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その翌年の夏。
ニュースでは連日最高気温の更新が叫ばれ、それを実感を持って肌で感じるようなじりじりとした暑さの朝。
倖は中学3年生になっていた。
あれから1年。
金髪はやめた。
ピアスも取った。
穴ももう塞がっている。
服装も、中学3年生然とした、正しい着こなしを心がけている。トランクスももちろん、はみ出ていない。
いつ、出会ってもいいように。
そう、今ならすぐに声をかけるのに。
けれど、あれからどれだけ探しても彼女はみつからなかった。
同じ時間帯の同じ方向の電車、その車両の隅から隅まで見てまわった。
時間をずらして様々な路線に乗り込んでみた。
付近の学校の制服を調べて見にいったりもした。
それでも、彼女の影どころか同じ制服を着た子さえも見つけることができなかった。
しかしそれも今日でおしまいだ。
探しても探してもこの1年間全く見つからなかった彼女が、今、目の前にいる。
倖は跳ねる鼓動を押さえようと、知らず胸に手を押し当てていた。
視線は5つ先の座席に釘付けになっている。
向こうをむいて座っている、冬服のグレーのセーラー服。
襟の縁取りは白。
きっとスカートはセーラーと同じでグレーだろう。
ここらでグレーの制服なんて見ないのだ。
彼女に違いない。
髪は少し伸びて、肩よりも長く。
眼鏡は、かけていないようにみえる。
よし。
倖は心の中で気合いをいれた。
行くしかない。
今日を逃せば、またいつ会えるのかわかったものじゃない。
声をかけてからもたつかないようカバンの中にあるはずのスマホを探す。
話しかけて、友達からでっということで、すかさずLINEを交換するのだ。
しかしその肝心のスマホが見つからない。
手の届くところのポケットに放り込んだはずなのに。
一分ほどだろうか、彼女から目をはなしたのは。
やっとスマホを見つけて顔をあげたときには、先ほどの席に彼女の姿はなかった。
うそだろ。
倖は慌てて周囲をキョロキョロと探した。
倖がカバンを漁っている間に、電車はいつのまにか停車していたようだ。車内にドアへとむかう人の波がおこる。その中に彼女がいないかと目を皿のようにして探すが見当たらなかった。
去年、彼女が下車した駅は確かまだだいぶ先だからと油断していた。
こんなことなら先に声をかけとくんだったと、後悔が押し寄せる。
まさか、降りてないよな。
倖は窓にへばりつくようにして小さな駅舎内を探す。
……いた。
彼女は駅舎を見上げるようにしながら改札口へと歩いていた。
なんてこった!
ジリリリと鳴り響く発車ベルに、倖はガバッと身を起こし窓から飛び退くと一目散にドアへと走った。
しかし数瞬間に合わず、数歩先でドアは、ぷしゅう、と気の抜けた音を出しながら閉まる。
そのドアを倖はダン!と力任せに叩いた。
ガタン、と電車が動き出した。
彼女がいた駅は、あっという間に後ろへと遠ざかっていく。
うそだ。
一年どんだけ探したと思って。
先に、声さえかけとけば。
自分の不甲斐なさに腹が立った。
思わず手に持っていたカバンをドア同様に力いっぱい床に投げつけた。
頭に血が上っていても、周囲の乗客が驚いて一歩下がったのが、わかった。
遠巻きにチラチラと視線を受けながら、カッコ悪り、と自嘲気味に呟く。
投げつけたものは、拾わなければならない。目を閉じてから、ゆっくりとカバンを拾った。
周囲の乗客がドン引きしているのが手に取るようにわかり、倖はげんなりとした。他人の視線や、周囲からどう見られているのかとか、そんなものは倖にとってどうでもいい類に入るものではあるが。
まじでかっこ悪すぎる。
今回の失態は自分でもしばらく許せそうにない。
次に会えるのは‥‥。
また一年後か?
