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46話
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才賀小夜が採掘のためドラゴンに運ばれているあいだに、俺は家具屋の千坂隆久にベッドを注文している。
彼の店にはサンプルとして洋服タンスやドレッサーなどが展示してある。
儀保裕之の店とは雲泥の差だ。
サンプルの椅子に座る俺と千坂隆久。
「――それにしても、ドラゴンがベッドを欲しがるなんておかしいね」
「どこかのお姫様に献上するんじゃないか」
幼馴染がドラゴンをあごで使っているなんて悪い噂になるのを避けるため、アイツからのお願いという話は伏せておいた。
「まるでおとぎ話みたいだね」
「そもそもドラゴンがおとぎ話に登場する生物だからなあ」
「言えてる。で、ベッドのデザインはどうするの?」
「そこはやっぱり、おとぎ話に登場するようなベッドだな」
「天蓋付きのだね」
「キングサイズで大きな枕」
「体が沈み込むくらいのフカフカなスプリングマット」
「ピンク色のフリルがふんだんに使われたカーテン」
「ヘッドボードには草花の浮き彫り」
「羽毛布団」
「白いシーツ」
「そんなとこだろう」
「うん、イメージできたし、材料もある。いつでも作れるよ」
「ドラゴンがいつごろ戻ってくるかわからないんだよな。食料をもたずに才賀を連れ去るし」
彼が不思議そうな表情で俺を見る。
「ねえ、苦瓜君は寂しくないの?」
「なにが?」
「なにがって、城野さんが連れ去られたのに寂しそうじゃないからさ」
「アイツは結構図太いし、順応するタイプだし、案外平気だと思うぜ」
「そうじゃなくて、彼女がいなくてキミは寂しくないのかってこと」
新鮮だ。幼馴染が俺の彼女だと思っているヤツがいる。
「離れていても心が繋がっている。そう感じるのさ」
ウソだがな。
説明するのも面倒くさい。
「苦瓜君は強いね、ボクはダメだ」
「二見のことか。どうして止めなかった?」
二見朱里はコイツを置いてもとの世界に帰る方法を探しにいった。
キッパリと別れたのかと思っていたが、まだ未練タラタラだ。
「あの子はボクが止めても聞かないよ」
「なら、どうしていっしょにいかなかった?」
「足手まといになりたくなかった……。いや、違う、怖かったんだ」
「わかる」
「わかる? 苦瓜君が? ドラゴンの前に平気で立てるキミが? そんなのウソだ」
めんどくさいヤツ。
そういえば二見朱里と気仙修司の仲も疑っていたな。
人の言葉が信じられないタイプなのかもしれない。
「ウソかもな」
「えっ?」
「かりに俺が、ドラゴンに恐怖を抱かない強靭な心をもち、彼女がいなくても寂しさを感じない冷徹男だとして、それがなんだ? 俺との違いを実感して妬んで、その先に何がある? 成長しない自分自身がいないか?」
「説教かい?」
あ~めんどくさいヤツ!
よく二見朱里はつきあっていたなあ。
俺は肩をすくめてヤレヤレという表情をわざと彼に見せる。
「自虐だよ。いつも俺の隣にいる裕之は、明るくて、世話焼きで、コミュ力オバケで、気が利いて、ムードメーカーで、音楽の才能にあふれていて、おもしろくて、信頼できるヤツだ。自分と比較するのがバカらしくなるくらいな」
「あっ……」
――その気づきは失礼だがな!!!
俺が儀保裕之のオマケと思われているのは知っている。
その反応もいまさらだ。
「だから、俺は俺なんだと言い聞かせている。千坂は千坂だ。外の世界が怖い? 彼女がいなくて寂しい? いいじゃないかそれが普通だよ」
泣きそうな顔してやがる……。
「ありがとう苦瓜君、なんだか心が軽くなった気がする」
「そうか」
触れていないからメンタルケアの効果は発動していないはず。
コイツの好感度は欲しくないからな。
「なにかお礼をさせて欲しい」
「なら俺にも最高級のベッドを作ってくれよ」
「任せてよ!」
お礼って……。オマエの悩みは一歩も解決してないんだぞ、わかっているのか?
