OH MY CRUSH !!

文月 七

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 ……そういえば、これはどうして、りんの真横から動かないのか。
 横を通る、とりんは言った。
 これがどれほどのスピードで歩くのか知らないが、とっとと進んで倖の横あたりを通り過ぎていないとおかしいのではないか?

 どうして。 

 そうしてふと気づいた。
 真横ではない。
 りんの席の少し前の右手に立ち、女は立ち尽くしている。
 倖からは、後頭部とそこから垂れる髪しか見えないが。
 その頭部の角度。

 りんを、見ている。

 それに気づいた瞬間に、倖は耐えきれず勢いよく眼鏡を外した。
 ひどい動悸がした。
 今はもう何も視たくなくて、顔の前で指を組んでギュッと強く目を瞑った。
「ゆ、倖くん、大丈夫ですか?」
 りんの驚いた声がする。
「……ん、大丈夫。」
「……全っ然、大丈夫そうに見えないんですが。」
「あ、のさ、……お前いっっつもこんなん視てんのか?」
「視てませんよ?」
 昔は慶くんの眼鏡なかったから視えてましたけど、そう即答するりんに組んだ指の間から倖が眉間に皺を寄せてりんを見た。
「白いワンピースが視えて怖いっつってたろ。」
「……何を視たのか知りませんけど、わたし眼鏡かけてるので、ホントに端っこにチラッとワンピースが視えるだけなんですよ。」
「全身、視たことないのか?」
「ありませんよ。」
 なんだそれ、とガクリと腕を残したまま倖は机の上に沈み込んだ。
「……だぁから、言ったじゃないですか。視ちゃったら怖いんですって。」
 視ちゃったら怖い、って。
「んなこと言ったって、視えなくても怖いだろ。」
「視えなかったら何にもわかんないので、存在してない、でいいと思うんです。」
「……おまえ、体調とか悪くないの。」
 りんはキョトンとして倖を見返す。
「体調、ですか?……いえ、特には。」
 教室には生徒が次々と登校してきている。その中の1人がりんの席の右横を笑いながら歩いて行った。
 それを微妙な表情で追いかけると、倖はりんに視線を戻した。
「じゃあ、席、移動させてもらったらどうだ?」
「……何でですか。嫌なこと言わないでくださいよ。……何視たんですか。」
「よく聞いたな、おまえのよ」
「ストーッッップ!!」
 りんは渋面で言うと両手で倖の口を押さえた。
「ストップです!聞きたくありませんっ!!」
 小声で怒鳴りながら言うりんに、ほはぇんがいぃていたんだぉ?とフガフガと返した倖はりんの両手を口から引っ剥がして再度口にする。
「お前が聞いてきたんだろ?」
「そ、そうですけどっ!さっきも言いましたが、視えなかったら、何も起こってないで済むんです。」   
「……そうなのか?」
「そうです。たぶん。」
「精神的に参るぞ。」
「それこそ、慣れてます。」
                   
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