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53話
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あの国から無事に脱出できた俺たちは、儀保裕之の待つキャンピングカーに到着した。
「えっ? なにこの車!」
まず、車を見て二見朱里が驚いた。
「えっ? 儀保君が委員長代理?」
村に帰る途中、近況を話したら出水涼音が驚いた。
「えっ? 攻め込まれた? 良知君死んだの?」
由良麻美も驚いている。
「えっ? 電気?」
「えっ? 家畜?」
村へ帰る道中は彼女たちの驚きの声でとても騒がしかった。
昨夜、寝ずに警戒していた俺は、彼女たちの声を子守歌に聞きながら車の後部で爆睡したのだ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
彼女たちが村に帰還した翌日。
「クラス会議を始めるぜ。議題は作業分担の見直しだ」
議事堂には、助け出した三人を加えた二十七人が集合している。
「その前に、もう知っていると思うが才原が殺された」
村に帰る途中、先に無線で報告したので、彼の訃報はすでに周知している。
なので、驚く人はいないし、悲しい顔をしているが泣いている人はいない。
「それと、宰相をぶっ殺した」
「えっ?!」
この報告にはみんな驚いた。
「当然だ! 目には目を、歯には歯を、命ひとつには命ひとつを。文句のあるヤツはいるか?」
瀧田賢が挙手した。
「俺は言ったはずだ、責任は取れるのかと」
「責任、むずかしい言葉だな。俺に意味を教えてくれよ」
「ふざけているのか」
儀保裕之の表情は真剣そのものだ。
「マジな話だよ。責任って言葉にはいくつもの意味があるんだ。そのどれをオマエが言ったのか聞いたんだ」
「どれ、とは?」
「たとえばだ、企業で問題が発生したら社長が責任を取り辞めるだろ、オマエは俺に委員長代理を辞めて欲しいのか? だがそれは無責任だ。次に、法律上では判決で言い渡された刑罰を受けるのが責任だ。オマエが俺の刑罰を決めるのか? それは横暴だぞ。そして、俺の考える責任とは立場に即した行動だ。俺は委員長代理としてクラスメイトを守る決断をし、行動した。これが俺の考える責任の取りかただ。――と、翔矢が言っていた」
瀧田賢は苦い表情をしているが、ふぅと溜息を吐く。
納得したようすではないが、これ以上の議論はムダだと判断したのかもしれない。
「意義を取り下げる」
「わかった。――話を戻す。潘は探したが見つからなかった。彼には隷属の首輪がつけられている。遠くない未来、たぶん攻めてくるだろう」
議事堂がザワザワする。
良知智晃が攻めてきた惨状を思い出し、話している人が多い。
「そこで、作業分担の見直しだ。翔矢よろしく」
「また丸投げかよ。まあいいけど」
俺は立ち上がり、みんなのほうを見る。
「まず三人に確認したい。出水さん、二見さん、由良さん、もとの世界に帰る方法をふたたび探しにいきますか?」
「わたくしはあきらめました。方法を探す前に、一般常識や生活習慣の違いで生き残るのもむずかしいと感じましたわ」
「吾も出水さんと同じ意見だね。潤沢な資金があれば可能だけど、路銀を稼ぎながらの旅は無理だね」
「わたしはついていっただけだから、二人が行かないというのなら、もう……」
「わかった。なら三人も作業分担に組み込むよ。まずは潘の捜索、隷属の首輪をつけた彼は脅威だ。なるべく早く見つけたい」
連城敏昭が挙手した。
クラス会議でコイツが発言するなんて凄く稀だ。
「なあ、疑問だったんだが、どうやって委員長から首輪をはずしたんだ? 俺の鑑定結果だと、つけたヤツしかはずせないんだ。潘につけたのは宰相なんだろ。ソイツが死んだらどうなるんだ?」
出水涼音が挙手した。
「わたくしは首輪をはずす方法を知っていたので委員長からはずしました。けれど、つけた人が死んだ場合どうなるか知りませんわ」
さすが令嬢、ウソは言っていない。
オマエは石亀永江を殺して首輪をはずしたんだからな。
そうだ、はずした首輪はどこへやった?
