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嘘つき隊長は夜に笑う
穂積隊長の多忙な一日
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僕の朝は、姫様よりも早起きだ。
まず向かうのは部屋のバスルーム。シャワーを浴びて身なりを整え、部屋へ戻ったら前日に買っておいたサンドウィッチで朝食。まだこの時間には食堂が開いていないのだ。
次は着替えて今日の予定確認。
タブレットを立ち上げながら4つのマグカップにインスタントコーヒーを用意して、内ひとつだけ自分用に淹れておく。
なぜなら、この辺りになると大体。
「たいちょぉー、シャワー貸してくださーい」
「どうぞー」
部屋にシャワーがない近衛隊の仲間達が、共用バスルームより近くて広いこの部屋を求めてやってくるのだ。
扉をノックするのは5人の内、家庭を持たず寮に住んでいるアーサーさん、ダリオさん、トニオさんの3人。下らない話をしながらコーヒーを飲むのが日課になっている。
例の脅迫状事件でどの近衛隊より真っ先に宿坊へ向かうことができたのは、実は規則に違反したこの時間のおかげだ――とは、僕の統率力に感動していたメイド長にはとても言えない。
今日の議題は、ここ3か月でかれこれ4人の女性との出会いと別れを経験したトニオさんについて。
「ひと月ももたなかったってことっすかぁ?」
「お前それは……それはお前」
「いいや違うね、今回は偶然、いい人と巡り合えなかったってだけの話なんだよ」
「以前3週間で6人の方とお別れした時もそう仰ってましたよね、トニオさん」
「隊長なんで覚えてるんですか!」
「いや、東島で6人目の女性に引っぱたかれているトニオさんを見た時の衝撃が忘れられなくて」
「週2人?!逆に難しいわ!」
彼らは、僕を年下扱いしようとはしない。いつも対等に接してくれる。
たかが15歳の若造がたとえ名目上であろうと腕でも頭脳でも劣る彼らの上に立てるのは、皆のこの懐の深さあってのことだ。
代わる代わるシャワーを浴びて最後の一人がバスルームの掃除を終えた頃、食堂の開店を知らせるチャイムが鳴る。
「そろそろ飯か」
「んじゃ行きますか」
カップの洗い物も含めて皆が帰り支度を始めるのを横目に、僕は用意しておいた上着を羽織る。近衛隊長にのみ許された仕事、姫様の朝のお出迎えのためには、この時間に寮を出なければいけないのだ。
「じゃあ隊長、また後で!」
「はい、お疲れさまです」
食堂へ向かう彼らと別れると、僕は毎朝鍵を取り出しながらクローゼットへ囁きかける。
「行ってきます」
当然、返事は聞こえない。
* *
「穂積隊長」
姫様の宿坊へ向かう途中、声をかけられて振り返ると、最近配属になったばかりの夕霧姫様の近衛隊長がいた。
「おはようございます、ロス隊長。仕事には慣れましたか?」
「お陰様で。隊員の皆さんにもよくして頂いています」
和やかな糸目が、彼の性格を如実に表している。
例の脅迫状事件、近衛隊長が犯人だったということで、新しい隊長には何よりもまず身綺麗さが求められた。
隊長と関わりがあった近衛隊の面々は対象外。
他にも姫様を怖がらせない程度の体躯の細さ、柔和な性格、そして荒れ果てた親衛隊を立て直すのに重要な有能さ。確かに一つ欠けても今の夕霧姫様は支えきれないが、人探しはかなり難航した。
結果選ばれたのが彼。なんと、軍人から出家を目指し礼拝堂に入った見習いだった。
人を傷つけるのではなく人を癒すために生きようと決めた彼にとっては寝耳に水のことで、何度衛兵会のお偉方が面談しても断られ続けたらしい。
そんな彼のためにと僕が方々駆け回って実現させたのが、まだ近衛隊入隊前だった彼と夕霧姫との、前代未聞の対面。近衛以外の男は聖姫と会ってはならないというごく基本的な規則に反する行為で、僕は一日かけて始末書を書くことになった。
