ふしぎな繁華街のふしぎな保育園のふしぎな男

花田トギ

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八岐大蛇と酒呑童子

八岐大蛇と酒呑童子5

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 道案内アプリを見ながら歓楽街を進んでいく。まだ明るい時間帯なのに、酔っぱらった人も小学校に通っている年齢の子供も街を歩いていく。色んな人が雑多に存在している街に自分も溶け込んでいくのだろうか。
 お金が無い以上、仕事をしなくてはならない。頭が良くもない、誰もが一度は持つ若さという武器しかない女が出来る高収入の仕事の種類はそう多くはない。
 色んなことを想像しながら進んでいると、アプリが到着を告げた。
 部屋番号を押すと、野太い声がした。
『はい』
「面接予約した、渡辺です」
『はーい、待ってました』
 声と共にロックが解除された。歓楽街の中にある少し古いマンションの一室。そこが面接場所だった。
「あれ、さっきももの保育園にいた方ですよね?こちらに何のご用が?」
 自動ドアが開くと同時に声を掛けてきたのは、スーツを来た背の高い男性だった。
「え?……えっと……?」
「ああ、失礼しました。自分、ももの保育園の下の案内所で働いている者です」
 言われてみれば、案内所の奥で接客していた男はこの人だったかもしれない。とはいえ、こんな所で急に声をかけられるのは不思議だ。
「あの、間違っていたら申し訳ないんですが――もしや、こちらの風俗店で働こうとしてませんか?」
「え、えーっと……」
『おーい空いてるよ?』
 さっきの野太い声がせかす声。
「す、すみません、今……えっと……知り合いに合っちゃって」
『あのね渡辺さん。こっちも暇じゃないから、早く来てくださいよー』
「申し訳ありませんが、この方をそちらの店舗さんに預けるつもりはありません。本日は失礼します」
『はあ?!ちょっと待てよ!オマエどっかのスカウトか?!』
「滅相もございません。そんな女衒のような事致しません。渡辺さんは大切な方なのでこのまま引き取らせて頂きます」
 絶対そんなタイミングじゃないのに、大切な方というワードが嬉しく思った。
『おい!まっとけ!今降りてくから待っとけよオマエ!』
 聞いたことも無いような乱暴な言葉がインターフォンから流れてくるが、スーツの男は気にするそぶりもなく奈々の手を取った。
「さあ、乱暴者が降りてくる前にお暇しましょう」
「え?え?……ええっ!?」
 手を掴まれ、奈々は小さな公園まで走らされる事となった。

「ここまで来ればええか」
 手を離されたと思ったら、男はいきなり関西弁になって面食らう。
「え?あの……?えーっと……」
 色々聞きたい事はあったが、何から聞いたら良いか分からない。走った後で息も上がり、余計に言葉に出来ないでいると、先に男が口を開いた。彼の息は全く上がっていない。
「あんね、渡辺さんあの店はあきませんわ」
「え?!」
「この町の飲み屋からグレーな店まで案内所では網羅してんねんな。んで、あこはその網抜けてるねん。って事はやで?完璧違法店って事や」
「そ、そうなの!?」
「そう。あんなぁ、店選びのセンスなさすぎ。おかんやねんろ自分?もうちょいしっかりしやなあかんで」
 大男に頭上から叱られて、俯いてしまう。
「……だって、初心者におすすめって書いてたし」
「そんなんよくある文句やん。――やっぱり、理一郎さんの勘は当たるなぁ」
 今日何度も驚かされた人物の名をまた聞いて、思わず顔を上げた。
「理一郎さん……?ってももの保育園の理一郎さん?」
「そや、なんか良くない気がついてるからつけとけ言われてん。やっぱさすがや理一郎さんやわ」
「ちょっと待って、まずあなたは誰なの?」
「……テツって呼ばれてる。まあ、理一郎さんの右腕みたいなもんや」
 大男が照れながら言う姿は可愛さもあった。微笑んだ顔を見るともしかしたら彼はとても若いのかもしれない。
「右腕って、理一郎さんは保育園の理事長でしょ?それでテツ……さんは無料案内所の人でしょ?」
 何を聞かれてるのか分からないとでもいう表情のテツに、言葉の勢いを削がれかけた。
「だから!保育園と案内所、何の関係があるの?」
 やっと質問の意味を理解したテツは、手をポンと叩いた。
「いや、あのビル自体が理一郎さんのもんや。だから、案内所のオーナーも理一郎さんやで?」
「え?案内所の人が保育園経営してるって事?!」
「そやそや、あー……理一郎さんその辺の説明するの忘れてたんやなぁ」
「忘れてたって……」
 この町の人間は説明が足りないのが当たり前なのだろうか、そう思い脱力する奈々であった。
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