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「あ、終わったみたいだぞ。」
顔を向けた先でお巡りさんと慶が2人してこちらへと向かってくるのが見えた。りんは少しだけ緊張して背筋を伸ばしてみる。
「りん、検査も異常ないみたいだし、帰っていいみたいだぞ。」
慶が歩いてきながらそうりんに声をかけた。
「ごめんなさい、慶くん。」
上目遣いでそっと見上げれば、渋面の慶と目があった。
ただでさえ、このよくわからない体質で心配をかけているというのに。火事場に突入したあげく病院にいるなんて、随分と驚かせて心労をかけたに違いない。
「うん。あ、俺がりんを連れて帰る方が早いから、叔父さんと叔母さんには家で待っててって言っといたから。帰ったら謝っときな。ついでに言うと、うちの母さんも狼狽えてたから。」
笑いながら慶がそう言ったが、目があんまり笑っていなくて怖かった。
「倖尊くん、だったかな。」
隣のお巡りさんが書類を繰りながら言った。
「火災を初期で消し止めての人名救助、お手柄だったね。」
でも、と書類を脇に抱えなおし苦笑いして付け加えた。
「もういろんな人に言われているとは思うんだけどね、火災現場に突入するなんてことはできれば、ね、」
「わかってます。もーやりません。」
倖がすかさず手をあげて宣誓した。
「消した、って、倖くんが火を消したってことですか?」
りんが目を丸くして、初耳です、と倖を見上げた。
「菓子が燃えてただけだったんだよ。」
店内の手洗い場の下にホースがぐるぐるしてあんのも知ってたからな、と倖が言った。
「うん、駄菓子と陳列していた棚とか周辺が燃えただけですんだのは、君のおかげだよ。昨日からひどく乾燥してるし、あの近辺は木造建てが多いから延焼していたらと思うとぞっとするね。」
そうして、でもやっぱりねぇ、とお巡りさんが眉を下げると、わかってるって!と倖が強めに返答した。
そんな彼を面白そうに見ながら慶が病院の自動ドア付近を気にして尋ねた。
「倖くんの親御さんはもうすぐ来るのかな?」
もし何だったら僕が送るよ?と慶が車のキーを見せた。それに倖は首を振って、もうすぐ親父が来るから、と短く断る。
「もう遅いし先帰っていーぞ。」
ロビーの時計を見れば8時をまわっている。さすがに疲れたし、お腹もかなり空いてしまった。
「すみませんけど、親御さんみえるまでこの子についててもらえないでしょうか?」
と、慶が隣のお巡りさんに聞くのを、この子って、と顰めっ面で倖が見上げる。必要ないけど、とごちる倖を後目にお巡りさんは慶に軽く頷いて了承した。
「じゃあ、先に失礼しますね。」
とりんが立ち上がる。
また明日な、と倖が言った。
りんも、また明日、と挨拶して慶についてロビーを出る。
振り返ると隣に座ったお巡りさんに、倖がげんなりとしているのが遠目にもわかり、ひどく可笑しかった。
外に出ると昨日よりもかなり冷え込んでいた。白い息を吐く慶が、さみぃな、と言うのに曖昧に頷く。
これから車内で行われるであろう説教と自宅で待ち構えている両親のことを思い、りんはため息をついて慶の車へと歩いていった。
顔を向けた先でお巡りさんと慶が2人してこちらへと向かってくるのが見えた。りんは少しだけ緊張して背筋を伸ばしてみる。
「りん、検査も異常ないみたいだし、帰っていいみたいだぞ。」
慶が歩いてきながらそうりんに声をかけた。
「ごめんなさい、慶くん。」
上目遣いでそっと見上げれば、渋面の慶と目があった。
ただでさえ、このよくわからない体質で心配をかけているというのに。火事場に突入したあげく病院にいるなんて、随分と驚かせて心労をかけたに違いない。
「うん。あ、俺がりんを連れて帰る方が早いから、叔父さんと叔母さんには家で待っててって言っといたから。帰ったら謝っときな。ついでに言うと、うちの母さんも狼狽えてたから。」
笑いながら慶がそう言ったが、目があんまり笑っていなくて怖かった。
「倖尊くん、だったかな。」
隣のお巡りさんが書類を繰りながら言った。
「火災を初期で消し止めての人名救助、お手柄だったね。」
でも、と書類を脇に抱えなおし苦笑いして付け加えた。
「もういろんな人に言われているとは思うんだけどね、火災現場に突入するなんてことはできれば、ね、」
「わかってます。もーやりません。」
倖がすかさず手をあげて宣誓した。
「消した、って、倖くんが火を消したってことですか?」
りんが目を丸くして、初耳です、と倖を見上げた。
「菓子が燃えてただけだったんだよ。」
店内の手洗い場の下にホースがぐるぐるしてあんのも知ってたからな、と倖が言った。
「うん、駄菓子と陳列していた棚とか周辺が燃えただけですんだのは、君のおかげだよ。昨日からひどく乾燥してるし、あの近辺は木造建てが多いから延焼していたらと思うとぞっとするね。」
そうして、でもやっぱりねぇ、とお巡りさんが眉を下げると、わかってるって!と倖が強めに返答した。
そんな彼を面白そうに見ながら慶が病院の自動ドア付近を気にして尋ねた。
「倖くんの親御さんはもうすぐ来るのかな?」
もし何だったら僕が送るよ?と慶が車のキーを見せた。それに倖は首を振って、もうすぐ親父が来るから、と短く断る。
「もう遅いし先帰っていーぞ。」
ロビーの時計を見れば8時をまわっている。さすがに疲れたし、お腹もかなり空いてしまった。
「すみませんけど、親御さんみえるまでこの子についててもらえないでしょうか?」
と、慶が隣のお巡りさんに聞くのを、この子って、と顰めっ面で倖が見上げる。必要ないけど、とごちる倖を後目にお巡りさんは慶に軽く頷いて了承した。
「じゃあ、先に失礼しますね。」
とりんが立ち上がる。
また明日な、と倖が言った。
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振り返ると隣に座ったお巡りさんに、倖がげんなりとしているのが遠目にもわかり、ひどく可笑しかった。
外に出ると昨日よりもかなり冷え込んでいた。白い息を吐く慶が、さみぃな、と言うのに曖昧に頷く。
これから車内で行われるであろう説教と自宅で待ち構えている両親のことを思い、りんはため息をついて慶の車へと歩いていった。
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