が知らない一面があることは、前の人生でもよくわかっていたことなのだ、今更だわ、とため息を吐く。それにしても、どうしてこう沈んでしまうのか、自分で自分の気持ちを持て余していた。

(結局、ダンスを教わることも出来なかったし、本末転倒じゃないの)

そうか、ダンスを教われなかったことが原因かと少々強引に結論付けたミーティアは、明日にでもクラス担当のジェファーソン先生に相談してみようと思い立つ。そもそも生徒同士で解決しようとするほうが間違っていたのだ、明日の授業が始まる前に、先生に相談しよう、そう考えたら幾分気持ちが上向いた気がする。

(さぁ、早く寝なくちゃ)

ミーティアはもう一度寝返りを打つと、ぎゅっと目を閉じた。

浅い眠りを繰り返しながら、朝が訪れる。いつも通りにナンシーの朝の挨拶を聞いて起き出したミーティアは、いつも通りに支度をし、いつも通りに朝食を食べに食堂へ向かう。
過ぎた事をいつまでもウジウジ考えていても仕方がない、それよりは試験に向けて、やれることをやるほうがよほど建設的だわ、と思考を切り替え、朝食を終えて自室へと戻る。

ミーティアは早めに自室を出ると、教職室へ向かった。教職室の扉をノックして、返事を待って扉を開ける。先生方を見回すと、ジェファーソン先生は机の上で何か書き物をしていた。

「おはようございます、ジェファーソン先生」
先生の傍らに立ち、挨拶をすると、よほど集中して書き物をしていたのか、驚いたようにこちらを見た。

「あ、ああマッコール伯爵令嬢、おはよう。朝からどうしたのかな?」
「先生にご相談があって参りました」
「相談?」
「はい、実技のダンスについてです」
「ダンス?僕は歴史学担当だけど……」
「ええ、存じております。ですが、何か困ったことがあったら相談にのると仰って下さったので、お言葉に甘えようと思いまして」
ミーティアの言葉に、ようやく合点がいったのか、ジェファーソン先生は大きく頷いた。

「そうだったね、それでダンスの実技がどうしたのかな?」
「恥ずかしながら、私、学園に入るまでダンスを教えて頂いたことがございません。ですが、私は奨学生でもあります。試験で落第を取ることは出来ません。それで、先生にご相談なのですが……」
「ちょっと待ってください、まさか、僕に教えて欲しいと言う訳ではないよね?」
「いえ、そういう訳では……」
ミーティアはジェファーソン先生に教えて欲しい訳ではない、ただ、他に相談出来る相手がいないからというだけだ。ジルベルトに相談するよう言われていたが、今のミーティアはジルベルトに相談することだけは嫌だった。何かに負けた気がするとさえ思っていたのだ。

ミーティアの言葉を聞いて、ジェファーソン先生はしばらく考え込んでいたが、すっと席を立つとダンス担当の先生の所へ行き、何事かを話していた。ミーティアはその様子をじっと見ていたが、しばらくするとジェファーソン先生がこちらへ来るようにと促したので、ミーティアはダンス担当のクラリス先生の席に近付いた。

「おはよう、ミーティア嬢、ダンスを習いたいのですって?」
「おはようございます、クラリス先生。はい、奨学生である以上、実技で落第を取る訳にはまいりません」
「そう……では、授業が終わったらダンスクラブへいらっしゃい」
「ダンスクラブ、ですか?」
「ええ、秋になると学園祭があるのはご存知?」
「はい、伺っております」
「そこでダンスを披露するために、活動しているクラブがあるの。私が顧問を務めているのだけれど、そこで一緒に練習してみたらどうかしら?」
クラリス先生の申し出はとても魅力的だったが、ほとんどダンスを踊ったことがないミーティアが入ることで、他の生徒の迷惑になるのは本意ではない。

「私のような初心者が入って皆さんにご迷惑ではありませんか?」
「最初は皆初心者ですもの。それに、奨学生の生徒もいるから、気にしなくていいと思うわ」
「あ、ありがとうございます!」
「授業が終わったら、私の所へいらっしゃい。クラブへ連れて行ってあげるわ」
「はい、ジェファーソン先生、クラリス先生、ありがとうございました」
ミーティアは軽く膝を折って挨拶すると、教職室を出た。

最初から先生に相談すればよかったのだ、廊下でトビアスに相談しようとするから……起こったことは仕方ない、これからに活かせばいいのだと自分を納得させたミーティアは、教室の扉を開けた途端、ぎょっとした。

いつもギリギリ、下手をすると授業に遅れてくることのほうが多い、セドリック王子が早々に席に座っているではないか。しかも、朝も早く、他の生徒はまだ誰も来ていない時間だ。まさか、昨日の今日で無視をするわけにもいかないだろう、ミーティアは軽く膝を折って朝の挨拶をし、王子の視線が窓の外に向いたままだったので、ガン無視かよ!と胸の内で悪態を吐き、自分の席に座ろうとした。

「昨日のことだがーーー」
……キノウノコトダガ……と耳に届いたような気がしたのだが、気のせいだろう、うん、ミーティアは席に座ると、手提げから今日必要な教科書を取り出す。すると、王子が立ち上がった気配がした。ミーティアはそれでも黙々と文房具を取り出して、朝の予習をしようとノートを広げていた。すると、前の席の椅子に王子が座ったので、驚いて顔を上げる。

