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唐突な倖のその言葉にりんはポカンとした顔で返した。
「……そんなこと言われても、借りたものは返さなきゃですし、返したら借りなきゃ損じゃないですか。」
「借りなくても損にはならない。……他にもあるだろ、図書館。」
「やですよ。」
むっとした表情で口を尖らせるりんに、ちっ、と舌打ちして睨みつける。
「せっかく帰り道にあんな素敵な図書館があるのに、寄らないなんてのは無理ってもんです。」
倖くん、たまに意味わかんないこといいますよね、と倖に手を掴まれたままりんは駅の方へと歩きだす。
仕方なくりんに引かれる形で倖も歩きだした。
誰のために言ってやってると思ってんだ、と心中で毒づくと、そういや、とあの店に寄ったそもそもの理由を思い出した。
「なぁ、あれ、仏壇の前にいたんだったか?」
りんは歩くスピードを緩めると、振り向きもせずにコクリと頷いた。
「うずくまって、というか、何か寛いでいる感じでした。」
「……寛ぐ?」
あの赤くてグロいものが寛いでいる絵が浮かばず倖は困惑する。
「横目でちらっとしか視えなかったんですけど、座布団の上にうずくまってて何か猫みたいだなぁて。……あとは何か雰囲気が。」
寛ぐ、ねぇ。
「もっとこう気味悪いこととか、悪いことしてるんじゃ、と思っていたのでちょっとホッとしました。」
「そっか。……あのばあさんの息子、だったのかな。」
「そう、かもしれません。……そういえば、あれが塩対応、ですか?」
りんが不思議そうに倖に尋ねた。
「そ。感じ悪かっただろ?」
「はい、接客業とは思えない態度に度肝を抜かれました。」
度肝ときたか、とりんの語彙選択に倖が1人苦笑したときだった。
ギャハハハ、と品のない笑い声が響いてきた。
駅のロータリーを挟んだ向かいには有名なコンビニチェーンがあり、その店先で同じ学校の男子生徒が数名騒いでいた。それを見ていた倖がピタリと足を止める。
倖に掴まれていたりんも後ろに引っ張られてよろけながら足を止めた。
「どうしました?」
コンビニを凝視する倖をりんが不思議そうに見る。
「あー、おまえやっぱ1人で帰れ。ちと、用事できた。」
「? ……わかりました。じゃあ私、図書館に寄って帰ります。こないだ倖くんのせいで借りれませんでしたし。」
「お前のぬいぐるみのせいだろ。」
「倖くんのせいです。じゃ、また明日ですね。」
「ん。」
そう返事すると倖はとっとと踵を返しスタスタと今きた道を戻り始める。
そうして、はたと気づいたように振り返ると、寝るなよな、と釘をさした。
それをりんが半眼で見返して倖が歩いていくのをしばらく眺めていたが、やがて図書館へと脚を向けたのだった。
「……そんなこと言われても、借りたものは返さなきゃですし、返したら借りなきゃ損じゃないですか。」
「借りなくても損にはならない。……他にもあるだろ、図書館。」
「やですよ。」
むっとした表情で口を尖らせるりんに、ちっ、と舌打ちして睨みつける。
「せっかく帰り道にあんな素敵な図書館があるのに、寄らないなんてのは無理ってもんです。」
倖くん、たまに意味わかんないこといいますよね、と倖に手を掴まれたままりんは駅の方へと歩きだす。
仕方なくりんに引かれる形で倖も歩きだした。
誰のために言ってやってると思ってんだ、と心中で毒づくと、そういや、とあの店に寄ったそもそもの理由を思い出した。
「なぁ、あれ、仏壇の前にいたんだったか?」
りんは歩くスピードを緩めると、振り向きもせずにコクリと頷いた。
「うずくまって、というか、何か寛いでいる感じでした。」
「……寛ぐ?」
あの赤くてグロいものが寛いでいる絵が浮かばず倖は困惑する。
「横目でちらっとしか視えなかったんですけど、座布団の上にうずくまってて何か猫みたいだなぁて。……あとは何か雰囲気が。」
寛ぐ、ねぇ。
「もっとこう気味悪いこととか、悪いことしてるんじゃ、と思っていたのでちょっとホッとしました。」
「そっか。……あのばあさんの息子、だったのかな。」
「そう、かもしれません。……そういえば、あれが塩対応、ですか?」
りんが不思議そうに倖に尋ねた。
「そ。感じ悪かっただろ?」
「はい、接客業とは思えない態度に度肝を抜かれました。」
度肝ときたか、とりんの語彙選択に倖が1人苦笑したときだった。
ギャハハハ、と品のない笑い声が響いてきた。
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倖に掴まれていたりんも後ろに引っ張られてよろけながら足を止めた。
「どうしました?」
コンビニを凝視する倖をりんが不思議そうに見る。
「あー、おまえやっぱ1人で帰れ。ちと、用事できた。」
「? ……わかりました。じゃあ私、図書館に寄って帰ります。こないだ倖くんのせいで借りれませんでしたし。」
「お前のぬいぐるみのせいだろ。」
「倖くんのせいです。じゃ、また明日ですね。」
「ん。」
そう返事すると倖はとっとと踵を返しスタスタと今きた道を戻り始める。
そうして、はたと気づいたように振り返ると、寝るなよな、と釘をさした。
それをりんが半眼で見返して倖が歩いていくのをしばらく眺めていたが、やがて図書館へと脚を向けたのだった。
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