実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)

七三 一二十

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第49章:どうやらまだ、妹に愛想を尽かされてはいないらしい(安堵)

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 俺の願いは半分達成された。

 就寝した俺は、夢の中で妹にわずらわされることはなかった。夢も見ないほど、深く眠りこんでいたからである。光琉ひかるだけでなく俺の方も、よほど疲れがたまっていたらしい。無理もないことだが。

 ではなぜ"半分"かといえば。夢の中の妹の代わりに、現実の妹がじっとしていなかったからである。

 翌朝、眠りから醒めかけた俺は、すぐに違和感を覚えた。妙に身体が重いというか、息苦しいというか、窮屈な気がした。疲労が高じて金縛りにでもかかったかとも思ったが、どうもそうではないらしい。いぶかしさに急かされるように眼を開くと……至近距離にこの世で最も美しいもの――つまり光琉の顔があった。布団の上から、俺の身体に乗っかっていやがったのである。

「……何しとるんだ、お前は」

「ち、起きちゃったか」

 ボロボロのカーテンが閉まった室内はまだ薄暗かったが、それでも光琉が不服そうに眉をひそめたのはよくわかった。ていうか舌打ちした? 舌打ちしたよね、今?

「ん、えーとね……今朝ははやく目が覚めちゃったから、にいちゃんどうしてるかなあと思ってこの部屋をのぞいたら、爆睡してるでしょ? せーっかくあたしが来てあげたのに起きないなんてシツレーな、とちょっと腹が立ったけど、ソーメーなあたしはこれは滅多にないチャンスだとすぐ気がついたわけ。そいで目が醒めないうちにキスしちゃおうとここまで来たのに、あと一歩のところで起きるんだもん! まったく、空気を読んでよね」

「すまん、どこから突っこんだらいいかわからん」

 要するに寝込みを襲おうとしてたんじゃねえか! しかも事が露見したってのにまるで悪びれた様子がない。もうやだ、このサイコパス聖女。

「ま、夕べはあたしの方がはやく寝たんだから、起きるのもあたしが早くて当たり前なんだけどね。きっと夜更かししなかったのあたしに、神様がご褒美をくれたんだわ!」

「んな神がいてたまるか! 悪魔にそそのかされやがって」

 たしかに昨夜、光琉は早々に眠ってしまい、彼女をベッドに運んだ俺は奥杜に連絡を取るため尚しばらく起きていた。自然のバイオリズムに従えば今朝、妹が先に眼を覚ますのは理の必然であり、ならばこのような挙に出てくることも予期してしかるべきだったのかもしれない。俺の不覚、と言ってしまえばそれまでだが……世の兄貴というものはそこまで妹を警戒しなければならないものだろうか?

「とにかくどいてくれ。このままじゃ起きられん」

「だが断るわ!」

「露伴先生の真似がしたかったらルーブル行け」

「珍しくりゅーこーに乗っかっても、あたしは止められないわよ。"据え膳食わぬは女の恥"って言うじゃない!」

「はじめて聞いたよ!? あと元のことわざからしてろくな意味じゃねえからな、それ!!」

 くだらん知識ばかりよく吸収する上、自分に都合良く曲解しやがって。わかってやってんじゃねえだろうな?

 昨日の経験から、このように暴走モードに突入した妹には説得が無駄であることは重々承知している。まずは強引にでもどかせようと、俺は自分の右腕を布団から出そうとした。

 その途端。

「ぐぎゃああああ!!!」

 ……全身に激痛が走った。そこではじめて、自分の状態に気がついたのである。

「ちょ、し、失礼だな! そんな悲鳴をあげるほど、あたし重くないでしょ……え、ウソ、重い!? 昨日の夜、ごはん食べすぎた!!?」

 見当違いの不安にかられた妹が、俺の身体にまたがったままあたふたし始めた。そういや自分で作った豪勢な料理群を、結局自分が一番平らげてたっけな、こいつ。

 いや、もちろん妹の身体が重いわけではない。むしろ軽すぎてあんだけ摂取した食い物はどこへ行ったんだと疑いたくなるくらいなのだが……そうやって密着したまま無駄に動くのは勘弁してもらいたい。すげえ響く!

「ぐああ……ち、ちがう、そうじゃなくて! き……」

「き?」

「筋肉痛が……」

 そう、俺の身体は至るところ筋肉痛におそわれ、身じろぎすら難儀する有様だったのだ。

 前日、ビニール傘を手にしては不良たちと、また付加魔法バフをかけたおもちゃの刀を手にしては土僕ゴーレムたちと大立ち回りを演じたのだ。剣(もどき)を持てば前世の感覚がよみがえるとはいえ、実際に行使する肉体の方はまるで鍛えていない、ひ弱な現代っ子のままである。無理な稼働を強いれば反動に襲われるのは当たり前か……昨晩までは特に不具合は感じなかったのだが、一夜明け一気にツケが回ってきたらしかった。

「き、昨日は派手に動きすぎたみたいだ。全身が痛い、ダルい、起き上がれん……」

「は、キンニクツー? 勇者様ともあろうものが筋肉痛で動けないわけ!? まーったく、何やってんの。普段運動をサボりすぎだよ!」

 光琉が呆れたように肩をすくめる。その様子は実にウザかったが、俺には文句を言う暇も与えられなかった。

 次の瞬間、光琉はおもむろに手を伸ばしてきて俺の身体を覆った布団や毛布をぐと、さらには上半身に着用していたシャツの裾にまで指をかけてきたのである。俺は貞操の危機を感じた。

「ちょ、おま、一体何してんだ!? さては動けない兄を無理やり脱がして、◯ロ同人みたいに……きゃー、エッチ、へんたい、セクハラ聖女!!」

「ヒトギキの悪いことばかり言わないでよ! あたしを一体何だと思ってるわけ? セクハラなんてするわけないでしょ」

 寝ている俺の唇を奪いにきた女とは思えない、堂々たる態度である。

 光琉はシャツをめくりあげて俺の腹部をあらわにすると、ミダラな舌なめずりを……することはなく、至って真剣な表情で両手を腹の上にかざした。程なく淡い輝きが、薄暗い部屋の中に灯る。"慈光じこう"を発動させたのだ。

「おお、腹の痛みが引いていく! 回復魔法って、筋肉痛にも有効なんだな」

「こういう軽い症状は、かえって治すのが難しいんだけどね。治癒の光を必要以上に浴びせちゃうと生命力が活性化されすぎて、人体を内側から蝕むことにもなりかねないの。だから術者にはセンサイなコントロールが求められるんだよ」

「俺を無理やり脱がそうとしたのはそのためか……欲望で理性を失ったわけじゃなかったんだな」

「当たり前でしょ!」

 たしかに服の上から"慈光"をかけるより、患部を露出させ観察しながら直接当てた方が微妙な力加減もしやすいだろうが……だったら最初から説明してほしかったなあ。

 光琉は腹部の治療を終えると、そのまま俺からシャツを剥ぎとり肩に腕にと"慈光"を浴びせていく。妹に邪念がないことがわかったのでされるがままに任せていたが、かなり情けない格好だと自分でも思う。

「ほんっと、にいちゃんは頼りないなあ。とてもサリス様の生まれ変わりとは思えないわね。こんな姿を見せられちゃ、」

 とうとう愛想が尽きたか?

「あたしがますます頑張るしかないじゃん! ふふ、燃えてきたわ。安心してにいちゃん、前世では守ってもらってばっかだったけど、今生では守ってあげるから!!」

「……めげないね、お前も」

 アホ妹のくせに生意気言いやがって。

 そして何をホッとしているんだ、俺は?
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