4 / 55
4話
しおりを挟む
最悪だ。おいしくない朝食を我慢して食べようとしていた矢先。
隷属の首輪をつけた石亀永江が食堂に入ってきたのだ。
銀色に鈍く光る太い鎖――。
昨日、ダンスホールで俺たちは、重要な決定を下した。
嘘を看破する瀧田賢と、アイテムを鑑定できる連城敏昭。
ふたりの加護については、俺たちだけの秘密にすると決定。
外部に漏れることのないよう、厳重に秘匿すると決意した。
だから首輪の効果について知っている素振りを見せてはいけないのだ。
「おはよう」
無表情で挨拶をする石亀永江。
いつも不機嫌なので特別変ではない。
首輪によって人格が劇的に変化するわけではないようだ。
「お、おはよう」
クラスメイトの挨拶はぎこちないが、みんな約束を守り知らないフリをしている。
俺の隣に座っている儀保裕之が顔を近づけ、耳元でささやく。
「おい、アレ、どういうことだ?」
「委員長は指揮官だと思われたんだろうな。頭さえ押さえれば俺たちを自由にできると考えているかもしれない」
「それにしたって、あんなゴツイ鎖を首から下げてたら怪しむに決まってるだろ」
「俺たちは子供だからな。警戒する価値なしと判断したのかも」
「あ~、なるほど」
俺の推理が正しいかはわからない。
けれど儀保裕之はムスッとした表情になる。
バカにされるのは誰だって嫌なのだ。
「そのネックレスどうしたの?」
「これ? ステキでしょ。宰相様からいただいたのよ」
「へ、へぇ~……」
女子の質問に石亀永江は平然と答えた。
彼女は首輪の効果を知らないのかもしれない。
「委員長、ステキって言ったぜ?」
彼女の美的センスに儀保裕之が目を見開いた。
「違和感が消える効果があるかもしれないな。それよりも、首輪をつけた犯人は宰相。ヤツは俺たちの敵に決まりだ」
「どうすんだよぉ……」
俺の意見に儀保裕之が頭を抱えている。
みんなの見える位置に彼女は立つと、いつもの調子で話し始めた。
「朝食のあとで宰相様から話があります。ダンスホールに集合するように。まだ来ていない人にも伝えるように」
隷属の首輪の効果だろう。オッサンに様をつけている。
まずい状況だな。石亀永江を人質に取られているのと同じだ。
才原優斗と瀧田賢が非常に渋い表情で彼女を見ている。
クチのなかへ入れたスープは、いつも以上にマズかった。
料理への味つけだけが理由ではない。
心に溜まる不安が味覚に影響を与えているのだ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ダンスホールにクラスメイトが集合している。
野吾剛士は欠席しているが、いつものことなので誰も気にしていない。
宰相のウェニスが悠々と入ってきた。
「みんな、宰相様がいらっしゃいました。頭を下げなさい」
石亀永江はまるで宰相の犬だな。
敵の陣営に完全に染まっている。
口調はいつもの威圧的な感じではなく丁寧。
瀧田賢が中指でメガネのポジションをなおすと話を始めた。
「おやおや? いつもの委員長らしくありませんね。カゼでもひいたのですか」
「体調は万全です。さあ、頭を下げるのです」
宰相は昨日とは違い、自信に満ち溢れた笑みを浮かべている。
すでに勝利を確信しているような態度だ。
「高熱でうなされているようだ。このままでは委員長の仕事を全うできそうもない」
「そうだな。違う世界にきたせいで疲れたのだろう」
才原優斗が彼の話にのった。
たぶん事前に打ち合わせをしたらしい。
大根役者のようなたどたどしい演技だが及第点だ。
「新たな委員長を投票で決め、仕事を引き継がせよう。どうだろうみんな」
「賛成!」
宰相の顔色が一瞬で青ざめた。
この国には王がいるのだから、当然君主制だろう。
共和制の概念が理解できないのかもしれない。
もしかするとヤツには、俺たちが指揮官に逆らう反抗的な兵士に見えているのかもしれない。
学校の制服は軍服に見えるからな。
「待て、待つのだ! 頭など下げずとも良い。委員長、話を進めるがいい」
「はい。もとの世界に帰るための準備に三百日かかることが判明しました」
空気が凍りつくような静けさが広がり、誰もが息を呑む。
「宰相殿、質問してもいいだろうか」
