天使が下界に堕ちたとき。

yuuki

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 窓から差し込む朝日で目を覚ました。ベットの上で軽く伸びをする。ここ数日、アダムとイヴは仕事で外泊していた。久しぶりの静寂を満喫しながら、ベットから降りる。



 僕の部屋は、この世界に来たときに居た部屋だった。10畳くらいの広さで、木製のベットと机が置かれている。その机に近付き、置かれていた白いローブに着替えた。髪を手櫛で整えてから、部屋を出る。



 朝食を食べ終えたあと、習慣となっている散歩に出かけた。特にコースは決めていないため、適当に歩いていく。今日は家から30分程離れた丘に着いた。丘のてっぺんに座り、しばらく森を眺める。昨晩は雨が降ったため、葉に滴る雨露がきらきら光り、幻想的な風景となっていた。



 しばらく眺めたあと、もう一つの習慣となっている魔法の練習を始めることにした。その場で胡座をかき、目を閉じて深呼吸する。爽やかな風が、髪をくすぐる。



 ──心臓にある温かい流れをゆっくり循環させるんだ。巡りを感じられたら、何をしたいか想像する。そうしたら魔法ができるようになるよ。



 前にアダムから言われたことを意識しながら、自分の魔力を探っていく。息を吸うと同時に意識を体の奥に沈め、魔力あるはずの心臓を意識し、それから……



 「おーい、ルシー? お前まだ魔法使えねえの?」

 「だからいっつも邪魔すんなってば!!」



 僕の邪魔をしたのは、18歳くらいの青年だった。両手を広げたくらいの、真っ白な羽を羽ばたかせながら翔んできた。ふわりと優雅に着地した後、背中の羽は光りながら消えていく。



 「ほんとにお前なんで魔法使えねえんだろうな、愛し子なのに。ちゃんと練習してんのか?」



 いつも邪魔をする彼はラジエル。僕の唯一の同期で、2年前くらいに一人前の天使として認められていた。



 彼が言ったとおり、僕は未だに魔法が使えない。魔法が使えないどころか、魔力すら感じられないのだ。普通の天使は天界に来てから1年程で完璧に操れるようになり、1人前として認められる。



 練習を始めた頃、イメージが大事だって言われた。僕は愛し子だし、転生者ってだいたい無双するから、派手な魔法を使ってやろうと思ったんだ。右手を前に突き出し、思いっきり「ファイアーボール!!」と叫んでみた、が、何も起こらなかった。



 こういうのって、普通無双するんじゃないの?!



 思わず叫んでしまい、周りから冷たい視線を受けたのを覚えている。恥ずかしい。



 そして天使は魔法を使って体を自由に成長させることができる。ほとんどの天使は1番力を発揮しやすい10代後半から20代前半の姿をしていて、僕の育ての両親も20歳くらいの姿をとっていた。僕は、まだ力が安定していないからずっと10歳くらいの容姿のままだ。



 一般の天使は、創造神ウラノスによって魂が形成され、彼が直々に名をつける。名をつけられた魂は初めて自我を持ち、ウラノスに魔法の使い方、自分たちの役目を教わる。その後、自分の育て親となる天界の天使の元へと向かうのだ。力が扱えないと空を飛ぶことすらできない。



 だからそれを聞いた僕は焦った。



 え、何それ? そんな記憶ないんですけど。



 天使族で、生まれながらにして力が扱えない僕は異例中の異例で、周りから浮いている。過去にも例がないそうだ。今の僕はただのニートということになる。とても困った。



 ウラノス第一主義の天使族の中で、10年経っても役に立たない天使は魂ごと消されることになっている。天使は基本不老不死のため、一般的な方法では死なない。ただし、魂を消されると消滅するのだ。今はまだ3年しか経っていないため、まだ時間はある。本当に危なかった。



 なんとなく、自分が他と違うのは異世界から来たからだと思う。元々自我がある異世界の魂をこの世界に引っ張ってきたから何か不都合が生じているのではないだろうか。でもこのことは怖くて誰にも言えてない。もしウラノスの子じゃないと知られたらどうなるんだろう。



 怖い、怖すぎる。一生黙っていよう。



 生まれながら持っているはずの魔力とこの世界の常識を知らない僕は日々勉強していた。早く身につけないと消されてしまう。



 だからこうして魔法の練習をするのが日課となっている。



 「ルシー! 聞いてんの?」

 「ラジー! 集中してるから黙ってて!」



 ラジー僕を見つけると、必ず絡んでくる。彼は僕と違って忙しいだろうに大丈夫なのかな?



 「だから何回も言ってるだろ? 深呼吸して力を思いっきり込めるんだ。あと、やりたいことを強く思うとできるようになるぞ」

 「その説明良く分からないんだって。もういいよ、今日はもうやめた」



 僕がそう言って寝転ぶと、同じようにラジーも隣に寝転んだ。こちらを見てくすくす笑い、ポケットから赤い実を出してきた。この実は味も見た目もりんごそっくりなのに、名前がアプルというとても惜しい果物だ。



 僕たち天使は、天界に居る間は食事も睡眠も摂らなくて平気だ。だけどつい人間だった頃の習慣で、食事をとってしまう。



 「お前ほんとに食事好きだよな」

 「そうだよ、何事にも娯楽って必要だろ?」



 ラジーは肩を竦めて空を見上げた。僕もならって空を見る。



 「明日、暇? アプル取りに行かねえ?」



 唐突に聞いてきた。



 「行く行く! また運んでくれよ!」

 「分かった、じゃあお前のところに迎えに行くな。大人しく待ってろよ」



 アプルの木は僕の家から遠いため、徒歩だと1日以上かかってしまう。だからこうして運んでくれる人が必要なのだ。しばらく明日の話をしたあと、



 「それじゃ、そろそろ帰るわ。帰り道気をつけろよ」



 そう言って、右頬にそっと口付けてきた。右頬の口づけは親愛の証だ。



 「じゃあまた明日!」



 そう言って同じように口付けをすると、腕を引かれ抱き込められる形となった。この行動を抗議する前に、「じゃあな」と耳元で囁かれ、そのまま翔んでいってしまった。



 思わず火照ってしまう頬に触れ、頭を抱えた。



 スキンシップが欧米なんだよなあ。心臓に悪いわ!



 前世が女だったため、こういう男同士の触れ合いでも意識してしまう。色々考えはじめそうだったので、邪念を振り落とし、帰路についた。

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