でもまあやってよかったと思う。怯えた13歳の少女を心配した彼が、ようやく頷いてくれたのだから。
「ただ……」
不意に彼の目元が暗くなる。
「やはり姫様とお話するのは難しいようで」
「ふむ」
あの件以来、夕霧姫様はすっかり男性恐怖症になってしまっていた。
真夜姫様や暁姫様からもフォローは入れているらしいが、回廊を歩くとき近衛との間にメイドを挟む癖はどうしても抜けない。塞いだとはいえ隠し通路を知られていたことを考えると、せめて当面はなるべく近衛のすぐ近くにいてほしいのだが。
「穂積隊長。あなたは真夜姫様と大変仲がよろしくていらっしゃいますね。どのようにしてご関係を築かれたのでしょう?」
不意な彼の質問に、僕は腕を組んでしばらく考えた。
「うーん、そうですね……私の話はご存知なんでしょう?」
僕が誘拐と立てこもりの被害者で、真夜姫様がそれを救った命の恩人であること。
何せ半年以上も新聞の一面を飾り続けた大事件だ、知らない訳はあるまい。
「そ、それは、その」
まずいことを聞いてしまったとばかりに、ロス隊長の顔が引きつる。
「お気になさらないでください。自己紹介には必要な話です」
今さら胸は痛まない――いいや、僕の痛覚はもう何年も前から麻痺している。
「私と姫様にはここへ入る前からの繋がりがあったんです。当時は話したこともなければ名前も知らないとその程度だったのですがね。それでも本島へお入りになった姫様にとっては、私が数少ない外界との繋がりに思えたのでしょう。要するに親愛の念という奴ですね」
教典の一節を引き出すと、彼は深刻に頷いた。
「私からは何もしていません。ただ畏れ多くも、姫様から私に近付いてきてくださった。仲がいいとお感じになるなら、姫様のお心によるものですよ」
宿坊の扉の前で、見張り達に手を挙げて挨拶する。
「ですからロス隊長。あなた方に必要なのも、繋がりではないかと思うんです」
「繋がり、ですか」
「ええ。もっと言えば繋がりをもつだけの時間、でしょうか。あなたがお優しい方なのは夕霧姫様も薄々感じていらっしゃいますよ。後は少しずつ、あの方が望むままに背中をお見せすればきっと分かってくださいます」
少し説教臭いだろうか、とも思ったが、彼は顔を伏せて頷いた。
「繋がり……そうですね。ありがとうございます、穂積隊長」
「いいえ、ご参考になれば」
今まで考えもしなかったが、このウォーキングは人と歩くと少しだけ距離が短く感じる。
* *
基本的に会話が禁じられている姫様方の食事の時間も、預言者様のお祈りの時間と重なる夕食の時だけは多少緩くなる。
特にこの方は、いつにも増してお喋りだった。
「ねえ黎くん、お昼ご飯は何を食べたの?」
お静かにお召し上がりください、と言うべきところだが、意図を察してなるべく小声で返した。
「故郷の料理を頂きました。焼き魚やみそ汁など」
ちなみにこれは嘘だ。本当は訓練場のベンチで菓子パンをかじっていた。
「そっか、いいなぁ!私も納豆ごはん食べたい」
「コックへ注文しておきましょうかぁ?姫様ぁ」
配膳係の朔夜さんも察したらしい。笑顔で水をコップに注ぐ。
「でも私が食べるってことは皆も一緒になっちゃうでしょ?2人ともどう?腐らせた大豆」
暁姫様がほんの少し嫌そうな顔をする。
「腐らせた?発酵ではありませんの?」
「まあ発酵なんだけど、見た目が明らかに腐って見えるんだよね。匂いもきついし糸も引くし、故郷でもそれで好き嫌いが分かれる」
――僕は結構好きだけど、やっぱりあの匂いってきついんだろうか。
「各国の料理を体験、というのは面白いと思いますが……夕霧は?」
「えっ?!あっ」
かちゃん、と音を立てて、夕霧姫様がカトラリーを取り落とす。
「もー、どうしたの?」
「その……えっと……」
夕霧姫様が、上目遣いに後ろのロス隊長を見上げる。