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
ドラゴンが飛び去って数時間しかたっていないのに、もう戻ってきた。
才賀小夜の顔がツヤツヤしてるのが気になるが無事ならよし。
ドラゴンはベッドを受け取るとすぐに飛び去った。
「才賀さん、大丈夫?」
「委員長ひどいよぉ~~~」
「ごめんごめん。とりあえずみんなのところへ戻ろうか」
俺たちは堤防をおりて村の中心に移動した。
生産系加護のクラスメイトが才賀小夜に群がる。
鍛冶屋の儀保裕之、錬金術の連城敏昭、建設の気仙修司、機関工の菊池潤奈、玩具の油科輝彦、電気工の出淵旭。
彼らがどんな新しいモノを作るのか楽しみだ。
「うひっ、そんなに責められたら、わたしの体がもたないよぉ~」
材料の受け渡しをしているだけなのに興奮してる。
頭が腐ってやがる。腐女子だけにな。
「両津殿、欲しがっていた食洗器、作れるようになったでござるよ」
出淵旭がドヤ顔した。
「やった!」
食堂の両津朱莉が手を叩いて喜ぶ。
いつも笑顔の彼女が、さらに顔を輝かせた。それほどに食洗器が欲しかったんだなあ。
「でもザンネン! 電気がないでござる」
「そこはボクに任せてよ、水力発電システムが作れるようになったから村に電気を流せるよ」
建設の気仙修司が胸を張る。
やはり加護のなかで彼だけ破格な性能だと言わざるを得ない。
たぶん、ひとりでもこの世界で生きていけるだろう。
いや、材料が手に入らないから、ある意味無能なのか?
「お~おっ!」
クラスメイトがいっせいに喜んだ。
電気、それは文明の第一歩だ? たぶんね。
「ふっ、ふっふっふっ。ようやく時代が己等に追いついたでござる! 家庭用コンセントで動くモノなら己等にオマカセよっ!」
たぶん少女アニメのヒロインの口癖だな。
出淵旭がウインクしながら不思議なポーズをした。
それなのにクラスメイトは華麗にスルーする。もう慣れっこなのだ。
「掃除機は作れる?」
両津朱莉が期待の眼差しで彼を見た。
「クックック。吸引力のおちない紙パックなしの掃除機だって作れるでござる」
「わぁ~っ、助かる~」
女子たちがいっせいに喜んだ。
あ、俺の部屋、最後に掃除をしたのいつだろう……。
「発電システムは村の外での作業だよね。鬼頭さん、瀧田君、護衛をお願いできるかな」
「はい」
「任せてもらおう」
石亀永江の要請に二人は快く返事をした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「両津さん、なにか食べさせて~」
「あらっ儀保君といっしょじゃないなんて珍しい」
「鍛冶屋には牧瀬がいるからさ」
「なるほど、バディー取られちゃったか」
「そーゆーこと」
「ポテチでいい?」
「サンキュー」
夕食には、まだかなり早いので食堂には誰もいなかった。
テーブルのうえにポテチを置くと両津朱莉が俺の前の椅子に座った。
木製のサラダボールに山盛り入っている。
「いただきます」
シンプルな塩味のポテチはパリッと揚がっていてとてもうまい。
「儀保君と牧瀬さん、うまくいってないよね?」
「知らないよ、プライベートには干渉しないのさ」
「親友なのに?」
「親友だからだよ。話してこないのは聞かれたくないってことだ」
「そうかなぁ……」
「じゃあ両津さんは瀧田とうまくいってる?」
第一次ロマンティックフィーバーのころ、俺の目の前で彼女は瀧田賢に告白した。
しかし、二人が交際を始めたという噂は聞かないし、ネトラレにも反応はない。
気にはなっていたがプライベートな問題なのでノータッチ。
俺ができるのは夜の営みを覗くことだけだ。
彼女は無言で下をむく。
「な、聞かれたくないだろ」
「話してもいいけど、わたし泣くよ」
「重い話かよ! でもポテチのお礼もあるし、俺で良ければ聞くぜ」
彼女は顔をあげると、モゴモゴしながら話始めた。
「瀧田君ね、涼音が好きなんだって」
「アイツ女の趣味悪いな」
「涼音は親友なんだけど」
「あ、わりぃ」
出水涼音とSM好きの片倉澄夏とコイツの三人は仲がいいのだ。
好きな男が友達を好きなんて、少女漫画のような話が本当にあるんだな。
「でも出水には彼氏がいるだろ」
「えっ?」
彼女がくりっとした目を見開いて俺を見た。
「へっ? 友達なら話すんじゃないのかよ!」
「聞いてない! いつもいないって返事してるし。涼音のカレシって誰?」
「プライベートだ教えないよ」
「そこをなんとか!」
彼女は手を合わせてお願いしてくる。
「それに、最近別れたと思う。これは未確認だ」
「なんでキミが知ってるのかな」
「俺は人間観察が趣味なんだぜ」
「そっか……。涼音はキレイだし、お金持ちだし、わたし敵いっこないよ」
「恋愛はワカラン。彼女いたことないし」
「城野さんがいるじゃない」
あ、コイツも俺を見ていないタイプだ。
「アイツは家族であって彼女じゃないんだ」
「彼女よりも上なんだ~。ステキね」
恋愛脳め!
もう説明するのもあきたな、勘違いさせておこう。
「出水はもう帰ってこないだろ。ゆっくりとアイツを魅了すればいいじゃないか」
「ヒドイこというのね」
彼女はムスッとした。
「楽観視していないだけさ。ドラゴンのような化け物に遭遇する可能性。戦争に巻き込まれる可能性。他にも危険は数えきれないほどある。無事に戻ってこれる保証なんてどこにもない」
「そうかもしれないけど……」
彼女は寂しそうな表情でテーブルに視線を落とす。
「今までだって奇跡的に助かっているだけだ。委員長は雷に撃たれるし、出水なんて二度も死んでるんだぜ」
「うん……」
「俺だって城野には帰ってきて欲しいと思っている。けれどドラゴンから助け出すなんて非現実的だ」
「そうだったわね、ごめんなさい」
彼女は俺の境遇を思い出したようでしょんぼりする。
凹ませたいわけじゃないんだけどなあ。
「謝って欲しいわけじゃない。前をむいて欲しいんだ。瀧田が好きなヤツはいない。ならアタックあるのみだ!」
「アタック……」
彼女の目に光が戻ってきた。
「胃袋を掴め! 料理はキミの武器だ! 瀧田の好物はなんだ?」
「カレーよ」
「よし、カレーを作るんだ!」
「スパイスがありません……」
目の光がまた消えてしまった。
「あの国に売ってなかったのか?」
「探してないからわからないわ」
「なら探せばいい。畜産を始めるんだ。他の村にいく機会だってあるさ」
「そうね、がんばってみる」
よかった。恋愛の話からなんとか横道にそらしたぞ。
彼女いない歴イコール年齢の俺には無理な相談なんだよ。
他人の恋愛相談ばかりのってるな俺。
外が騒がしい、なにかあったのか?
クラスメイトの緊迫した声が部屋のなかにまで届く。
「なにかしら?」
「見てくる」
人垣の外で石亀永江が青い顔をしている。
「どうした」
彼女の肩を叩き、声をかけたが反応がない。
「とにかく病院へ運ぼう」と、瀧田賢の声がする。
人垣の隙間から奥を覗く。
そこには、血を流した傷だらけの鬼頭日香莉がいた。
瀧田賢と気仙修司に両側から支えられ、引きずられている。
「鬼頭さん――」
彼の店にはサンプルとして洋服タンスやドレッサーなどが展示してある。
儀保裕之の店とは雲泥の差だ。
サンプルの椅子に座る俺と千坂隆久。
「――それにしても、ドラゴンがベッドを欲しがるなんておかしいね」
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幼馴染がドラゴンをあごで使っているなんて悪い噂になるのを避けるため、アイツからのお願いという話は伏せておいた。
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「そもそもドラゴンがおとぎ話に登場する生物だからなあ」
「言えてる。で、ベッドのデザインはどうするの?」
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「天蓋付きのだね」
「キングサイズで大きな枕」
「体が沈み込むくらいのフカフカなスプリングマット」
「ピンク色のフリルがふんだんに使われたカーテン」
「ヘッドボードには草花の浮き彫り」
「羽毛布団」
「白いシーツ」
「そんなとこだろう」
「うん、イメージできたし、材料もある。いつでも作れるよ」
「ドラゴンがいつごろ戻ってくるかわからないんだよな。食料をもたずに才賀を連れ去るし」
彼が不思議そうな表情で俺を見る。
「ねえ、苦瓜君は寂しくないの?」
「なにが?」
「なにがって、城野さんが連れ去られたのに寂しそうじゃないからさ」
「アイツは結構図太いし、順応するタイプだし、案外平気だと思うぜ」
「そうじゃなくて、彼女がいなくてキミは寂しくないのかってこと」
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「なら、どうしていっしょにいかなかった?」
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「わかる」
「わかる? 苦瓜君が? ドラゴンの前に平気で立てるキミが? そんなのウソだ」
めんどくさいヤツ。
そういえば二見朱里と気仙修司の仲も疑っていたな。
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「ウソかもな」
「えっ?」
「かりに俺が、ドラゴンに恐怖を抱かない強靭な心をもち、彼女がいなくても寂しさを感じない冷徹男だとして、それがなんだ? 俺との違いを実感して妬んで、その先に何がある? 成長しない自分自身がいないか?」
「説教かい?」
あ~めんどくさいヤツ!