最後にもっていたのは才原優斗だが……。
「自動的にはずれるんじゃないか? そうなら潘は自力で逃げ出すかもしれない」
「かもな」
連城敏昭はあっさりと納得してくれた。
他のクラスメイトは納得していないようだが、俺からボロが出る前に話を進めてしまおう。
「もういちど首都に潜入しようと考えている。家畜の買付けはしばらく待ってくれ。潘が見つかるまでは防衛を強化したい。油科、ドローンを作り、上空から監視してくれ」
「わかった」
「由良さんも探知で敵兵がいないかつねに探してくれ」
「はい」
「潘の炎は一瞬で人を焼き殺せるほどの威力らしい。なので家に隠れるくらいじゃ防げないと思う。シェルターの制作具合はどうだ?」
気仙修司に確認を取る。
「まだ半分だね、空調や配管がむずかしくて」
「急がないから安全第一でよろしく」
「うん」
「出淵、警報システムが欲しい。みんなが早く避難できるように警報を鳴らしたいんだ」
「己等に任せるでござる」
「避難訓練もやっとくか」と、儀保裕之がつぶやいた。
「そうだな。防衛に関しては以上だ、あとの分担は任せた」
「おうよ。食堂五人、銭湯二人、畜産七人、農作業は残り全員。立候補者優先、多いところはジャンケンな」
牧瀬遙が挙手した。
「わたし畜産やりたくないんだけど」
「あっそ」
「え、それだけ?」
彼女が困惑している。
「そこそこ好きな仕事を分担しようぜって話たはずだ。やりたい仕事があるならそれ選べよ」
「そんなのないわよ」
「じゃあ農作業な。他に立候補いないか――」
ムスッとした彼女を無視して、儀保裕之は分担を決めていく。
前から感じてたが、対応が冷たくないか?
幼馴染だからそっけない態度なんだと思っていたけど何かあるのかもな。
しかし、村に協力しない人がどうなるか新垣沙弥香の件で痛いほど知っているはずなのに、ワガママなヤツだ。
「――じゃ、これで決定な。定期的に開催するからー、合わない仕事はそんときに別の選んでくれ。何か報告とか言いたいことあるヤツいるか?」
由良麻美が挙手した。
「才原君のお葬式、しない?」
みんなハッとした表情になる。
遺体がないせいで俺も忘れていた。
「賛成だ。誰か葬儀にくわしい人いるか」
いないようだ。
「翔矢、アイデアプリーズ」
「古来より冠婚葬祭は地域や宗教によって違っていた。それは今でも根強くつづいている。だからこの村独自のやりかたでいいと思う」
「その考えいいな。具体的には」
「ん~……。通夜は故人の思い出を語り合う時間だ。食堂に集まって食事をしながらアイツの話をしよう。葬儀は故人との別れ。この村では遺体を川に流す水葬だな。才原の遺体はないから、代用……、花輪とか作って流したらどうだろうか」
儀保裕之は由良麻美を真っすぐ見ながら話し始める。
「俺の思い過ごしかもしれないけど、由良さんはアイツに特別な思いを抱いていたんじゃないかと思う。キミが良ければ翔矢の案を採用する。どうだろうか?」
「うん、いいと思う。花輪はわたしに作らせて」
「頼むよ。――ほかに何かあるか? ――ないようだな、会議を終了する。出水さん、筒井さん、ちょっといいかな」
あの二人に用事? なんだろう。
気になるけれど俺は議事堂を後にした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
日が暮れたあと、食堂にクラスメイトが集合した。
料理は両津朱莉が用意した。
儀保裕之が前に出て司会進行をする。
「それではこれより通夜を始めるぞ。湿っぽいのは嫌いだ、明るくいく、みなさんコップをおもちください」
ジュースの入ったコップを手にもつ。
果樹園の果物を絞った百パーセント果汁だ。
「ご唱和ください。才原オマエのことは、忘れないぜ!」