「良かろう」
瀧田賢は慌てずに質問する。
「なぜ三百日必要なのか、理由を教えて欲しい」
「国家機密に抵触するため教えることはできぬ」
「三百日後、必ず帰してもらえるのだろうか」
「ワシが責任をもって帰すと約束しよう」
「この世界に俺たちを帰す方法は存在するのか」
「クドイ。あるからこそ帰すと約束したのだ」
クラスメイトの一部は気がついたようだ。
同じような質問を彼が三回もした理由。
おそらく看破スキルで見破ったのだろう。
たぶんいづれの回答も嘘だったのだ。
この世界に帰す方法など存在しないと彼の険しい表情が物語っていた。
あからさまに彼の態度が悪くなる。
当然だろう。俺たちを帰せないのなら宰相になんの価値もない。
「で、三百日間、俺たちになにをさせる気だ、言ってみろ」
険悪な空気を感じ取ったのだろう。
女子たちが不安な表情を浮かべた。
彼の忍耐力には敬服する。
もし俺が同じ立場だったら、真実を明かし、ただちに対立を生じさせていたはずだ。
だが彼は違う。
軽率な行動が仲間を危険にさらすと知っているため、彼は冷静を装いつづける。
「この世界には魔王がいるのだ。キミたちには魔王を討伐し、世界に平和をもたらせて欲しいのだ」
「チッ」
――アイツ舌打ちしやがった!?
冷静なのはポーカーフェイスじゃなく表情筋が死んでるからだ。
「わかった、いまから魔王とやらを討伐してやるよ」
まさか魔王がいるのも嘘なのか。
いないと知っていての挑発だろう。
揺さぶりをかけて情報を引き出しているのかもしれない。
そうであってくれ。
「待て、待つのだ! キミたちはたしかに特別な力をもっている。だが過信してはならん。力をつけ、決戦に備えるのだ」
「力をつけるだと?」
「戦闘訓練の場を設ける。キミたちはそこで戦いかたを覚えると良い」
「なるほど、俺たちを兵士にしたいわけだ」
「勘違いしては困る。未来の勇者を育てたいと願っておるだけだ」
「チッ」
また舌打ちした。勇者育成も嘘か。
俺のなかに芽吹いている宰相への不信感が急速に膨れあがる。
クラスメイトも同じらしく、表情が険しくなっていた。
彼の怒りが限界に近いのを才原優斗は察したのかもしれない。
暴走しないよう話に割って入った。
「委員長、戦闘に向かない性格のクラスメイトもいるだろ、だから訓練は希望者に絞るほうが効率的だと思うのだけど、どうだろう」
「そうね、才原君のいうとおりだわ。宰相様いかがでしょう」
「うむ。たしかにかよわい女性に戦闘訓練をさせるのもしのびない。いいだろう」
「ありがとうございます」
石亀永江は丁寧に頭を下げた。
彼女の従順な仕草がクラスメイトを苛立たせる。
「もうひとつ。俺たちはこの世界の常識を知らない。だから訓練に参加しない者たちは勉学に時間を使いたいのだが、図書館などの施設への立ち入りを許可願えないだろうか」
「そうね、わたしも知りたいと思っていたところよ。宰相様お願いできますでしょうか」
「ふむ……。閲覧可能な情報など精査せねばならんな。結果は追って知らせる」
「はい、ありがとうございます」
石亀永江はまたしても丁寧に頭を下げた。
彼女が悪いわけではない。首輪の効果だ。
けれどクラスメイトからは裏切り者の烙印を押されたようだ。
「戦闘訓練に必要な装備を準備する。訓練は明日からだ。今日は自由にするがいい」
宰相は満足そうにダンスホールから退室した。
「戦闘訓練に参加する者を選別する。全員、加護の能力を申告するように」
ふだんどおりの石亀永江だ。語尾を強めに発音し、命令してくる。
いつもならクラスメイトは素直に従っただろう。
しかし彼女は宰相の犬。誰もクチを開こうとはしなかった。
「反対だ。加護はプライベートにかかわるデリケートな情報。取り扱いについては慎重になるべきだと考える」
学校ならば石亀永江と瀧田賢は堅物同士で息が合った。
しかし今は対立姿勢が明確に表われている。
「デリケートですって? 曖昧な意見ね」
彼の瞳が、まるで星のように輝きを放つ。
「俺の推理は確度が高いぞ。おそらく、委員長は公表したくない加護じゃないのか?」
「うっ……」
俺には彼が何を言っているのか見当もつかない。
もしかすると加護には規則性があるのか?
