1 / 1
一章
ありきたりプロローグ
しおりを挟む「……はっ!?」
「起きたの? 寝起きも可愛いねフェリアル。さすが私の天使だ」
「え? なんて?」
なんだか長い長い夢を見ていた気がして、心地の良い微睡から意識が浮上した。
隣からかけられた声の方向を見れば、月を溶かし込んだ柔らかな銀の髪が鎖骨まで伸びた青年が僕を優しく見つめている。
(顔ちっさ! 鼻高! リアルルーファスってこんな宗教画みたいな神々しさなの!?)
ん? 待て、リアルって?
頭がどうも混乱している。僕はフェリアルで、伯爵家の次男で、この人は母こそ違うものの優しい兄で……。
(ルーファス? フェリアル? ……『君に星を、僕に月を』の、主人公と攻略対象?)
視線を泳がせて身近な鏡を探した。きょろきょろと目を動かしているとルーファスが手鏡を差し出してくれる。なんで分かるんだ。
困惑した頭のまま鏡を覗き込めば、寝起きでより一層ふわふわとした桜色の髪の毛を胸元まで伸ばし戸惑った金の瞳を揺らす少年が映っていた。
スチルで何度も見たことのある見慣れた顔。大きな瞳に小さな口、今くらいの年齢なら女の子と言われても信じてしまうかもしれない。
(僕……、僕、フェリアル・エイジャー!? 何周もしたBLゲームの主人公じゃないか!)
……落ち着け。落ち着いて考えよう。
ゆっくり記憶を紐解く。僕はフェリアル・エイジャー御年十三歳。エイジャー伯爵家に嫁いだ女性を母に持つ、この家の次男。
そして僕の隣に座りにっこにこでこちらを見つめてくる神の如き美貌を持つ青年は、エイジャー伯爵……父が今の嫁を迎える前に親戚筋から養子として家に入れた義兄。僕が生まれる前から長男として君臨していたから、歳は少し僕と離れた二十歳。小さい弟が可愛くて仕方ないのか、どこに出しても恥ずかしくない立派なブラコンである。
うん、大丈夫だ。今までの記憶はちゃんとある……というか、感覚としてはフェリアルをそっくりそのまま乗っ取った気はしていない。
そもそも、あのゲームはアニメ化とか別にしてなかったしフェリアルって元々プレイヤーが操作するキャラだからあんまり確立した自我もなかった。創作作品の中でも描く人によって結構キャラブレてたしな。
思い返してみれば、フェリアルとして生まれてから今までずーっと人格は僕だったと思う。前世を思い出したというか、突然ゲームの知識が降りてきたと言った方が正しい。
え? BLゲームの主人公が僕で大丈夫なのか? 今はちょっと精神年齢面が混乱してるけど、僕はおとなしそうな見た目に反して年相応にわんぱくだったし全然お耽美でも深窓の令息でもないんだが?
それに……それに! これは一番重要なんだけど!
(僕は、僕は! 僕関連のカップリングは全然好みじゃなかった!!)
僕が主人公のゲームをやっていて何をと思われるかもしれないけど、僕はあのゲームにおいて『攻略キャラ同士のカップリング』を妄想して楽しむ邪道な日々を送っていたのに!!
だって僕の性癖は可愛い受けよりも、攻め力が高そうな男がより攻め力が高い男に組み敷かれる絵面なのだ。決して僕みたいな一歩間違えれば女の子みたいな容姿の男が女の子になる展開じゃない。だからといってガチムチ受けがめちゃくちゃ好みなわけじゃないけど、まあ、この辺の話は繊細だから置いておこう。とにかく理想の受けは僕ではない。
あれはゲームだから、いくらフェリアルが主人公でいろんなイケメンに口説かれていようが都合のいい脳みそで妄想して推しカプを捏造できたけど、ここは現実だ。
いや、なにもゲームと同じようにコトが進むとは限らない。限らないけれど、もしゲームみたいにいろんな人に好意を抱かれるような展開になったら?
……困る。普通に困るな。推しカプは何個もあったけど全部対僕以外だったし。
それにあれは架空の恋愛ゲームだから楽しんでいたのであって、現実の恋愛とは必ずしもリンクしない。仮にゲームのキャラだと思っていた人が突然目の前に現れて僕を定石通り口説いたとして、僕がゲームみたいに彼らに心を許すかはその時にならないと分からなくないか? というか向こうにも選ぶ権利あるだろ。何度でも言うけど、ここは現実なんだから。
そう、例えば目の前にいる攻略キャラのひとり、僕の義兄も。
「寝癖でも気になるの? フェリアルは寝癖がついてても涎が垂れてても世界で一番可愛いんだから気にしなくていいのに。それにしても、今日は随分お昼寝が長かったね。夜寝れなくなっちゃうから起こしてあげたかったんだけど、寝顔が可愛くて可愛くて起こせなかったよ。ごめんね」
その美しいかんばせから発されているとは思えない怒涛のブラコン発言が僕を襲う。ルーファスってこんな……こんな感じだったっけ? たしかにゲーム内でも義弟大好き設定だったけど、もうちょっとおとなしいブラコンだった気がするけどなあ。
涎垂れてないよな……とそっと口元を確認しつつ黙って彼を見つめてみる。
「……兄様?」
「うんっ、フェリアルの兄様だよ!」
途端に花が咲いたように笑う義兄に反射的に目を瞑ってしまった。眩しい。笑顔が眩し過ぎる。
うーん。ルーファスルートって、基本的にずーっとほのぼのでほんわかしてるんだよな。初めから血が繋がってないって分かってるから拗れる事件とかも無いし……。
(……でも、兄様と恋愛する未来は想像つかないなあ)
大事な家族という認識が強すぎて、この人とくんずほぐれつする展開は考えられない。というか普通に考えて、ルーファスって嫡子なのに男とくっついたらまずくないか?
