極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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思いがけない告白

学園の王子様

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 私、湖宮結衣こみやゆいの日常はとても平凡。

 優しくて大好きなお母さんとお父さん、お兄ちゃんと四人暮らしをしてて、学校でもない不自由ない生活を送っている。

 大事な友達だっているし、これからも変わらず平凡で幸せな生活をするものだと思っていた。

「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」

 ……――あんなことが、あるまでは。





「結衣っ、おっはよーっ!」

「おはよう紗代ちゃんっ。今日も元気だね……!」

「そりゃあ今日も、かわいいかわいい結衣を守らなきゃなんだから、あたしは元気でいなくちゃダメだもんっ。あったりまえよ!」

 朝一番に私のところまで来て元気な姿で挨拶してくれる女の子は、大親友の金森紗代かなもりさよちゃん。

 いつもこんな感じで元気いっぱいで、見てるこっちまで元気をもらえちゃう。

 でも、“守らなきゃ”って……どういう意味なんだろう、いまいちピンとこない。

 うーんと不思議に感じつつも、スクールバッグの中から教科書やノートを取り出す。

 まだ朝は早くて、この時間は静かだから好き。

 遠くからスズメの可愛い鳴き声も聞こえてきて、いい朝だなぁ……なんて思った。

「結衣~? なーに一人の世界に入ってるの~?」

「……はっ、ごめんね紗代ちゃんっ。ちょっとぼーっとしちゃって……」

「結衣ってほーんとマイペースなところあるよね~。ま、そんなとこも可愛いからいいんだけどっ。」

「ふふっ、お世辞はいいよ~。」

 朝から紗代ちゃんに気を遣わせちゃって、なんだか申し訳ない。

 ……私が可愛いなんて、天と地がひっくり返ってもありえないのになぁ。

 そう思っていたら、いきなり紗代ちゃんが私の両肩をガシッと強く掴んできて。

「あーもうっ!! 結衣はどうしてそんなに鈍いのよっ!」

「え?」

「ほら、そーゆーとこっ! あんた可愛いんだから自覚しなさいよーっ!」

 そ、そう言われても……。

「私、地味だし何の取り柄もないし面白くもないし……可愛いとは無縁だよっ?」

 私より、紗代ちゃんのほうが何倍も可愛い。リーダーシップがあってハキハキしてて、優しくて美人で。

 今だって、私と一緒にいてくれてるのが不思議なくらいなのに。

 規定通りの着こなしの制服に、肩より少し長いくらいの紫よりの黒髪。

 大きなメガネもつけていて、どこからどう見たって“地味な女子”だ。

 ……でも、このメガネは本当のメガネじゃない。度が入っていない、いわゆる伊達メガネだ。

 このメガネがなきゃ、落ち着かない。これは私のお守りみたいなもの。

 昔から内気だった私は、それでもクラスのみんなと仲良くなろうと頑張った。

 自分から話しかけたり、話題を合わせたり。

 頑張っていた、つもりだった。

『湖宮さん、必死にうちらと仲良くしようとしてて超ウケるんだけど!』

『それな。湖宮さん面白くないし、来られても困るよね~。ていうか普通に無理すぎるわ、湖宮さんといるのって。』

 ……結局、全部無駄だった。意味なんてなかった。

 小学生の頃に聞いてしまった棘は、中学生になった今でも取れそうにない。

 それ以来、学校に行くのが怖くなってしまった。行ったら何か言われるんじゃないかって怯えきっていた。

 家族はそんな事ないって言ってくれたけど、私自身がそうはいかなくて。

 だから人との壁を作るために、メガネをかけるようになったんだ。

 そして私のことを知ってる人が誰もいない中学を受験して、絶賛通っている。

 入学してからもうすぐ半年だけど、とっても居心地がいい。

 地味だからなのか、たまに嫌味っぽいことを言われちゃうけど、小学生の頃と比べたら全然マシ。

 ……それに、今の私には紗代ちゃんがいる。

 入学したての頃、一番最初に話しかけてくれたのが紗代ちゃんだった。

 最初はちょっぴり苦手なタイプかも……なんて思ったけど、全然そんなことなくて。

 紗代ちゃんは積極的に私に話しかけてくれて、今再燃中の【がんばロバ】シリーズが大好きって共通点もあって、学校で唯一心を許せる相手になった。

 前に紗代ちゃんに小学校での出来事を話しちゃった時は、『何それ……!? ちょっと結衣待ってて、そいつらボッコボコにしてくる!!』ってすっごく怒ってくれた。

 それが今でも、記憶に新しい。

 私の悪口を言ってた人には『あんたら結衣のどこを見てそんなこと言ってるわけ!? はっ倒すわよ!!』って、鬼の形相で守ってくれる。本当に優しい女の子だ。

「どしたの結衣、そんなにこにこしちゃって。」

「ううん、何でもないっ。」

「えぇ~! 教えてよーっ!」

「ふふっ、内緒。」

「結衣ってば~!!」

 そう知りたがっている紗代ちゃんを横目に、思わず頬を緩める。

 私は今、すっごく幸せだ。

 素敵な親友がいて、何不自由ない生活を送れていて。

 このまま卒業までいけたらいいなぁ……なんて、ぼんやり考えていた時だった。

「「「氷堂くーーーんっっっ!!!」」」

 わっ、す、すごい声っ……。

 窓の外からの大声に、ビクッと肩を跳ね上がらせる。

 そんな私の隣で、紗代ちゃんは苦い顔をしながらぽつりと呟いた。

「朝からほんっと元気ね……。一人の男子ごときによく飽きないわ。」

 呆れたように息を吐く紗代ちゃんの表情は、心底迷惑そう。

 た、確かにみんなよく朝から大きな声出せるなぁ……私だったら絶対無理だよ。

 そう考えつつ、チラッと窓の外を見やる。

「氷堂君、おはようっ!」

「おはようございます。」

「今日もすっごくかっこいいよ……! 彼氏になってほしいくらいっ。」

「ふふ、ありがとうございます。その気持ちだけ受け取っておきますね。」

 こんな会話はほぼ毎日聞いていて、正直耳にたこができるんじゃないかって何度も考えた。

 昇降口近くにいる生徒たちの目的は、通称“学園の王子様”と言われている男の子。氷堂秦斗ひょうどうかなと君である。

 私たちと同じ中一なのに、氷堂君は入学してすぐ有名人になった。

 何か特別なことをしているわけでもないし、生徒会役員でもないし、目立つ部活の選手でもない。

 なのに彼がここまで人気なのは、人柄からだろう。

 誰にでも優しくて分け隔てなくて、菩薩のような性格の持ち主……だと、どこかで聞いたことはある。

 しかも成績優秀、運動神経抜群、綺麗に整った容姿も人気の理由だと勝手に思っている。

「相変わらずの神対応ね、氷堂の奴。あんなに群がられて、しんどくならないのかな。」

「うーん、どうなんだろうね……。」

 私はあまり氷堂君と話したことはないから、なんとも言えない。

 でも確かに、紗代ちゃんの言う通りいつも笑顔でいられるのはどうしてだろう?

 あれだけの人に囲まれたら、嫌とまではいかなくとも疲れるはずなのに。

 ……ここまで感情が読めない人って、いるんだなぁ。

「ほんと不思議な男……。」

「ねぇ、紗代ちゃんはみんなみたいに氷堂君に何か思ったりするの?」

 そういえば、紗代ちゃんはいつも窓の外から今の様子を眺めている。

 だからもしかすると……って考えが一瞬よぎった、んだけども。

「……結衣が何を勘違いしてるのかは分かんないけど、あたしは全っ然氷堂なんかに興味ないから! そもそも恋愛したくないし、マジで変な勘違いはしないで。」

「けど、いつも氷堂君のほう見てる気が……」

「それ盛大なる勘違い! 結衣の気のせいだからっ! というかもし恋愛するなら、あたしはあんな八方美人タイプより男らしいクールな男を選ぶからっ!!」

 へぇ……ふふっ、そうなんだ~。

 まさか紗代ちゃんからこういった恋愛絡みの話は聞かないから、無意識に口角が上がる。

 紗代ちゃん、恋愛はしたくないって言ってるけど、タイプの男の子が現れたら時間の問題かもなぁ……。

 そんな時だった、窓の外の氷堂君と一瞬だけ……目が合ったような気がしたのは。

 ……そして、ふわっと微笑みを浮かべた。

「え、今の見た!? 氷堂君があたしに笑ったの!」

「ちょ、それあたしかもしれないじゃんっ!」

「さっきのはマジで眼福……今日も頑張れるわぁ。」

 でも、近くの女の子たちの会話が聞こえてはっと我に返る。

 私、何考えてるんだろうっ……氷堂君が私に、なんてあるわけないのに。

 自意識過剰だ……と恥ずかしくなりながら、こっそり窓から離れる。

 だけど離れても、氷堂君への声は収まる気配なんてなくて。

 私はついさっきのことを忘れようと、小さく首を左右に振った。
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