「聞こえなかったのか?」
「……はい?」
ミーティアにとっては『俺の嫁』と公言して憚らないほど、こよなく愛した王子だったが、昨日までの一連の出来事で、すっかり冷めきっていた。寧ろ、ミーティアの愛した王子とは似て非なる人物と結論付けたと言ったほうが正しい。

王子は氷のような一瞥をミーティアに投げてきたが、受け止める気などさらさらないミーティアは、さっと目線を下げる。
「もう一度言う。昨日の事だが、お前は何も見なかった、そうだな?」
何を言ってるんだ、この王子は。ミーティアは呆れて物も言えなかった。自分で蒔いた種だろうに、刈り取る事も出来ないのかと呆れ返る。この際、不敬だと思われてもいいとミーティアは王子の絶対零度の視線を堂々と受け止めた。

「私にダンスを教えると仰ったにも関わらず、王女殿下に試されていらしたことでしょうか?」
氷の王子、セドリックの目に、冷たい炎が宿ったように見えたが、ミーティアは恐れることはなかった。

「……僕を敵に回すとは、いい度胸だな」
自分の思い通りにならないからと今度は恫喝するのか、とミーティアの目にも怒りの炎が見え隠れする。

「殿下ほどの権力をお持ちの方を敵に回すなど、ご冗談にも程がありますわ。たかが伯爵家の娘一人に、そのような物言いをされるとは、殿下のお力をそのような事にお使いになられることに驚きを禁じえませんわ」
「……どういう意味だ」
「どういう意味も何も、そのままの意味にございます。どうか、殿下のお力は正しく民をお導き下さることにお使いくださいませ。臣下の一人として、お願い申し上げます」
ミーティアはそう言うと、もう話すことは何もない、と教科書を広げ、ペンを手に持つ。
その様子を王子はじっと眺めていたが、結局何も言わずに席を立った。その様子を従者であるコーディは後ろの席近くに控えて見ていたが、肝の座った少女だなと驚いていた。ただ、王子の手前、そんな様子はおくびにも出さなかった。


*****

授業が終わると、ミーティアは急いで教職室の扉をノックし、クラリス先生の元へ歩いて行った。膝を折って挨拶すると、クラリス先生が案内するわと立ち上がる。

先生に連れられ、二階食堂へ繋がる階段を上がり、更に上階へと壁伝いに設えられている階段を上って行く。最上階の扉へ着くと、本来なら鍵がかかっているはずの副寮監室の扉を開け、最上階のある部屋へ案内してくれた。

「ここは、以前は王族の方々もお使いになっていた部屋なの。けれど、今は寮生もあまりいないので、ダンスクラブで使わせていただいているのよ」
「そうだったんですね」
てっきり、今でも寮生がいると思っていたミーティアは、案内された部屋を見回すと、王族も使っていた部屋らしく、以前は居間だったと思しき部屋は、ミーティアの部屋の軽く三倍近くはありそうだった。

「もう少ししたら、クラブの面々が来ると思うわ。皆に紹介するわね」
「ありがとうございます、クラリス先生」

ーーークラリス先生にダンスについてあれこれ話を聞いているうちに、一人、二人とダンスクラブに所属している生徒が入ってきた。七、八人集まったところで、先生が皆にミーティアを紹介してくれる。

「今日からダンスクラブに入ることになった、ミーティア・マッコール嬢よ。ダンスは習ったことがないそうだけれど、真面目にダンスを習いたいと私に言いに来てくれたの、だから、皆も親切に教えてあげてほしいわ」
「わかりました」
「はい、先生」
それぞれ、了承の返事をしてくれ、ミーティアとしてもほっとしたところに、もう一人の生徒が入ってきた。

ーーーえ、まさか……。

「遅れてすみません!」
「あら、フランツ・ダンドルトン、また遅刻?」
クラリス先生の声でどっと笑いが起きる。

濃い栗色の髪に琥珀の瞳。少し小柄だけれど、彼の笑顔は太陽のように暖かで、眩しい……間違いない、あの『フランツ』だ……。

フランツは頬を指で掻きながら、からかわれて恥ずかしいのか、うっすらと頬を染めている。

「フランツ、紹介するわね。ミーティア・マッコール嬢。今日からこのクラブの一員よ」
フランツはミーティアを見ると、その太陽のような暖かい笑顔を向けた。

「皆様、初めまして、ミーティア・マッコールです。どうぞよろしくお願いします」
ミーティアは軽く膝を折って挨拶をすると、温かい拍手をしてくれる。

「さぁ、ちょうど試験も近いことだし、皆、練習よ」
クラリス先生の一声で、皆カップルになる。

「ミーティア嬢、最初はここで見ていてくれる?」
「はい、先生」
ミーティアは動揺しつつも、先生の言葉に頷いた。

まさか、ここでフランツに会えるとは……。ダンドルトン男爵の令息、フランツ。真っ赤になりながら、ヒロインに花束を贈るフランツのスチルは、ニヤニヤしながら見たものだった。

(……はっ!駄目だわ、私はダンスを見なくちゃいけないのよ!)

ミーティアは頭を軽く振ると、思考を切り替える。自分は試験の為にダンスを教えてもらいに来たのだ、ここで他に気を取られては落第してしまう!とそれは真剣に、皆のダンスに見入ったのだった。





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