実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)

七三 一二十

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第48章:俺は誤解を受けやすいタイプなのだろうか?(不服)①

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 俺はそのまま自室にもどると学習机に付属の椅子に座り、机の上に置きっぱなしにしていたスマホを手に取った。通話アプリを起動し、先刻登録したばかりの連絡先をタップする。

「……もしもし」

 受話口の向こうから、奥杜おくもりかえでのやや緊張を帯びた声が聞こえてきた。

「悪い、かけるのが遅くなっちまった。今いいか?」

「大丈夫よ、私も宿題をやってて、今ちょうど終えたところだし」

「え、今日宿題なんてあったっけ?」

「何言ってるの、英語と数学のプリント、明日までの提出ですからね」

 完全に忘れていた。自宅までの帰路で妹から「宿題を気にするような真面目な人間ではない」という不本意な評価をくだされたばかりだが、これでは反論できんな。

「明日の朝、プリント見せてもらうってのは……ダメ?」

「ダメに決まってるでしょ。今からでも自分の力でやりなさい」

「風紀委員に対して、無謀な頼みだったか」

 軽口を叩き合っていても、どこかぎこちない。お互い、この後にあまり愉快ではない本題が控えていることを、承知しているせいだろう。

 俺は小さく息を吐いた。いつまでも先延ばしにできるものではないし、元々話があると言い出したのはこちらだ。

「さっき、ゲーセンから帰る途中のことだけどさ」

「ええ」

「あの公園の中を通って帰ろうと俺たちに提案したのは、奥杜だったよな。何であんなこと言い出したんだ?」

「……何でって、単にあのルートが近道だったからよ。結果的にそのせいで土僕ゴーレムに襲われることになったわけだから、申し訳ないとは思っているわ。でもそんなこと、事前に予想できるわけもないし」

「そうかな」

 奥杜が公園を通って帰ろうと提案してきた時、おやと思った。彼女は大分以前から前世の記憶と力を取り戻しており、退魔士として現世にはびこる魔の者たちと戦ってきた。当然、闇の深い場所は魔の領域であり奴らが出没しやすいことなど、百も承知だったはずだ。

「お前、昼休みに俺に言ったよな。「この地域でも魔の被害や目撃情報が後を絶たなくなり、脅威は確実に迫っている」って。そんな危険な時期に、あんな樹林に覆われて暗い公園の中を通ることに何の抵抗も覚えなかったって言うのか? しかもお前が言う"逢魔が刻"に、だ」

「……」

「それに噴水のあたりで土僕に遭遇した時、「まさか土僕ゴーレムが出てくるなんて……」とお前は口走ったよな。その言い方も俺には引っかかった。土僕が出現したことには驚いたが、魔物が襲ってきたこと自体には驚いていない……まるでもっと下級の魔物が出没することなら、あらかじめ想定していたような物言いに聞こえた。穿うがち過ぎかな?」

 否定を期待して投げかけた俺の問いに、奥杜は沈黙を以て応えた。どうやらもう、間違いはないようだ。光琉が土僕の爪に倒れた際、奥杜が一見過剰に見える罪悪感を発露させたのは、故ないことではなかったのだ。

「お前、光琉ひかるおとりにしたな?」

 感情を抑えこむのに、少なからぬ努力を要した。

 繰り返しになるが、魔の眷属にとって"聖女"は極上の獲物だ。魔力が覚醒した光琉が魔の領域に足を踏み入れたなら、蜜に群がるアリのごとく魔物が押し寄せてくるのは理の必然だろう。

「昼休み、こんなことも言っていた。ここのところ、魔物たちは何者かに統制されているかのように動きが狡猾になっていると。ひょっとして、お前の目的は……」

「そうよ、あの公園は最近頻繁に幽霊や妖怪が目撃され、実際にその被害にあう人も後を経たない、いわばホットスポットのような場所になっているの。まあ集まった情報を分析すると、ほとんどが下級魔族の仕業みたいなのだけどね。そいつらを捕らえるか、ないしは逃走する処を尾行して、奴らの黒幕の正体を暴きたかったの」

 腹を括ったのか、奥杜は自分の思惑を述懐しはじめた。

「あなたの言う通り、土僕ほどの強力な魔物が現れるのは想定外だった。それでもせめて召喚士サモナーの正体でも暴ければと思ったけど……結局、土僕への対処が精一杯でそれどころではなかったわね」

 召喚士を追いかけようとした光琉が土塊の中から突如出現した土僕ゴーレムに不意打ちを喰らわなければ、奥杜の目的はあるいは達成できていたかもしれない。結果的に足を引っ張った形になってしまったが、奥杜にそのことを責めるつもりはなさそうだった。それはそうだろう、この場合、光琉は巻きこまれた被害者なのだ。

「それに……光琉さんが魔族に襲われたとなれば、貴方も否応なく私たちに協力せざるを得なくなる。そういう打算もあったわ」

「私たちって、昼間言っていた"退魔"の組織ってやつか」

「ええ、あの時の天代あましろくんは、あまり乗り気じゃなさそうだったから」

 興奮していたように見えたが、その実しっかり俺を観察していたわけだ。こういう抜け目ないところは、前世から変わらない。

「だからと言って、随分乱暴なやり方じゃないか」

「魔物たちを放置しておけば、大勢の人々が生命を危うくすることになる。軽率だったかもしれないけど、そこまで事態は差し迫っているのよ。どうかわかって……」

「大勢の生命? のために、光琉は死にかけたってのか?」

 静かに言ったつもりだったが、受話口から奥杜の「ひ……!」という微かな悲鳴が聞こえてきた。自分が無意識のうちに殺気を放ってしまったことに、一拍遅れて気づいた。フェイデアには電話などという便利な代物はなかったので、それが通信電波を介してまで伝わるものなのかは分からない。あるいは奥杜――カーシャとは前世で長い付き合いだったから、俺の声色だけでこちらの心理を察したのかもしれない。

 光琉が土僕の爪によって負った傷は、常人であれば致命的な深手となるものだった。たまたま"女神の加護"の特殊能力アビリティが目覚めていたから大事には至らなかったが、そうでなければ光琉は間違いなく現世の住人ではなくなっていた……想像しただけで怖気が止まらなくなる。どれだけ他の大勢の人間が代わりに助かったとしても、到底その喪失は補えるものではない。妹の生命は、俺にとって唯一無二のものだ。
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