よく二見朱里はつきあっていたなあ。
俺は肩をすくめてヤレヤレという表情をわざと彼に見せる。
「自虐だよ。いつも俺の隣にいる裕之は、明るくて、世話焼きで、コミュ力オバケで、気が利いて、ムードメーカーで、音楽の才能にあふれていて、おもしろくて、信頼できるヤツだ。自分と比較するのがバカらしくなるくらいな」
「あっ……」
――その気づきは失礼だがな!!!
俺が儀保裕之のオマケと思われているのは知っている。
その反応もいまさらだ。
「だから、俺は俺なんだと言い聞かせている。千坂は千坂だ。外の世界が怖い? 彼女がいなくて寂しい? いいじゃないかそれが普通だよ」
泣きそうな顔してやがる……。
「ありがとう苦瓜君、なんだか心が軽くなった気がする」
「そうか」
触れていないからメンタルケアの効果は発動していないはず。
コイツの好感度は欲しくないからな。
「なにかお礼をさせて欲しい」
「なら俺にも最高級のベッドを作ってくれよ」
「任せてよ!」
お礼って……。オマエの悩みは一歩も解決してないんだぞ、わかっているのか?
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ドラゴンが飛び去って数時間しかたっていないのに、もう戻ってきた。
才賀小夜の顔がツヤツヤしてるのが気になるが無事ならよし。
ドラゴンはベッドを受け取るとすぐに飛び去った。
「才賀さん、大丈夫?」
「委員長ひどいよぉ~~~」
「ごめんごめん。とりあえずみんなのところへ戻ろうか」
俺たちは堤防をおりて村の中心に移動した。
生産系加護のクラスメイトが才賀小夜に群がる。
鍛冶屋の儀保裕之、錬金術の連城敏昭、建設の気仙修司、機関工の菊池潤奈、玩具の油科輝彦、電気工の出淵旭。
彼らがどんな新しいモノを作るのか楽しみだ。
「うひっ、そんなに責められたら、わたしの体がもたないよぉ~」
材料の受け渡しをしているだけなのに興奮してる。
頭が腐ってやがる。腐女子だけにな。
「両津殿、欲しがっていた食洗器、作れるようになったでござるよ」
出淵旭がドヤ顔した。
「やった!」
食堂の両津朱莉が手を叩いて喜ぶ。
いつも笑顔の彼女が、さらに顔を輝かせた。それほどに食洗器が欲しかったんだなあ。
「でもザンネン! 電気がないでござる」
「そこはボクに任せてよ、水力発電システムが作れるようになったから村に電気を流せるよ」
建設の気仙修司が胸を張る。
やはり加護のなかで彼だけ破格な性能だと言わざるを得ない。
たぶん、ひとりでもこの世界で生きていけるだろう。
いや、材料が手に入らないから、ある意味無能なのか?
「お~おっ!」
クラスメイトがいっせいに喜んだ。
電気、それは文明の第一歩だ? たぶんね。
「ふっ、ふっふっふっ。ようやく時代が己等に追いついたでござる! 家庭用コンセントで動くモノなら己等にオマカセよっ!」
たぶん少女アニメのヒロインの口癖だな。
出淵旭がウインクしながら不思議なポーズをした。
それなのにクラスメイトは華麗にスルーする。もう慣れっこなのだ。
「掃除機は作れる?」
両津朱莉が期待の眼差しで彼を見た。
「クックック。吸引力のおちない紙パックなしの掃除機だって作れるでござる」
「わぁ~っ、助かる~」
女子たちがいっせいに喜んだ。
あ、俺の部屋、最後に掃除をしたのいつだろう……。
「発電システムは村の外での作業だよね。鬼頭さん、瀧田君、護衛をお願いできるかな」
「はい」
「任せてもらおう」
石亀永江の要請に二人は快く返事をした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「両津さん、なにか食べさせて~」
「あらっ儀保君といっしょじゃないなんて珍しい」
「鍛冶屋には牧瀬がいるからさ」
「なるほど、バディー取られちゃったか」
「そーゆーこと」
「ポテチでいい?」
「サンキュー」
夕食には、まだかなり早いので食堂には誰もいなかった。
テーブルのうえにポテチを置くと両津朱莉が俺の前の椅子に座った。
木製のサラダボールに山盛り入っている。
「いただきます」
シンプルな塩味のポテチはパリッと揚がっていてとてもうまい。
「儀保君と牧瀬さん、うまくいってないよね?」
「知らないよ、プライベートには干渉しないのさ」
「親友なのに?」
「親友だからだよ。話してこないのは聞かれたくないってことだ」
「そうかなぁ……」
「じゃあ両津さんは瀧田とうまくいってる?」
第一次ロマンティックフィーバーのころ、俺の目の前で彼女は瀧田賢に告白した。
しかし、二人が交際を始めたという噂は聞かないし、ネトラレにも反応はない。
気にはなっていたがプライベートな問題なのでノータッチ。
俺ができるのは夜の営みを覗くことだけだ。
彼女は無言で下をむく。
「な、聞かれたくないだろ」
「話してもいいけど、わたし泣くよ」
「重い話かよ! でもポテチのお礼もあるし、俺で良ければ聞くぜ」
彼女は顔をあげると、モゴモゴしながら話始めた。
「瀧田君ね、涼音が好きなんだって」
「アイツ女の趣味悪いな」
「涼音は親友なんだけど」
「あ、わりぃ」
出水涼音とSM好きの片倉澄夏とコイツの三人は仲がいいのだ。
好きな男が友達を好きなんて、少女漫画のような話が本当にあるんだな。
「でも出水には彼氏がいるだろ」
「えっ?」
彼女がくりっとした目を見開いて俺を見た。
「へっ? 友達なら話すんじゃないのかよ!」
「聞いてない! いつもいないって返事してるし。涼音のカレシって誰?」
「プライベートだ教えないよ」
「そこをなんとか!」
彼女は手を合わせてお願いしてくる。
「それに、最近別れたと思う。これは未確認だ」
「なんでキミが知ってるのかな」
「俺は人間観察が趣味なんだぜ」
「そっか……。涼音はキレイだし、お金持ちだし、わたし敵いっこないよ」
「恋愛はワカラン。彼女いたことないし」
「城野さんがいるじゃない」
あ、コイツも俺を見ていないタイプだ。
「アイツは家族であって彼女じゃないんだ」
「彼女よりも上なんだ~。ステキね」
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もう説明するのもあきたな、勘違いさせておこう。
「出水はもう帰ってこないだろ。ゆっくりとアイツを魅了すればいいじゃないか」
「ヒドイこというのね」
彼女はムスッとした。
「楽観視していないだけさ。ドラゴンのような化け物に遭遇する可能性。戦争に巻き込まれる可能性。他にも危険は数えきれないほどある。無事に戻ってこれる保証なんてどこにもない」
「そうかもしれないけど……」
彼女は寂しそうな表情でテーブルに視線を落とす。
「今までだって奇跡的に助かっているだけだ。委員長は雷に撃たれるし、出水なんて二度も死んでるんだぜ」
「うん……」
「俺だって城野には帰ってきて欲しいと思っている。けれどドラゴンから助け出すなんて非現実的だ」
「そうだったわね、ごめんなさい」
彼女は俺の境遇を思い出したようでしょんぼりする。
凹ませたいわけじゃないんだけどなあ。
「謝って欲しいわけじゃない。前をむいて欲しいんだ。瀧田が好きなヤツはいない。ならアタックあるのみだ!」
「アタック……」
彼女の目に光が戻ってきた。
「胃袋を掴め! 料理はキミの武器だ! 瀧田の好物はなんだ?」
「カレーよ」
「よし、カレーを作るんだ!」
「スパイスがありません……」
目の光がまた消えてしまった。
「あの国に売ってなかったのか?」
「探してないからわからないわ」
「なら探せばいい。畜産を始めるんだ。他の村にいく機会だってあるさ」
「そうね、がんばってみる」
よかった。恋愛の話からなんとか横道にそらしたぞ。
彼女いない歴イコール年齢の俺には無理な相談なんだよ。
他人の恋愛相談ばかりのってるな俺。
外が騒がしい、なにかあったのか?
クラスメイトの緊迫した声が部屋のなかにまで届く。
「なにかしら?」
「見てくる」
人垣の外で石亀永江が青い顔をしている。
「どうした」
彼女の肩を叩き、声をかけたが反応がない。
「とにかく病院へ運ぼう」と、瀧田賢の声がする。
人垣の隙間から奥を覗く。
そこには、血を流した傷だらけの鬼頭日香莉がいた。
瀧田賢と気仙修司に両側から支えられ、引きずられている。
「鬼頭さん――」
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