電車はスピードにのって走り出す。
その振動に身を任せながら、倖は大きな溜め息をついた。
ニュースでは連日最高気温の更新が叫ばれ、それを実感を持って肌で感じるようなじりじりとした暑さの朝。
倖は中学3年生になっていた。
あれから1年。
金髪はやめた。
ピアスも取った。
穴ももう塞がっている。
服装も、中学3年生然とした、正しい着こなしを心がけている。トランクスももちろん、はみ出ていない。
いつ、出会ってもいいように。
そう、今ならすぐに声をかけるのに。
けれど、あれからどれだけ探しても彼女はみつからなかった。
同じ時間帯の同じ方向の電車、その車両の隅から隅まで見てまわった。
時間をずらして様々な路線に乗り込んでみた。
付近の学校の制服を調べて見にいったりもした。
それでも、彼女の影どころか同じ制服を着た子さえも見つけることができなかった。
しかしそれも今日でおしまいだ。
探しても探してもこの1年間全く見つからなかった彼女が、今、目の前にいる。
倖は跳ねる鼓動を押さえようと、知らず胸に手を押し当てていた。
視線は5つ先の座席に釘付けになっている。
向こうをむいて座っている、冬服のグレーのセーラー服。
襟の縁取りは白。
きっとスカートはセーラーと同じでグレーだろう。
ここらでグレーの制服なんて見ないのだ。
彼女に違いない。
髪は少し伸びて、肩よりも長く。
眼鏡は、かけていないようにみえる。
よし。
倖は心の中で気合いをいれた。
行くしかない。
今日を逃せば、またいつ会えるのかわかったものじゃない。
声をかけてからもたつかないようカバンの中にあるはずのスマホを探す。
話しかけて、友達からでっということで、すかさずLINEを交換するのだ。
しかしその肝心のスマホが見つからない。
手の届くところのポケットに放り込んだはずなのに。
一分ほどだろうか、彼女から目をはなしたのは。
やっとスマホを見つけて顔をあげたときには、先ほどの席に彼女の姿はなかった。
うそだろ。
倖は慌てて周囲をキョロキョロと探した。
倖がカバンを漁っている間に、電車はいつのまにか停車していたようだ。車内にドアへとむかう人の波がおこる。その中に彼女がいないかと目を皿のようにして探すが見当たらなかった。
去年、彼女が下車した駅は確かまだだいぶ先だからと油断していた。
こんなことなら先に声をかけとくんだったと、後悔が押し寄せる。
まさか、降りてないよな。
倖は窓にへばりつくようにして小さな駅舎内を探す。
……いた。
彼女は駅舎を見上げるようにしながら改札口へと歩いていた。
なんてこった!
ジリリリと鳴り響く発車ベルに、倖はガバッと身を起こし窓から飛び退くと一目散にドアへと走った。
しかし数瞬間に合わず、数歩先でドアは、ぷしゅう、と気の抜けた音を出しながら閉まる。
そのドアを倖はダン!と力任せに叩いた。
ガタン、と電車が動き出した。
彼女がいた駅は、あっという間に後ろへと遠ざかっていく。
うそだ。
一年どんだけ探したと思って。
先に、声さえかけとけば。
自分の不甲斐なさに腹が立った。
思わず手に持っていたカバンをドア同様に力いっぱい床に投げつけた。
頭に血が上っていても、周囲の乗客が驚いて一歩下がったのが、わかった。
遠巻きにチラチラと視線を受けながら、カッコ悪り、と自嘲気味に呟く。
投げつけたものは、拾わなければならない。目を閉じてから、ゆっくりとカバンを拾った。
周囲の乗客がドン引きしているのが手に取るようにわかり、倖はげんなりとした。他人の視線や、周囲からどう見られているのかとか、そんなものは倖にとってどうでもいい類に入るものではあるが。
まじでかっこ悪すぎる。
今回の失態は自分でもしばらく許せそうにない。
次に会えるのは‥‥。
また一年後か?
電車はスピードにのって走り出す。
その振動に身を任せながら、倖は大きな溜め息をついた。
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