「忘れないぜ(わ)!!!」
ジュースはさっぱりとした柑橘系の味だ。
「今から才原の思い出を語りたいヤツが発表していくことにしよう。まずは俺からだ。アイツ、むかつくほどイケメンだよな。それなのに彼女がいないとかありえね~。あとエロ本もってないんだぜ、信じられるか? アイツにはチンコ付いてないと思うね!」
みんな爆笑している。
さすがムードメーカーの儀保裕之、食堂の雰囲気が一気に明るくなった。
「さあ、語りたいヤツはいるか?」
わが愛しの鬼頭日香莉が挙手し、立ちあがる。
「わたしと才原君が交際していると噂が流れているの知ってました。彼の名誉のために言います。交際していません。わたしから告白していませんし、彼から告白もされていません」
「暴露キター! それで鬼頭さん、アイツに告白されたらどうしてた?」
「タイプじゃないので、ごめんなさいしたと思います」
みんなが爆笑した。
次々とクラスメイトが思い出を語っていく。
落とした消しゴムを拾ってくれてキュンとした女子。
満員電車で痴漢を捕まえてくれてトゥンクした女子。
サッカーのシュートを決めた彼が手を振ってくれてジュンとした女子。
女子がアイツを褒めるたびに男子に負のオーラが溜まっていく。
しかし悪口を言うヤツはいなかった。
イケメンでも男子に好かれるヤツだったのだ。
嫉妬心はハンパないけどな!
「語りたいヤツいるか?」
もう手を挙げる人はいない。
たぶん、最後に語りたいのだろう、そのタイミングで出水涼音が挙手した。
「わたくし幼いころに誘拐されました。ご存じの人もいらっしゃるわよね。その事件を担当したのが才原君のお父様です。それ以来、我が家に遊びにくるようになり、そこに彼もついてきたの。だから彼とは幼馴染です」
知らなかった人が多いようだ。驚いた表情の人が目立つ。
もちろん俺も初耳だ。
「彼をいじめるのが楽しくて楽しくて。泣いた顔もかわいらしくて。弟ができた気分でしたわ。そう、姉思いの弟……。わたくしがもとの世界に帰りたいと願ったから彼はついてきた。彼が亡くなったのはわたくしのせい、なんて思い上がりですわよね。ただ、彼は、最後の一瞬まで、わたくしたちを守ろうとしてくれました。とても頼りがいのある、勇敢な男子でした、そんな弟を誇りに思います」
自然と拍手がおきた。
俺は知っている。オマエたちは姉弟の関係じゃない男女の関係だ。
……いや、二人の性行為で、彼女が妙に冷めていたのを思い出した。
弟の欲求不満を姉が処理していた可能性も考えられる。
歪な関係だ。
エロ本がなかったのも彼女が処理していたから。
そして、処理してくれなくなったから上別府衿花に手を出した。
俺の考えすぎだろうか……。
「語りたいヤツいるか? ――いないようだな。じゃあしめるとするか」
店の奥から儀保裕之はギターを、出水涼音はフルートをもってきた。
合唱部の筒井卯月が前に立つ。
鎮魂歌――。
戦場に向かう兵士を見送る女性の思い。
戦争には勝ったけれど愛する人は戻ってこない悲しみ。
残された寂しさ。
ひとりでも強く生きていく勇気。
けっして忘れはしないと誓う。
そんな心情が歌に込められていた。
アイツの奏でるギターは暖かく、そして悲しく。
出水涼音の吹くフルートは女性の鳴き声のように悲壮的で。
筒井卯月の声は、寂しさのなかに折れない強さが込められていた。
アイツを好きだった由良麻美はハンカチを涙でぐしゃぐしゃにしながら泣き。
友人の牧瀬遙は震える彼女の肩を抱き。
女子たちは目頭を熱くしている。
目を閉じ上をむいて涙をこらえる男子もいた。
俺はテーブルに伏せている。
涙を見せるのが恥ずかしいわけじゃない。
ちょっと食べ過ぎただけだ。
才原、またな――。
「えっ? なにこの車!」