サッカー部の才原が護衛。
不良の野吾は鬼畜。
剣道部の瀧田は探偵。
野球部の連城は錬金術。
そして俺はネトラレ。
共通点があるようには思えないのだが。
彼は見抜いたというのか……。
「い、いいでしょう。加護の公開は強制しない。ですがクラスにとって有益と判断した人は申告するように」
石亀永江が折れた。
ということは、彼女の加護は人には言いづらいと証言したも同然。
瀧田賢の加護は探偵だが。
嘘を見破る以外にもスキルがあるのか?
しかし、俺の加護は知られるとマズイ。
絶対に秘密にしないと、恥ずかしくて死ねる!
「宰相様に明日の詳細を確認してくる」
彼女が部屋から出ると空気が軽くなった。
緊張の糸がほぐれたとたん、みんなが溜息をもらした。
「出入口と窓、誰もいないか確認していてくれ」
才原優斗の指示でクラスメイトが動く。
なんとなく、俺と儀保裕之は入口に移動し、誰もいないことを確認する。
部屋の中央で話を始める才原優斗と瀧田賢。
「宰相の言葉はほとんど嘘だった」
「そんな気はしてた。もとの世界に帰れないんだな……」
声を殺して泣き出す女子が数人いた。
パニックになって泣き叫ばないだけありがたい。
「宰相が知らないだけかもしれない。望みを捨てるには早すぎる」
「もちろん。俺もあきらめるつもりはない」
「なあ、連城。委員長の首輪ははずせないのか?」
苦々しい表情で瀧田賢は連城敏昭に確認した。
「つけた者しかはずせないらしい。それに、無理矢理はずすと死ぬと書いてあったな」
「マジか……」
死という不穏な言葉を聞いたクラスメイトがどんよりとした表情になる。
「首輪をはずす手立てが見つかるまで委員長の件は保留にしよう」
才原優斗の提案にみんなうなづいた。
「まずは情報収集だ」
隷属の首輪をつけた石亀永江が食堂に入ってきたのだ。
銀色に鈍く光る太い鎖――。
昨日、ダンスホールで俺たちは、重要な決定を下した。
嘘を看破する瀧田賢と、アイテムを鑑定できる連城敏昭。
ふたりの加護については、俺たちだけの秘密にすると決定。
外部に漏れることのないよう、厳重に秘匿すると決意した。
だから首輪の効果について知っている素振りを見せてはいけないのだ。
「おはよう」
無表情で挨拶をする石亀永江。
いつも不機嫌なので特別変ではない。
首輪によって人格が劇的に変化するわけではないようだ。
「お、おはよう」
クラスメイトの挨拶はぎこちないが、みんな約束を守り知らないフリをしている。
俺の隣に座っている儀保裕之が顔を近づけ、耳元でささやく。
「おい、アレ、どういうことだ?」
「委員長は指揮官だと思われたんだろうな。頭さえ押さえれば俺たちを自由にできると考えているかもしれない」
「それにしたって、あんなゴツイ鎖を首から下げてたら怪しむに決まってるだろ」
「俺たちは子供だからな。警戒する価値なしと判断したのかも」
「あ~、なるほど」
俺の推理が正しいかはわからない。
けれど儀保裕之はムスッとした表情になる。
バカにされるのは誰だって嫌なのだ。
「そのネックレスどうしたの?」
「これ? ステキでしょ。宰相様からいただいたのよ」
「へ、へぇ~……」
女子の質問に石亀永江は平然と答えた。
彼女は首輪の効果を知らないのかもしれない。
「委員長、ステキって言ったぜ?」
彼女の美的センスに儀保裕之が目を見開いた。
「違和感が消える効果があるかもしれないな。それよりも、首輪をつけた犯人は宰相。ヤツは俺たちの敵に決まりだ」
「どうすんだよぉ……」
俺の意見に儀保裕之が頭を抱えている。