「ろ、ロスさんは……どう、思い、ますか?」
ロス隊長は夕霧姫様へふっと微笑みかけた。
案の定、夕霧姫様から隊長へ話しかけさせるのが目的だったらしい。
ですが姫様、これは悪手でございました。なぜなら。
「姫様、どうぞお静かにお召し上がりください」
ロス隊長は、今や全近衛隊一真面目なのです。
* *
「ねー黎くん、どうしたらいいかな?」
止まり木の小屋を越えて自分のパーソナルスペースに入ると、真夜姫様は途端に腕を組んだ。
「ロスさんも、夕霧ちゃんを突き放したいわけじゃないと思うんだよね。顔つきはちょっと怖いけどそんな悪い人には見えないし」
――それは緊張しているだけですよ、姫様。
「今の夕霧ちゃんに難しいのは分かるんだけど……やっぱり、近衛さんとは毎日近くにいなきゃいけないんだし、安心して過ごしてほしいよね」
「ええ、そうですね」
縦に並んで歩くと決まっているというのに、真夜姫様は僕の顔を下から覗きこんできた。
「……タメ口使ってもいいんだよ?」
「なんのことでしょう?」
全く、朔夜さんの見舞いに行った時の自分は、どうしてあそこまで慌ててしまったのだろう。
いいや、分かっている。アブデラの姿を真夜姫様に知られてはまずかった。致命的なミスだ。だというのに、あいつがどうしても暇だからついていくなんて言うから――!
「ちょっ、黎くん!速い、速いって!」
気がつくと、無意識にスピードを出してしまっていたらしい。
「失礼いたしました、姫様」
振り返って礼をする。
怒りはしなかったが、真夜姫様は小首をかしげて僕を見ていた。
「そんなにタメ口嫌ならそう言ってくれればいいのに」
「いいえ、姫様のお言葉を否定するなどと畏れ多いことは決して」
丁度宿坊に辿り着いて、僕は心の底から助かった、と思った。
「そう?じゃ」
宿坊の部屋内へは、非常時を除き近衛も立ち入り禁止。僕らはここでお別れだ。
「お休み、黎くん」
「お休みなさいませ、姫様」
さて。
この後には、もう一つ約束が待っている。
まず向かうのは部屋のバスルーム。シャワーを浴びて身なりを整え、部屋へ戻ったら前日に買っておいたサンドウィッチで朝食。まだこの時間には食堂が開いていないのだ。
次は着替えて今日の予定確認。
タブレットを立ち上げながら4つのマグカップにインスタントコーヒーを用意して、内ひとつだけ自分用に淹れておく。
なぜなら、この辺りになると大体。
「たいちょぉー、シャワー貸してくださーい」
「どうぞー」
部屋にシャワーがない近衛隊の仲間達が、共用バスルームより近くて広いこの部屋を求めてやってくるのだ。
扉をノックするのは5人の内、家庭を持たず寮に住んでいるアーサーさん、ダリオさん、トニオさんの3人。下らない話をしながらコーヒーを飲むのが日課になっている。
例の脅迫状事件でどの近衛隊より真っ先に宿坊へ向かうことができたのは、実は規則に違反したこの時間のおかげだ――とは、僕の統率力に感動していたメイド長にはとても言えない。
今日の議題は、ここ3か月でかれこれ4人の女性との出会いと別れを経験したトニオさんについて。
「ひと月ももたなかったってことっすかぁ?」
「お前それは……それはお前」
「いいや違うね、今回は偶然、いい人と巡り合えなかったってだけの話なんだよ」
「以前3週間で6人の方とお別れした時もそう仰ってましたよね、トニオさん」
「隊長なんで覚えてるんですか!」
「いや、東島で6人目の女性に引っぱたかれているトニオさんを見た時の衝撃が忘れられなくて」
「週2人?!逆に難しいわ!」
彼らは、僕を年下扱いしようとはしない。いつも対等に接してくれる。
たかが15歳の若造がたとえ名目上であろうと腕でも頭脳でも劣る彼らの上に立てるのは、皆のこの懐の深さあってのことだ。
代わる代わるシャワーを浴びて最後の一人がバスルームの掃除を終えた頃、食堂の開店を知らせるチャイムが鳴る。