まず、車を見て二見朱里が驚いた。
「えっ? 儀保君が委員長代理?」
村に帰る途中、近況を話したら出水涼音が驚いた。
「えっ? 攻め込まれた? 良知君死んだの?」
由良麻美も驚いている。
「えっ? 電気?」
「えっ? 家畜?」
村へ帰る道中は彼女たちの驚きの声でとても騒がしかった。
昨夜、寝ずに警戒していた俺は、彼女たちの声を子守歌に聞きながら車の後部で爆睡したのだ。
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彼女たちが村に帰還した翌日。
「クラス会議を始めるぜ。議題は作業分担の見直しだ」
議事堂には、助け出した三人を加えた二十七人が集合している。
「その前に、もう知っていると思うが才原が殺された」
村に帰る途中、先に無線で報告したので、彼の訃報はすでに周知している。
なので、驚く人はいないし、悲しい顔をしているが泣いている人はいない。
「それと、宰相をぶっ殺した」
「えっ?!」
この報告にはみんな驚いた。
「当然だ! 目には目を、歯には歯を、命ひとつには命ひとつを。文句のあるヤツはいるか?」
瀧田賢が挙手した。
「俺は言ったはずだ、責任は取れるのかと」
「責任、むずかしい言葉だな。俺に意味を教えてくれよ」
「ふざけているのか」
儀保裕之の表情は真剣そのものだ。
「マジな話だよ。責任って言葉にはいくつもの意味があるんだ。そのどれをオマエが言ったのか聞いたんだ」
「どれ、とは?」
「たとえばだ、企業で問題が発生したら社長が責任を取り辞めるだろ、オマエは俺に委員長代理を辞めて欲しいのか? だがそれは無責任だ。次に、法律上では判決で言い渡された刑罰を受けるのが責任だ。オマエが俺の刑罰を決めるのか? それは横暴だぞ。そして、俺の考える責任とは立場に即した行動だ。俺は委員長代理としてクラスメイトを守る決断をし、行動した。これが俺の考える責任の取りかただ。――と、翔矢が言っていた」
瀧田賢は苦い表情をしているが、ふぅと溜息を吐く。
納得したようすではないが、これ以上の議論はムダだと判断したのかもしれない。
「意義を取り下げる」
「わかった。――話を戻す。潘は探したが見つからなかった。彼には隷属の首輪がつけられている。遠くない未来、たぶん攻めてくるだろう」
議事堂がザワザワする。
良知智晃が攻めてきた惨状を思い出し、話している人が多い。
「そこで、作業分担の見直しだ。翔矢よろしく」
「また丸投げかよ。まあいいけど」
俺は立ち上がり、みんなのほうを見る。
「まず三人に確認したい。出水さん、二見さん、由良さん、もとの世界に帰る方法をふたたび探しにいきますか?」
「わたくしはあきらめました。方法を探す前に、一般常識や生活習慣の違いで生き残るのもむずかしいと感じましたわ」
「吾も出水さんと同じ意見だね。潤沢な資金があれば可能だけど、路銀を稼ぎながらの旅は無理だね」
「わたしはついていっただけだから、二人が行かないというのなら、もう……」
「わかった。なら三人も作業分担に組み込むよ。まずは潘の捜索、隷属の首輪をつけた彼は脅威だ。なるべく早く見つけたい」
連城敏昭が挙手した。
クラス会議でコイツが発言するなんて凄く稀だ。
「なあ、疑問だったんだが、どうやって委員長から首輪をはずしたんだ? 俺の鑑定結果だと、つけたヤツしかはずせないんだ。潘につけたのは宰相なんだろ。ソイツが死んだらどうなるんだ?」
出水涼音が挙手した。
「わたくしは首輪をはずす方法を知っていたので委員長からはずしました。けれど、つけた人が死んだ場合どうなるか知りませんわ」
さすが令嬢、ウソは言っていない。
オマエは石亀永江を殺して首輪をはずしたんだからな。
そうだ、はずした首輪はどこへやった?
最後にもっていたのは才原優斗だが……。
「自動的にはずれるんじゃないか? そうなら潘は自力で逃げ出すかもしれない」
「かもな」
連城敏昭はあっさりと納得してくれた。
他のクラスメイトは納得していないようだが、俺からボロが出る前に話を進めてしまおう。
「もういちど首都に潜入しようと考えている。家畜の買付けはしばらく待ってくれ。潘が見つかるまでは防衛を強化したい。油科、ドローンを作り、上空から監視してくれ」
「わかった」
「由良さんも探知で敵兵がいないかつねに探してくれ」
「はい」
「潘の炎は一瞬で人を焼き殺せるほどの威力らしい。なので家に隠れるくらいじゃ防げないと思う。シェルターの制作具合はどうだ?」
気仙修司に確認を取る。
「まだ半分だね、空調や配管がむずかしくて」
「急がないから安全第一でよろしく」
「うん」
「出淵、警報システムが欲しい。みんなが早く避難できるように警報を鳴らしたいんだ」
「己等に任せるでござる」
「避難訓練もやっとくか」と、儀保裕之がつぶやいた。
「そうだな。防衛に関しては以上だ、あとの分担は任せた」
「おうよ。食堂五人、銭湯二人、畜産七人、農作業は残り全員。立候補者優先、多いところはジャンケンな」
牧瀬遙が挙手した。
「わたし畜産やりたくないんだけど」
「あっそ」
「え、それだけ?」
彼女が困惑している。
「そこそこ好きな仕事を分担しようぜって話たはずだ。やりたい仕事があるならそれ選べよ」
「そんなのないわよ」
「じゃあ農作業な。他に立候補いないか――」
ムスッとした彼女を無視して、儀保裕之は分担を決めていく。
前から感じてたが、対応が冷たくないか?
幼馴染だからそっけない態度なんだと思っていたけど何かあるのかもな。
しかし、村に協力しない人がどうなるか新垣沙弥香の件で痛いほど知っているはずなのに、ワガママなヤツだ。
「――じゃ、これで決定な。定期的に開催するからー、合わない仕事はそんときに別の選んでくれ。何か報告とか言いたいことあるヤツいるか?」
由良麻美が挙手した。
「才原君のお葬式、しない?」
みんなハッとした表情になる。
遺体がないせいで俺も忘れていた。
「賛成だ。誰か葬儀にくわしい人いるか」
いないようだ。
「翔矢、アイデアプリーズ」
「古来より冠婚葬祭は地域や宗教によって違っていた。それは今でも根強くつづいている。だからこの村独自のやりかたでいいと思う」
「その考えいいな。具体的には」
「ん~……。通夜は故人の思い出を語り合う時間だ。食堂に集まって食事をしながらアイツの話をしよう。葬儀は故人との別れ。この村では遺体を川に流す水葬だな。才原の遺体はないから、代用……、花輪とか作って流したらどうだろうか」
儀保裕之は由良麻美を真っすぐ見ながら話し始める。
「俺の思い過ごしかもしれないけど、由良さんはアイツに特別な思いを抱いていたんじゃないかと思う。キミが良ければ翔矢の案を採用する。どうだろうか?」
「うん、いいと思う。花輪はわたしに作らせて」
「頼むよ。――ほかに何かあるか? ――ないようだな、会議を終了する。出水さん、筒井さん、ちょっといいかな」
あの二人に用事? なんだろう。
気になるけれど俺は議事堂を後にした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
日が暮れたあと、食堂にクラスメイトが集合した。
料理は両津朱莉が用意した。
儀保裕之が前に出て司会進行をする。
「それではこれより通夜を始めるぞ。湿っぽいのは嫌いだ、明るくいく、みなさんコップをおもちください」
ジュースの入ったコップを手にもつ。
果樹園の果物を絞った百パーセント果汁だ。
「ご唱和ください。才原オマエのことは、忘れないぜ!」
「忘れないぜ(わ)!!!」
