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懐かしい香り2
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少女に何を言われているのか私は咄嗟に理解できなかった。
混乱していたし、凛として自信に満ちた瞳に引き込まれて思考が停止していたからだ。
「いやハル、お手を取っていただけませんかって、もうあんたが取ってるじゃないの。ていうか、あんなたそんなんだからフィーに女ったらしって言われるのよ」
「だって一度は言ってみたい台詞じゃん!絶好のチャンスを逃す手はないよ。ていうか私はフィー一筋の紳士なので、女ったらしじゃありません」
「よく言う」
ただでさえ頭が働かないと言うのに、黒猫が喋りだした挙句突っ込みまでしていて私の頭の中は完全に真っ白になった。
少女も当たり前に猫と喋っている。
果たしてここはどこで私はなんだったのか。色々起こりすぎてわけがわからなくなってきた。
少女は硬直している私の顔を覗き込んで、心配そうに首を傾げた。
「あの、桂木桜さんですよね?」
再びされた問いかけに、心臓がドクリと鳴った。
「は、い…。私は桂木桜です」
なんとか声を絞り出して言葉にすると、思わず泣きそうになった。
なにが起こっているのかは分からない。
けれど二度と会うことはないと思っていた同郷の人間と自分は向かいあっていて、二度と名乗る事がないと思っていた名で名乗ったのだ。それがどうしても信じられない。
「良かった。さすがマリーだね。一発でご本人様に辿り着いちゃった」
「私を誰だと思ってるの?時空の魔女マルヴィナ様よ!このくらい息をするのと同じだわ!」
ホーッホッホッホ!と黒猫が高笑いをした。猫がである。
この世界に来て魔法を知ったし言葉を解す魔物もいたが、喋る猫を見るのは初めてだった。
脳裏に幼い頃に見た魔女のアニメが蘇る。あのアニメの猫も黒猫で言葉を介していた。
しかし会話からすると、この黒猫の方が魔女らしい。先ほど現れた暗闇はこの猫が作り出したのだろうか。
様々な疑問が湧いたが、大事なのはそこではない。
「なぜ私の名前を知ってるの?」
私は彼女を知らないし、恐らくそれは彼女もだろう。だけど、名前は知っている。それは何故なのか。
問われた少女は「ああ」と呟いて優しく笑った。
「桂木真司さんの依頼がありまして。娘の桜をどれだけお金も時間もかかっていいから見つけてほしいと」
「あ…」
その、名前に。
今度こそ私の目から涙が溢れた。
足に力が入らなくて倒れそうになる私を少女がそっと支えて、ベッドまで誘導してくれる。
「とう、さまが?」
「はい」
「ああ…!」
私は両手で顔を覆った。まさか父の名が出るとは思わず、酷い郷愁に駆られる。
様々な感情の波が濁流のように押し寄せて、どうしたらいいのか分からなくなる。
だって、本当に諦めていたから。
日本語を話す事も、日本の制服を見る事も、家族の名を誰かから聞くことも、二度とないと思っていたから。
少女が気遣うように隣に座って私の背を優しく撫でると、黒猫が私の膝の上に乗ってくれた。
好きなだけ泣いていいのだと言われているようで、私は嗚咽を上げて大泣きしてしまう。
少女も黒猫も、私が泣き止むまでただそっと傍にいてくれた。
混乱していたし、凛として自信に満ちた瞳に引き込まれて思考が停止していたからだ。
「いやハル、お手を取っていただけませんかって、もうあんたが取ってるじゃないの。ていうか、あんなたそんなんだからフィーに女ったらしって言われるのよ」
「だって一度は言ってみたい台詞じゃん!絶好のチャンスを逃す手はないよ。ていうか私はフィー一筋の紳士なので、女ったらしじゃありません」
「よく言う」
ただでさえ頭が働かないと言うのに、黒猫が喋りだした挙句突っ込みまでしていて私の頭の中は完全に真っ白になった。
少女も当たり前に猫と喋っている。
果たしてここはどこで私はなんだったのか。色々起こりすぎてわけがわからなくなってきた。
少女は硬直している私の顔を覗き込んで、心配そうに首を傾げた。
「あの、桂木桜さんですよね?」
再びされた問いかけに、心臓がドクリと鳴った。
「は、い…。私は桂木桜です」
なんとか声を絞り出して言葉にすると、思わず泣きそうになった。
なにが起こっているのかは分からない。
けれど二度と会うことはないと思っていた同郷の人間と自分は向かいあっていて、二度と名乗る事がないと思っていた名で名乗ったのだ。それがどうしても信じられない。
「良かった。さすがマリーだね。一発でご本人様に辿り着いちゃった」
「私を誰だと思ってるの?時空の魔女マルヴィナ様よ!このくらい息をするのと同じだわ!」
ホーッホッホッホ!と黒猫が高笑いをした。猫がである。
この世界に来て魔法を知ったし言葉を解す魔物もいたが、喋る猫を見るのは初めてだった。
脳裏に幼い頃に見た魔女のアニメが蘇る。あのアニメの猫も黒猫で言葉を介していた。
しかし会話からすると、この黒猫の方が魔女らしい。先ほど現れた暗闇はこの猫が作り出したのだろうか。
様々な疑問が湧いたが、大事なのはそこではない。
「なぜ私の名前を知ってるの?」
私は彼女を知らないし、恐らくそれは彼女もだろう。だけど、名前は知っている。それは何故なのか。
問われた少女は「ああ」と呟いて優しく笑った。
「桂木真司さんの依頼がありまして。娘の桜をどれだけお金も時間もかかっていいから見つけてほしいと」
「あ…」
その、名前に。
今度こそ私の目から涙が溢れた。
足に力が入らなくて倒れそうになる私を少女がそっと支えて、ベッドまで誘導してくれる。
「とう、さまが?」
「はい」
「ああ…!」
私は両手で顔を覆った。まさか父の名が出るとは思わず、酷い郷愁に駆られる。
様々な感情の波が濁流のように押し寄せて、どうしたらいいのか分からなくなる。
だって、本当に諦めていたから。
日本語を話す事も、日本の制服を見る事も、家族の名を誰かから聞くことも、二度とないと思っていたから。
少女が気遣うように隣に座って私の背を優しく撫でると、黒猫が私の膝の上に乗ってくれた。
好きなだけ泣いていいのだと言われているようで、私は嗚咽を上げて大泣きしてしまう。
少女も黒猫も、私が泣き止むまでただそっと傍にいてくれた。
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