みんなの見える位置に彼女は立つと、いつもの調子で話し始めた。
「朝食のあとで宰相様から話があります。ダンスホールに集合するように。まだ来ていない人にも伝えるように」
隷属の首輪の効果だろう。オッサンに様をつけている。
まずい状況だな。石亀永江を人質に取られているのと同じだ。
才原優斗と瀧田賢が非常に渋い表情で彼女を見ている。
クチのなかへ入れたスープは、いつも以上にマズかった。
料理への味つけだけが理由ではない。
心に溜まる不安が味覚に影響を与えているのだ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ダンスホールにクラスメイトが集合している。
野吾剛士は欠席しているが、いつものことなので誰も気にしていない。
宰相のウェニスが悠々と入ってきた。
「みんな、宰相様がいらっしゃいました。頭を下げなさい」
石亀永江はまるで宰相の犬だな。
敵の陣営に完全に染まっている。
口調はいつもの威圧的な感じではなく丁寧。
瀧田賢が中指でメガネのポジションをなおすと話を始めた。
「おやおや? いつもの委員長らしくありませんね。カゼでもひいたのですか」
「体調は万全です。さあ、頭を下げるのです」
宰相は昨日とは違い、自信に満ち溢れた笑みを浮かべている。
すでに勝利を確信しているような態度だ。
「高熱でうなされているようだ。このままでは委員長の仕事を全うできそうもない」
「そうだな。違う世界にきたせいで疲れたのだろう」
才原優斗が彼の話にのった。
たぶん事前に打ち合わせをしたらしい。
大根役者のようなたどたどしい演技だが及第点だ。
「新たな委員長を投票で決め、仕事を引き継がせよう。どうだろうみんな」
「賛成!」
宰相の顔色が一瞬で青ざめた。
この国には王がいるのだから、当然君主制だろう。
共和制の概念が理解できないのかもしれない。
もしかするとヤツには、俺たちが指揮官に逆らう反抗的な兵士に見えているのかもしれない。
学校の制服は軍服に見えるからな。
「待て、待つのだ! 頭など下げずとも良い。委員長、話を進めるがいい」
「はい。もとの世界に帰るための準備に三百日かかることが判明しました」
空気が凍りつくような静けさが広がり、誰もが息を呑む。
「宰相殿、質問してもいいだろうか」
「良かろう」
瀧田賢は慌てずに質問する。
「なぜ三百日必要なのか、理由を教えて欲しい」
「国家機密に抵触するため教えることはできぬ」
「三百日後、必ず帰してもらえるのだろうか」
「ワシが責任をもって帰すと約束しよう」
「この世界に俺たちを帰す方法は存在するのか」
「クドイ。あるからこそ帰すと約束したのだ」
クラスメイトの一部は気がついたようだ。
同じような質問を彼が三回もした理由。
おそらく看破スキルで見破ったのだろう。
たぶんいづれの回答も嘘だったのだ。
この世界に帰す方法など存在しないと彼の険しい表情が物語っていた。
あからさまに彼の態度が悪くなる。
当然だろう。俺たちを帰せないのなら宰相になんの価値もない。
「で、三百日間、俺たちになにをさせる気だ、言ってみろ」
険悪な空気を感じ取ったのだろう。
女子たちが不安な表情を浮かべた。
彼の忍耐力には敬服する。
もし俺が同じ立場だったら、真実を明かし、ただちに対立を生じさせていたはずだ。
だが彼は違う。
軽率な行動が仲間を危険にさらすと知っているため、彼は冷静を装いつづける。
「この世界には魔王がいるのだ。キミたちには魔王を討伐し、世界に平和をもたらせて欲しいのだ」
「チッ」
――アイツ舌打ちしやがった!?