あと僕、ルーファスは若いながら騎士としての頭角をメキメキと現しているチェスターっていう攻略キャラとの喧嘩ップルが好きだったので尚のこと僕と兄様は考えられない。いや、違う、違うよ。好きってだけで別に無理矢理くっついてほしいとかは思ってないよ。僕の妄想内での話だからね。でもちょっと目の前で絡んでくれたら嬉しすぎて寿命伸びるかもしれない。
……待てよ。ものすごくいいことを考えついた。
よし、決めた。僕は決めたぞ!
「兄様っ!」
「なあに? 私の可愛い可愛い弟!」
「あの、僕に来てる縁談、とりあえず全部断ってもらっていいですか?」
「えんっ……、えっ、ど、どうして知ってるの!? まさか父上が……」
攻略キャラのひとりに、フェリアルに縁談を申し込んで顔合わせをするのがルート分岐のフラグのひとつになってる人が居たはずだ。
とにかく手始めに、こうやって僕に向かう矢印やフラグは全部へし折らせてもらおう。だってやっぱり僕は攻略キャラと恋愛する気は無いし。
だからといって全てを投げ捨てて僻地でスローライフするみたいな人生設計は考えられない。だってせっかく好きなゲームの世界に生まれたんだ。僕はこの世界で、僕なりの楽しみ方をしたい!
(恋愛的なフラグは折らせてもらうけど……、いい感じに友人ポジションに収まって、目の前で推しカプの絡みを眺めさせてもらおう!!)
僕は仮にも主人公だ。色んな人との縁を持つポテンシャルはあるはず。
周りに迷惑さえかけなければ、主人公っていう特等席で妄想することぐらい許されるんじゃないか!?
これだ。完璧だ! 僕は僕の貞操を守りつつ、妄想してたあんなことやこんなことを実際にこの目で見るのだ!!
「……あと、お聞きしたいことがあるのですが」
「え? あ、ああ。縁談は元から断ろうって父上と話していたから安心してね。フェリアルはおうちから出なくていいんだよ! ずっと兄様といようね!」
「兄様、騎士団にお知り合いがいたりしませんか?」
「……ん? 騎士団の方々との繋がりは私自身特に無いけど……。まさかフェリアル、騎士になりたいの? だ、だめだよ。フェリアルが騎士団に入ったらすぐ食べられちゃうよ!!」
悲報。推しカプその一、知り合いですら無いらしい。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したが壁になりたい。
むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。
ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。
しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。
今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった!
目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!?
俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!?
「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
生まれ変わったら俺のことを嫌いなはずの元生徒からの溺愛がとまらない
いいはな
BL
田舎にある小さな町で魔術を教えている平民のサン。
ひょんなことから貴族の子供に魔術を教えることとなったサンは魔術の天才でありながらも人間味の薄い生徒であるルナに嫌われながらも少しづつ信頼を築いていた。
そんなある日、ルナを狙った暗殺者から身を挺して庇ったサンはそのまま死んでしまうが、目を覚ますと全く違う人物へと生まれ変わっていた。
月日は流れ、15歳となったサンは前世からの夢であった魔術学園へと入学を果たし、そこで国でも随一の魔術師となった元生徒であるルナと再会する。
ルナとは関わらないことを選び、学園生活を謳歌していたサンだったが、次第に人嫌いだと言われていたルナが何故かサンにだけ構ってくるようになりーーー?
魔術の天才だが、受け以外に興味がない攻めと魔術の才能は無いが、人たらしな受けのお話。
※お話の展開上、一度人が死ぬ描写が含まれます。
※ハッピーエンドです。
※基本的に2日に一回のペースで更新予定です。
今連載中の作品が完結したら更新ペースを見直す予定ではありますが、気長に付き合っていただけますと嬉しいです。
破滅回避のため、悪役ではなく騎士になりました
佐倉海斗
BL
三年前の卒業式の日を夢に見た。その夢は前世の記憶に関わるものだった。
本来ならば、婚約破棄を言い渡される場面のはずが、三年間の破滅を回避するために紳士的に接していた成果がでたのか、婚約破棄にはならず、卒業式のパートナーとして無事に選ばれ、BLゲームの悪役令息から卒業をしたのだ。
「……なにをしているのですか?」
夜中に目が覚めた。
腕に違和感があったからだ。両腕は紐でベッドの柵に縛られており、自由に動かすことができなくなっている。その上、青年、レイド・アクロイドの上を跨るように座り、レイドの服に手をかけていたのは夫のアレクシス・アクロイドだった。
本日、無事に結婚をしたのだ。結婚式に疲れ眠っていたところを襲われた。
執着攻め×敬語受けです。
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる