婚約破棄されたはずなのに、溺愛が止まりません!~断罪された令嬢は第二の人生で真実の愛を手に入れる~

sika

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第19話 過去との再会、そして対峙

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王都の空は、夕刻だというのに鈍く濁っていた。  
西の空に沈みかけた太陽が城壁の背後に隠れ、黄金ではなく灰色の光を放っている。  
その下を、ディランとアイラを乗せた馬車がゆっくりと進んでいく。  
城門が閉められる音が遠くで響いた。  

「……あの門の音、聞き覚えがあるのです」  
アイラの小さなつぶやきに、ディランは頷いた。  
「三年前、お前が断罪された日のことだな」  
「ええ。あの日、私は王都から追われるとき、こうして音を聞いた気がします。  
でも今日のそれは……逃げ道を断たれた音ではなく、真実を閉じ込める音のようです」  
「ならば、今度はその真実を逃がす。俺とお前で、この壁を破る」  

ディランの声は落ち着いていた。  
だがその拳は、膝の上でわずかに震えていた。  
怒りでも、恐れでもない。  
守りたいものが目の前にいることの、どうしようもない緊張だった。  

やがて、馬車は王城の中庭に入った。  
高い尖塔と冷たい石造りの回廊。  
すべてが彼女の記憶にある光景。  
けれど、今そこに立つ彼女の表情は穏やかだった。  

「戻ってきましたね」  
「この場所を怖れなかったお前を、俺は誇りに思う」  

やりとりの最中、城兵たちが馬車の扉を開けた。  
「ヴァーミリオン将軍、こちらへ。陛下が謁見をお待ちです」  

二人は並んで歩き始める。  
大理石の床を踏むたびに靴音が響く。  
その先には、かつてアイラが“罪人”として立たされた大聖堂のような大広間があった。  
アーチの下、金糸の幕。  
中央に立つのはギュスターヴ宰相、その隣に王と王太子レオンハルトの姿。  

「ヴァーミリオン将軍、ならびに……」  
ギュスターヴの鋭い声が響く。彼の視線がアイラを捉えた途端、わずかに口角が上がった。  
「これは驚いた。辺境で死んだはずの娘を伴って現れるとは」  
「あなたの予想が外れたことを、私は幸運と呼ぶ」  
ディランの返しは穏やかだが、その背の気迫に兵士たちが息を吞む。  

王は細めた目で二人を見下ろした。  
「貴公、なぜこの女を王都へ連れてきた? 彼女は国法によって断罪された罪人のはずだ」  
「偽りの罪です」  
ディランの声が静かに広がる。  
「王国を脅かすなどと呼ばれましたが、彼女は人を救う力を持っています。それを実際に見た者が、この場に何人もいます」  
レオンハルトが一歩前に出た。  
「陛下。すでに確かめました。彼女は無実です。あの日、彼女を罪人に仕立てたのは――」  

ギュスターヴはそれを遮るように声を上げた。  
「殿下、それ以上はお控えください」  
その言葉に、国王がゆっくりと眉をひそめる。  
「……話を続けよ」  
レオンハルトは深く頭を下げ、そして顔を上げた。  

「宰相ギュスターヴ閣下が、虚偽の証拠を作りました。  
レインフォード家の失墜を企んだのは、王位継承の混乱を避け、政を掌握しようとしたためです」  
「な……殿下、証拠はあるのですか?」  
議員の一人が慌てて声を上げる。  

ディランは懐から一通の古びた書簡を取り出した。  
「あります。三年前、辺境戦線の中で偶然回収されたものです。  
ギュスターヴ卿の印章入りで、“アイリス令嬢の断罪をもって王国は潔白を保つ”と記されています」  
レオンハルトがその文書を王へ差し出す。  
玉座の上で王が封を切り、内容を読むにつれて顔色が青ざめていった。  

「ギュスターヴ……この署名、間違いなく貴公のものだな?」  
「陛下、これは捏造で――」  
「筆跡も印章も一致している」とディランが鋭く返す。  
「しかも宰相の書庫に残されていた暗号文と照合済みだ」  
王の声が重く響いた。  
「……ギュスターヴ卿。弁明はあるか?」  
「これは国家のための判断でした。あの女を放置すれば、王家の力が脅かされる!」  
「ならなぜ、このような密書がある」  
ディランの視線が突き刺さる。  
「“真実を知る者を排除せよ”――そう記されているが?」  
ギュスターヴの口が言葉を失った。  

沈黙の中、王の杖が床を打つ音だけが響く。  
「王命として命じる。ギュスターヴ卿、およびその家の職権を一時停止し、調査の間謹慎せよ」  
兵士たちが動き、宰相の側近たちが青ざめて後ずさる。  
ギュスターヴはなおも叫んだ。  
「お待ちください陛下! この女は――っ」  

その声を遮ったのは、アイラの静かな声だった。  
「私はもう“この女”ではありません。  
かつての罪名を受け、すべてを失い、そしてそれでも生き延びました。  
私の力が脅威だというのなら、あなたたちが恐れているのは“力”ではなく“真実”です」  

彼女の声が高殿に響き渡った。  
兵も貴族も誰も動かない。  
その瞳の青が、聖堂のステンドグラスの光と交わり、荘厳な輝きを放った。  

「私はこの力を人のために使います。  
誰かを傷つけるためではなく、癒やし、生かすために。  
それを恐れる世界なら、私はそれすらも癒してみせましょう」  

その言葉に、誰もが息をのむ。  
しばし後、王がゆっくりと頷いた。  
「――レインフォード家の名誉を回復せよ」  
その宣言が、すべてを変えた。  

ディランもレオンハルトも、言葉を失って彼女を見つめていた。  
彼女こそが本物の“王”のように見えたからだ。  

ギュスターヴは憤怒の形相で兵に引かれていく。  
「覚えておけ……この国は変わらん。たとえお前一人が真実を語ろうと!」  
その叫びはやがて遠くに消えた。  

静寂の中、ディランが一歩進み出る。  
「陛下、もうひとつ願いがあります。  
この国の北境――戦で壊れた村を、回復のために彼女に任せていただきたい」  
王は目を細め、そして微笑んだ。  
「癒しの聖女の手で国を癒すか……良い。許す」  

判が押され、謁見は終わりを迎えた。  

大広間を後にすると、外の風が二人の頬を打った。  
夕陽が西に沈み、空は金色と紅に染まっている。  
「……終わったな」  
ディランの声は穏やかで、どこか夢のようだった。  
「ええ。けれど、これは始まりです。ようやく“本当の国”を取り戻す始まり」  

彼女が静かに微笑むと、ディランはその手をとった。  
「お前がいたから、俺は立つ理由を見つけられた」  
「私も。あなたがいなければ、きっと怖くてここまでは来られなかった」  

互いに微笑みを交わす。  
王城の石段を降りるその背には、もう陰はなかった。  
彼女が歩く先に射す光越しに、確かに“新しい時代”が始まろうとしていた。  

続く
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