「そろそろ飯か」
「んじゃ行きますか」
カップの洗い物も含めて皆が帰り支度を始めるのを横目に、僕は用意しておいた上着を羽織る。近衛隊長にのみ許された仕事、姫様の朝のお出迎えのためには、この時間に寮を出なければいけないのだ。
「じゃあ隊長、また後で!」
「はい、お疲れさまです」
食堂へ向かう彼らと別れると、僕は毎朝鍵を取り出しながらクローゼットへ囁きかける。
「行ってきます」
当然、返事は聞こえない。
* *
「穂積隊長」
姫様の宿坊へ向かう途中、声をかけられて振り返ると、最近配属になったばかりの夕霧姫様の近衛隊長がいた。
「おはようございます、ロス隊長。仕事には慣れましたか?」
「お陰様で。隊員の皆さんにもよくして頂いています」
和やかな糸目が、彼の性格を如実に表している。
例の脅迫状事件、近衛隊長が犯人だったということで、新しい隊長には何よりもまず身綺麗さが求められた。
隊長と関わりがあった近衛隊の面々は対象外。
他にも姫様を怖がらせない程度の体躯の細さ、柔和な性格、そして荒れ果てた親衛隊を立て直すのに重要な有能さ。確かに一つ欠けても今の夕霧姫様は支えきれないが、人探しはかなり難航した。
結果選ばれたのが彼。なんと、軍人から出家を目指し礼拝堂に入った見習いだった。
人を傷つけるのではなく人を癒すために生きようと決めた彼にとっては寝耳に水のことで、何度衛兵会のお偉方が面談しても断られ続けたらしい。
そんな彼のためにと僕が方々駆け回って実現させたのが、まだ近衛隊入隊前だった彼と夕霧姫との、前代未聞の対面。近衛以外の男は聖姫と会ってはならないというごく基本的な規則に反する行為で、僕は一日かけて始末書を書くことになった。
でもまあやってよかったと思う。怯えた13歳の少女を心配した彼が、ようやく頷いてくれたのだから。
「ただ……」
不意に彼の目元が暗くなる。
「やはり姫様とお話するのは難しいようで」
「ふむ」
あの件以来、夕霧姫様はすっかり男性恐怖症になってしまっていた。
真夜姫様や暁姫様からもフォローは入れているらしいが、回廊を歩くとき近衛との間にメイドを挟む癖はどうしても抜けない。塞いだとはいえ隠し通路を知られていたことを考えると、せめて当面はなるべく近衛のすぐ近くにいてほしいのだが。
「穂積隊長。あなたは真夜姫様と大変仲がよろしくていらっしゃいますね。どのようにしてご関係を築かれたのでしょう?」
不意な彼の質問に、僕は腕を組んでしばらく考えた。
「うーん、そうですね……私の話はご存知なんでしょう?」
僕が誘拐と立てこもりの被害者で、真夜姫様がそれを救った命の恩人であること。
何せ半年以上も新聞の一面を飾り続けた大事件だ、知らない訳はあるまい。
「そ、それは、その」
まずいことを聞いてしまったとばかりに、ロス隊長の顔が引きつる。
「お気になさらないでください。自己紹介には必要な話です」
今さら胸は痛まない――いいや、僕の痛覚はもう何年も前から麻痺している。
「私と姫様にはここへ入る前からの繋がりがあったんです。当時は話したこともなければ名前も知らないとその程度だったのですがね。それでも本島へお入りになった姫様にとっては、私が数少ない外界との繋がりに思えたのでしょう。要するに親愛の念という奴ですね」
教典の一節を引き出すと、彼は深刻に頷いた。
「私からは何もしていません。ただ畏れ多くも、姫様から私に近付いてきてくださった。仲がいいとお感じになるなら、姫様のお心によるものですよ」
宿坊の扉の前で、見張り達に手を挙げて挨拶する。
「ですからロス隊長。あなた方に必要なのも、繋がりではないかと思うんです」
「繋がり、ですか」
「ええ。もっと言えば繋がりをもつだけの時間、でしょうか。あなたがお優しい方なのは夕霧姫様も薄々感じていらっしゃいますよ。後は少しずつ、あの方が望むままに背中をお見せすればきっと分かってくださいます」
少し説教臭いだろうか、とも思ったが、彼は顔を伏せて頷いた。
「繋がり……そうですね。ありがとうございます、穂積隊長」
「いいえ、ご参考になれば」
今まで考えもしなかったが、このウォーキングは人と歩くと少しだけ距離が短く感じる。
* *
基本的に会話が禁じられている姫様方の食事の時間も、預言者様のお祈りの時間と重なる夕食の時だけは多少緩くなる。
特にこの方は、いつにも増してお喋りだった。
「ねえ黎くん、お昼ご飯は何を食べたの?」
お静かにお召し上がりください、と言うべきところだが、意図を察してなるべく小声で返した。
「故郷の料理を頂きました。焼き魚やみそ汁など」
ちなみにこれは嘘だ。本当は訓練場のベンチで菓子パンをかじっていた。
「そっか、いいなぁ!私も納豆ごはん食べたい」
「コックへ注文しておきましょうかぁ?姫様ぁ」
配膳係の朔夜さんも察したらしい。笑顔で水をコップに注ぐ。
「でも私が食べるってことは皆も一緒になっちゃうでしょ?2人ともどう?腐らせた大豆」
暁姫様がほんの少し嫌そうな顔をする。
「腐らせた?発酵ではありませんの?」
「まあ発酵なんだけど、見た目が明らかに腐って見えるんだよね。匂いもきついし糸も引くし、故郷でもそれで好き嫌いが分かれる」
――僕は結構好きだけど、やっぱりあの匂いってきついんだろうか。
「各国の料理を体験、というのは面白いと思いますが……夕霧は?」
「えっ?!あっ」
かちゃん、と音を立てて、夕霧姫様がカトラリーを取り落とす。
「もー、どうしたの?」
「その……えっと……」
夕霧姫様が、上目遣いに後ろのロス隊長を見上げる。
「ろ、ロスさんは……どう、思い、ますか?」
ロス隊長は夕霧姫様へふっと微笑みかけた。
案の定、夕霧姫様から隊長へ話しかけさせるのが目的だったらしい。
ですが姫様、これは悪手でございました。なぜなら。
「姫様、どうぞお静かにお召し上がりください」
ロス隊長は、今や全近衛隊一真面目なのです。
* *
「ねー黎くん、どうしたらいいかな?」
止まり木の小屋を越えて自分のパーソナルスペースに入ると、真夜姫様は途端に腕を組んだ。
「ロスさんも、夕霧ちゃんを突き放したいわけじゃないと思うんだよね。顔つきはちょっと怖いけどそんな悪い人には見えないし」
――それは緊張しているだけですよ、姫様。
「今の夕霧ちゃんに難しいのは分かるんだけど……やっぱり、近衛さんとは毎日近くにいなきゃいけないんだし、安心して過ごしてほしいよね」
「ええ、そうですね」
縦に並んで歩くと決まっているというのに、真夜姫様は僕の顔を下から覗きこんできた。
「……タメ口使ってもいいんだよ?」
「なんのことでしょう?」
全く、朔夜さんの見舞いに行った時の自分は、どうしてあそこまで慌ててしまったのだろう。
いいや、分かっている。アブデラの姿を真夜姫様に知られてはまずかった。致命的なミスだ。だというのに、あいつがどうしても暇だからついていくなんて言うから――!
「ちょっ、黎くん!速い、速いって!」
気がつくと、無意識にスピードを出してしまっていたらしい。
「失礼いたしました、姫様」
振り返って礼をする。
怒りはしなかったが、真夜姫様は小首をかしげて僕を見ていた。
「そんなにタメ口嫌ならそう言ってくれればいいのに」
「いいえ、姫様のお言葉を否定するなどと畏れ多いことは決して」
丁度宿坊に辿り着いて、僕は心の底から助かった、と思った。
「そう?じゃ」
宿坊の部屋内へは、非常時を除き近衛も立ち入り禁止。僕らはここでお別れだ。
「お休み、黎くん」
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さて。
この後には、もう一つ約束が待っている。
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