OH MY CRUSH !!

文月 七

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「そっちに、いんのか。」
「……こっちにいるんですよ、見てください、この鳥肌、とりはだ、とり、」
 斜めになってごそごそとリュックを探るりんがブツブツと呟く。そうしてグレーの眼鏡ケースを取り出すと、ほぉ、と一息つき腕まくりをして倖に見せた。
「まぁ、確かに鳥肌すごいけど。……おまえ、運動場の奴のそばにいるときには全然平気そうだったのに。」
 りんから眼鏡ケースを受け取り、パカリと開ける。中には黒縁の何の変哲もない眼鏡が入っていた。
「あれは、あんまり怖くなくて。でも、こっちのは、ちょっと無理です。」
 と、眼鏡の隙間を埋めるように両手で囲いはじめた。
「つっても、ワンピースが視えるだけなんだろ?何がそんなに怖いんだよ。」
 と、眼鏡を目元に近づける。
「いいか?視るぞっと。」
 ゆっくりとりんの眼鏡を装着する。
 度数の高さにクラクラしながら、思い切り眉間に皺を寄せて耐えた。

 最初に視えたのは、白いワンピースだった。

 全身に赤いシミが広がっているが、元は白いワンピースで間違いないだろう。
 そう断じれるだけの理由が、倖にはあった。

 シミは広がる。
 今もなお。

 ゆらゆらと揺れるのは、白いワンピースの裾だけではなかった。前面に垂れる、黒く長い髪の毛も。
 そして首。
 だらんと、それが胸の全面に斜めになって垂れて、後頭部が見えている。
 それが左右に揺れていた。
 うなだれているのではない。
 何によってなのか、首の右半分近くが深く抉れている。
 繋がっている左半分を起点にぶらぶらとそれは揺れていた。
 揺れる首を追いかけて髪もフワリと浮き上がる。
 そうして、その抉れた断面から夥しい量の血が吹きだしていた。

 眼鏡をかける前には感じなかった、血の臭いがした。

 床に落ちる血が、ぴちゃぴちゃと音をたてている。

 しゅぅ、という血が吹き出す小さな音までが聞こえる気がした。

 床には大きな血だまりができ、刻一刻とその大きさを増してゆく。

 周囲に飛沫が飛ぶ。

 倖がかけている眼鏡にも細かく飛んで、視界が赤の点で埋め尽くされていく。
 見ると、りんは真上からそれを浴びていた。
 それはそうだ、真横に立たれているのだから。
 目の前で眼鏡の端を手で覆い、りんはアホ面さげて心配そうに首を傾げている。

 そのりんの髪が、血を吸って色を変える。

 粘度のある雫になって、重そうに机の上にぱたたっと落ちる。

 前髪からそのまま流れて額を伝い、りんの顔に幾筋もの赤が走っていた。

 なんだ、これ。
 口元を手で覆い、ない唾液をゴクンと飲み込んだ。 
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