ジュースはさっぱりとした柑橘系の味だ。
「今から才原の思い出を語りたいヤツが発表していくことにしよう。まずは俺からだ。アイツ、むかつくほどイケメンだよな。それなのに彼女がいないとかありえね~。あとエロ本もってないんだぜ、信じられるか? アイツにはチンコ付いてないと思うね!」
みんな爆笑している。
さすがムードメーカーの儀保裕之、食堂の雰囲気が一気に明るくなった。
「さあ、語りたいヤツはいるか?」
わが愛しの鬼頭日香莉が挙手し、立ちあがる。
「わたしと才原君が交際していると噂が流れているの知ってました。彼の名誉のために言います。交際していません。わたしから告白していませんし、彼から告白もされていません」
「暴露キター! それで鬼頭さん、アイツに告白されたらどうしてた?」
「タイプじゃないので、ごめんなさいしたと思います」
みんなが爆笑した。
次々とクラスメイトが思い出を語っていく。
落とした消しゴムを拾ってくれてキュンとした女子。
満員電車で痴漢を捕まえてくれてトゥンクした女子。
サッカーのシュートを決めた彼が手を振ってくれてジュンとした女子。
女子がアイツを褒めるたびに男子に負のオーラが溜まっていく。
しかし悪口を言うヤツはいなかった。
イケメンでも男子に好かれるヤツだったのだ。
嫉妬心はハンパないけどな!
「語りたいヤツいるか?」
もう手を挙げる人はいない。
たぶん、最後に語りたいのだろう、そのタイミングで出水涼音が挙手した。
「わたくし幼いころに誘拐されました。ご存じの人もいらっしゃるわよね。その事件を担当したのが才原君のお父様です。それ以来、我が家に遊びにくるようになり、そこに彼もついてきたの。だから彼とは幼馴染です」
知らなかった人が多いようだ。驚いた表情の人が目立つ。
もちろん俺も初耳だ。
「彼をいじめるのが楽しくて楽しくて。泣いた顔もかわいらしくて。弟ができた気分でしたわ。そう、姉思いの弟……。わたくしがもとの世界に帰りたいと願ったから彼はついてきた。彼が亡くなったのはわたくしのせい、なんて思い上がりですわよね。ただ、彼は、最後の一瞬まで、わたくしたちを守ろうとしてくれました。とても頼りがいのある、勇敢な男子でした、そんな弟を誇りに思います」
自然と拍手がおきた。
俺は知っている。オマエたちは姉弟の関係じゃない男女の関係だ。
……いや、二人の性行為で、彼女が妙に冷めていたのを思い出した。
弟の欲求不満を姉が処理していた可能性も考えられる。
歪な関係だ。
エロ本がなかったのも彼女が処理していたから。
そして、処理してくれなくなったから上別府衿花に手を出した。
俺の考えすぎだろうか……。
「語りたいヤツいるか? ――いないようだな。じゃあしめるとするか」
店の奥から儀保裕之はギターを、出水涼音はフルートをもってきた。
合唱部の筒井卯月が前に立つ。
鎮魂歌――。
戦場に向かう兵士を見送る女性の思い。
戦争には勝ったけれど愛する人は戻ってこない悲しみ。
残された寂しさ。
ひとりでも強く生きていく勇気。
けっして忘れはしないと誓う。
そんな心情が歌に込められていた。
アイツの奏でるギターは暖かく、そして悲しく。
出水涼音の吹くフルートは女性の鳴き声のように悲壮的で。
筒井卯月の声は、寂しさのなかに折れない強さが込められていた。
アイツを好きだった由良麻美はハンカチを涙でぐしゃぐしゃにしながら泣き。
友人の牧瀬遙は震える彼女の肩を抱き。
女子たちは目頭を熱くしている。
目を閉じ上をむいて涙をこらえる男子もいた。
俺はテーブルに伏せている。
涙を見せるのが恥ずかしいわけじゃない。
ちょっと食べ過ぎただけだ。
才原、またな――。
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