冷静なのはポーカーフェイスじゃなく表情筋が死んでるからだ。
「わかった、いまから魔王とやらを討伐してやるよ」
まさか魔王がいるのも嘘なのか。
いないと知っていての挑発だろう。
揺さぶりをかけて情報を引き出しているのかもしれない。
そうであってくれ。
「待て、待つのだ! キミたちはたしかに特別な力をもっている。だが過信してはならん。力をつけ、決戦に備えるのだ」
「力をつけるだと?」
「戦闘訓練の場を設ける。キミたちはそこで戦いかたを覚えると良い」
「なるほど、俺たちを兵士にしたいわけだ」
「勘違いしては困る。未来の勇者を育てたいと願っておるだけだ」
「チッ」
また舌打ちした。勇者育成も嘘か。
俺のなかに芽吹いている宰相への不信感が急速に膨れあがる。
クラスメイトも同じらしく、表情が険しくなっていた。
彼の怒りが限界に近いのを才原優斗は察したのかもしれない。
暴走しないよう話に割って入った。
「委員長、戦闘に向かない性格のクラスメイトもいるだろ、だから訓練は希望者に絞るほうが効率的だと思うのだけど、どうだろう」
「そうね、才原君のいうとおりだわ。宰相様いかがでしょう」
「うむ。たしかにかよわい女性に戦闘訓練をさせるのもしのびない。いいだろう」
「ありがとうございます」
石亀永江は丁寧に頭を下げた。
彼女の従順な仕草がクラスメイトを苛立たせる。
「もうひとつ。俺たちはこの世界の常識を知らない。だから訓練に参加しない者たちは勉学に時間を使いたいのだが、図書館などの施設への立ち入りを許可願えないだろうか」
「そうね、わたしも知りたいと思っていたところよ。宰相様お願いできますでしょうか」
「ふむ……。閲覧可能な情報など精査せねばならんな。結果は追って知らせる」
「はい、ありがとうございます」
石亀永江はまたしても丁寧に頭を下げた。
彼女が悪いわけではない。首輪の効果だ。
けれどクラスメイトからは裏切り者の烙印を押されたようだ。
「戦闘訓練に必要な装備を準備する。訓練は明日からだ。今日は自由にするがいい」
宰相は満足そうにダンスホールから退室した。
「戦闘訓練に参加する者を選別する。全員、加護の能力を申告するように」
ふだんどおりの石亀永江だ。語尾を強めに発音し、命令してくる。
いつもならクラスメイトは素直に従っただろう。
しかし彼女は宰相の犬。誰もクチを開こうとはしなかった。
「反対だ。加護はプライベートにかかわるデリケートな情報。取り扱いについては慎重になるべきだと考える」
学校ならば石亀永江と瀧田賢は堅物同士で息が合った。
しかし今は対立姿勢が明確に表われている。
「デリケートですって? 曖昧な意見ね」
彼の瞳が、まるで星のように輝きを放つ。
「俺の推理は確度が高いぞ。おそらく、委員長は公表したくない加護じゃないのか?」
「うっ……」
俺には彼が何を言っているのか見当もつかない。
もしかすると加護には規則性があるのか?
サッカー部の才原が護衛。
不良の野吾は鬼畜。
剣道部の瀧田は探偵。
野球部の連城は錬金術。
そして俺はネトラレ。
共通点があるようには思えないのだが。
彼は見抜いたというのか……。
「い、いいでしょう。加護の公開は強制しない。ですがクラスにとって有益と判断した人は申告するように」
石亀永江が折れた。
ということは、彼女の加護は人には言いづらいと証言したも同然。
瀧田賢の加護は探偵だが。
嘘を見破る以外にもスキルがあるのか?
しかし、俺の加護は知られるとマズイ。
絶対に秘密にしないと、恥ずかしくて死ねる!
「宰相様に明日の詳細を確認してくる」
彼女が部屋から出ると空気が軽くなった。
緊張の糸がほぐれたとたん、みんなが溜息をもらした。
「出入口と窓、誰もいないか確認していてくれ」
才原優斗の指示でクラスメイトが動く。
なんとなく、俺と儀保裕之は入口に移動し、誰もいないことを確認する。
部屋の中央で話を始める才原優斗と瀧田賢。
「宰相の言葉はほとんど嘘だった」
「そんな気はしてた。もとの世界に帰れないんだな……」
声を殺して泣き出す女子が数人いた。
パニックになって泣き叫ばないだけありがたい。
「宰相が知らないだけかもしれない。望みを捨てるには早すぎる」
「もちろん。俺もあきらめるつもりはない」
「なあ、連城。委員長の首輪ははずせないのか?」
苦々しい表情で瀧田賢は連城敏昭に確認した。
「つけた者しかはずせないらしい。それに、無理矢理はずすと死ぬと書いてあったな」
「マジか……」
死という不穏な言葉を聞いたクラスメイトがどんよりとした表情になる。
「首輪をはずす手立てが見つかるまで委員長の件は保留にしよう」
才原優斗の提案にみんなうなづいた。
「まずは情報収集だ」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる