ずっと君と生きていけますように

星那

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 次に目が覚めた時は日が高く登っていた。少しのつもりが大分長時間眠りについていた。悩んでいて眠れないかもしれないと考えていたけれど、一瞬で眠りに落ちてしまったようだ。
 ゆっくり体を起こすと、魔女は私が起きたことに気がついたのか、声をかけてきた。

「おや、起きたかい。ぐっすり眠っておったから起こすのも忍びないと思っておったところじゃ」
「気を遣わせちゃったわね。ありがとう」

 気を張っていたからか、思っていたよりも疲れていたのだろう。

「どれどれ、それじゃあ支度をしたら街の散策といこうかねぇ。今日は軽く見て回って、夕方から行われるオークションを見たいのじゃ」
「ええ、魔女の言う通りでいいわ」

 初めて来る土地。色々詳しい人についていくのが一番である。
 宿から出ると人通りは多く、生者と何ら変わらないようにここでは死者が暮らしているのだと思った。

「そういえば何も食べていなくて腹が減ったのう」
「確かに昨日はお茶をした後は、ばたばたしていて何も食べていなかったわね」

 食べていないことに気がつくと、急にお腹は空いてくるもので、きゅるると小さな音が鳴った。

「グラティアのお腹も正直じゃ!露店で何か軽く食べようじゃないか」

 魔女に連れられて人通りの多い露店が立ち並ぶ道を歩く。昼時だからか食品を扱う店は混み合っているようで、どこも活気あふれていた。その中でも比較的空いている串焼きの店に並ぶ。

「やはり混んでいる店に並ぶよりも、すぐ出てきてすぐ食べられる店のほうが好きじゃな。味は二の次じゃ」

 魔女は待つのが嫌いだ。どうでもいいことに長いこと時間を拘束されたり、自分の思い通りにならないのが嫌なのだろう。そう考えると、私に付き合ってくれている魔女はなんだかんだいって優しい。

「なんじゃ、どうかしたかい?」
「ううん、ここまで来てくれてありがとうね」
「なんじゃい、急に!まだ目的は達成しておらんぞ」

 急に私がお礼を言ったからびっくりしたようだ。魔女的には、全て終わってからたんまりと私をこき使うつもりでいるそうだから、どんな無理難題を押し付けられるのやらという気持ちである。

 数分で串焼きを手にした私たちは、店の近くの椅子に腰掛け串焼きを堪能していた。

「なかなか美味いのう」
「美味しいわね」

 幼い頃ローリーと二人街に出てこうやって食べたことを思い出してしんみりしていると。

「魔女様がいるなんて」
「本当だ!」

 やはりどこでも魔女は目立つ存在のようで、あっという間に囲まれてしまった。

「なんじゃ、騒がしいのう」
「魔女様、お店はやらないのですか」
「魔女様が作るものきっとみんな買いたいと思っています」

 きらきらとした目で魔女を見つめる死者たち。魔女はそんな死者を前にして気分が良くなったのか、咳払いをすると店を開くことを告げた。

「今日は街を見て回って、明日以降店を構える予定じゃ!じゃが死者はどういうものを好むのか、わしは分からなくてな。今日は情報を集めようと思うてな」

 その言葉を聞いた死者たちは歓声を上げた。どこへ行っても魔女は人気者で、そっとその様子を見守る。

「本当ですか?私はこういう商品がほしいのですが……」
「おお、そういう話が聞きたいのじゃ!参考までに聞かせてくれんかの」

 真剣に話を聞く魔女の横顔を盗み見る。こういうところは本当に意外と真面目で、魔女であることを誇りを持っているのだろう。かわるがわる集まった死者たちの声を聞き、うんうんとそれぞれに相槌を売っている。
 そして、今話をしているのは恋人同士だろうか。手を繋いだ二人の男女が魔女と楽しげに語らっていた。

「私たちはここで出会って共に暮らしているのですが、仲を深めるのに役立つ何かがほしいです」
「そうかそうか。わしは死者のことはよく分からなかったのじゃが、生者と変わらず恋をして暮らしておるのじゃなぁ。そういう需要もあるとなれば、色々なものを売り出せそうじゃ。参考になったわい」

 その言葉にはっとする。そうだ、死者になっても新しい出会いはある。いつまでもローリーが私のことを想っていてくれるとは限らないだろう。そんなこと、少しも考えていなかった。ローリーはあの見た目だ、人気もあった。私の護衛騎士をしていたから、特定の相手は作っていなかったけれど、言い寄られることも縁談もきていたのは知っている。そんなローリーが、この死者の国で一人になったらと思うと。もう好きな人がいるのかもしれない。私がを庇って、私のせいで死んでしまったのだ。そんな私のことを今も好きでいてくれるのだろうか。想いが通じあうことも、ずっとお互いに想い合えることも、奇跡でしかないのに。

「グラティア?」

 魔女が私を呼ぶ声で我に帰る。もしかしたら、顔に出ていたのかもしれない。様子がおかしいと心配させてしまったのだろうか。

「何でもないわ。魔女は人気者ね」
「ひひっ、お前さんも魔女になったら、あっという間に人気者の仲間入りじゃよ」

 その言葉に魔女を囲んでいた死者たちの目線が一斉に私に向けられる。

「このお姉さんも、魔女になるのか?」
「その予定じゃよ。わしが手塩にかけて育てているのじゃ」
「そうなのか。とても美人な幽霊だから驚いちまったよ。魔女になるのは生者でも死者でも誰でもなれるんだな」
「そうじゃ。魔女の素質があり魔女に認められればなることができる。わしは今この子に夢中なのじゃ」

 軽々しく肩を組み、ひーっひっひと高笑いする魔女。魔女を見ていたらうじうじ悩んでいることがバカらしくなってきた。
 一通り話し終えるとその場から離れることにして、雑貨などを取り扱っている露店が並ぶ通りを横切る。私たちもこうやって店を出すということなのだろう。参考になるものがあればと、商品に目が行く。目新しい商品も並んでいて、これは何だろうと思うものもしばしば。

「こういうのが死者に流行っているんじゃな」
「魔女様がいらっしゃるなんて!光栄です」

 店の女主人は気前よく話しかけてくれる。

「これは何なのですか?」

 気になっていたものを指さすと、気前よく説明をしてくれた。

「お守りの一つです。死者の国で生前の恋人や約束をした人と再び会いたいと願う人に人気なんですよ」

 まるで今の私の心をよんでいるかのようなものだった。
 何かに縋ってしまうのは、心が弱いからだろうか。魔女は私がそれをじっと見ていることに気づいたようだ。

「これを一つ買いたいんじゃが」
「まあ、ありがとうございます」

 そうして魔女が買ったそれを手渡される。

「どうして……」
「なーに、こういうのに祈りたくなるそんな日もあるじゃろう。だからこれは、そうじゃな。魔女になったときに倍にして返してもらおうかね」
「優しいのね。ありがとう」

 思わず涙が出そうになる。私が私でわあることを辞めてからというものの、感情のコントロールができなくなっている気がする。人前で泣いたり、大声で笑ったりそんなことをしていたら、今までだったら叱られていただろうから。
でも今は私を叱る人はどこにもいない。人目も気にしなくていいのに、少し色々考えすぎてしまうのは、まだ心が縛られているからかもしれない。

 折角連れてきてくれた魔女のためにも、会ってもいないのに勝手に傷ついて諦めるなんてだめだと思った。せめて再会して、こっぴどく振られるくらいしないと、立つ瀬がない。

「私、諦めないから」
「そうじゃそうじゃ、そのいきじゃ!そうやってグラティアは前向きにしておるのが一番じゃ」

 お店の主人に別れを告げ、また他の店も見て回るうちに、開けた道へ出る。店はなくなり、厳重な警備と共に王城が見えてくる。騎士が巡回しており、重苦しい雰囲気だ。
 どこの王族も彼らのように傲慢なのだろうか。死者の国の王族と直接関わり合うことはないが、王族と聞いただけで嫌悪感を抱いてしまう。思っていたよりもあの人たちのことがトラウマになっているのかもしれない。

「城というのはどこも重苦しくていやーなとこじゃね。さあさ、目的のオークション会場のほうに行こうかねえ」
「そうね。オークションは初めてだけれど、私でも分かるのかしら」
「なんとでもなるさ。金さえ積めば誰でもほしいものを手に入れることができるんじゃよ。もし、欲しいものがあったら代わりに買ってやっても良いぞ。出世払いじゃよ」

 なんて、魔女は機嫌がいいのかそんなことを言っていた。

「ここがオークション会場……」

 気味悪い雰囲気のその建物は、王城の後に見ると余計に怪しさを感じてしまう。王城と同じように騎士が何人も守っており、逃げ出さないように監視の目を光らせているのだろう。

「二人入りたいんじゃが」
「ええ。こちらへどうぞ」

 案内係は事務的で手慣れたように会場へ案内してくれた。ガラス張りの丸見えの個室が並ぶ通路を通る。ここにいる死者は罪人。こんな丸見えの部屋で見せ物のように扱われるのかと、人権もなにもない待遇に驚く。

「今ここにいる罪人は数ヶ月前からいる者たちです。新しい罪人は、ステージでお披露目になります。ご自由にご覧ください。開始時刻までには席にご着席ください」

 私たち以外にも、オークション会場にはちらほらと客がやってきていた。身なりの良いエルフや、獣人といった本の中でしか見たことのなかった方々を前にして、本当にここが普通の国ではないということを実感する。
 そして、隣に座っているのは精霊だという。早速仲良くなった魔女が親し気に会話をしていた。

「魔女様も、何がお目当てのものが?」
「知り合いがいたら面白いかと思って見にきたのじゃが、どうじゃろうなぁ」
「意外と悪趣味ですねえ。まあ私も似たようなものですが、目当てのものがあるのです。珍しい死者といえば、私と同族の精霊もいるそうです。どうですか?」
「それは少し気になるね。必要性ががあれば買ってしまうかもしれない」

 楽しそうに談笑する二人とは、やっぱり違う種族なのだと思い知らされる。オークションで命を買おうだなんて考えたこともない。私も魔女になったら彼らと同じような趣向になるのどろうか。

「これよりオークションを開始させていただきます」

 司会進行を務める燕尾服を着た男性が現れ、賑やかだった室内は落ち着きを取り戻していった。しんとなった会場内に、司会の声が響く。

 番号を振られた服を着た、奴隷のような扱いをされた罪人たちが順番に壇上に並べられる。後ろの番号に行くに連れて、新しく入ってきた者ということになるそうだ。
 全ての罪人の顔をよく見るが、その中にローリーはいなかった。ほっと胸を撫で下ろす。いたほうがよかったのか、いなくてよかったのか。分からない。でも今の心の迷いがある中で再会しても、上手く話せるのか自信がなかったので、再会が遠のいたことに少し安堵した。

「では一番目の罪人から紹介します。この罪人は生前人間で、魔術師でした。罪もなき人々の命を蹂躙し、沢山の者の命を奪いました。魔法の腕は保証します。欲しい方はお手元にあるボードに金額を書いて頭上に掲げてください」

 金貨一枚から始まり、あちこちから、声が上がる。白熱した争いを見せていた。
 正直このオークションにローリーがいないと分かってからそこまで興味がもてず、うとうとと寝入っていると、いつの間にかオークションが終わりを迎えていた。

「グラティア、お主ほとんど寝ておったな」
「ごめんなさい、折角連れてきてもらったのに」
「まあわしも今起きたとこなんじゃが」

 ひっひっと笑い魔女は伸びをした。

「あーずっと座っていると、腰が痛むんじゃよ」

 腰をさすってあげると魔女はもっと右の方だとか色々指示をだしてきて、思わず笑ってしまった。

「仲がよろしいのですね」
「そうじゃ、自慢の弟子じゃよ」

 私たちの様子をみて、隣に座っていた精霊が声をかけてきた。

「そういえばあんたは目当てのものが買えてたようでよかったのう」
「おかげさまで、いい買い物ができました。この後受け取りが控えています」
「わしはめぼしいものがなく残念じゃった」
「ここに足を運ぶ機会があればいずれいいものも見つかりますよ」

 二人が談笑していると、精霊を呼びにくる男性がいて、オークションの品を引き渡すということだった。

「もうお時間ですね。それでは魔女様、魔女のお弟子さん、またどこかで」
「ああ、またどこかで」

 去っていく精霊を見送ってから、私たちも会場を後にする。
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