ふしぎな繁華街のふしぎな保育園のふしぎな男

花田トギ

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八岐大蛇と酒呑童子

八岐大蛇と酒呑童子11

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「というわけで、綱一は今就職が決まりました!」
 談話室で初音を抱きながら嬉しそうに語るのは、生き生きとした表情の奈々だ。
「よかったよかった。じゃあ、来年度の認可保育園が決まるまではここに通うって事だね、多分来年度は家の近所の園が受かると思うよー」
「ほんとに理一郎さんには感謝してもしきれません!……それで、あの、蛇なんですけど、私も愛着沸いてきちゃって……」
「ふふふ、だろうねぇ。大丈夫、時々でいいから菖蒲湯で沐浴させてあげたり、綱一さんが菖蒲湯飲んだり、そういう事を続けていればもう悪い作用は無いはずだよ」
「よかったー!私も仕事先決まったし、この保育園に来てから良い事ばっかりです!」
「うんうん。初音ちゃん今日もしっかりお預かりします」
 談話室をウキウキで退出した奈々は、ガラス窓越しに保育園の中を覗いた。働いているるみかと目が合って、ひらひらと手を降ってくれた。
 弾んだ気持ちで一階まで降りていくと、テツと出くわした。
「あ……先日はお世話になりました」
「今日は仕事ですか?昼職?」
 お礼の返事もない。せっかちな男だ。
「働く時間は遅いんですけど、一応そうです」
「……ええか、理一郎さんはええ人やから自分が言うといたるわ。皆が言う神様とか妖怪とか、そういう物の怪の類ってほんまにおんねん。それはアンタもよー分かってるやろ?」
「あ、はい……」
 気圧されて、一歩下がる。背中には理一郎のビルの壁だ。
「そういうんと女性は切っては切れへんねん。女の人にはあっちと通じる虚があるからや。――ええか、特に夜があかんねん。あんたは一回影響されとるから余計にや。夜に近づくのは生半可な覚悟じゃあかんで。夜を手懐ける覚悟のあるやつしか夜職はしたらあかんねん。理一郎さんが全員救えるわけちゃうからな」
「は、はいっ!」
「わかったらええわ。よーきばりやー」
 理一郎に聞いたところテツは大学生らしい。確実に年下なのに、威圧されてしまった。
「ありがとうございます!」
 やっと解放された奈々は、抜けるような太陽の下を歩き出した。そんな奈々の前を猫が通った。
「あれ?あの時の猫ちゃん?」
 野良猫だと思っていたが、よく見たら首輪をしている。誰かに変われているのか、地域猫なのか分からないが、ごろにゃんと奈々の足元に近づいてきた。
 しゃがみ、喉の辺りを撫でてあげるとごろごろと嬉しそうに鳴いた。
「ふふ、可愛い」
 ひとしきり撫でると、満足したのか猫は去っていく。奈々は、その猫をどこか神々しいものを見るような気持ちで見送ったのだった。



 猫の鳴き声が聞こえ、理一郎は窓を開けた。
「またですか」
『人の欲があつまる町だから仕方が無かろう。三番路地に女人かいる。見ればわかろう。今回は狐だったが、次は鬼かもしれぬぞ』
「ランク狐というか最早ランク物の怪だったから楽だったのに……鬼だったらテツにも頑張って貰わないといけないからまたお手当ださなとなぁ」
『あの安部の名の子を良く育てよ』
「はーいはい。てか、俺ばっかじゃない?」
『声が聞けるのは柴田の姓と相場が決まっておるのじゃ』
「……結婚して改姓しちゃおうかな」
『嘘はよろしくないぞ、若者』
「もう人間的には若者でもないけどねぇ」
 猫は伸びをすると、またどこかへと消えてしまう。理一郎は上着を羽織り、今日はパープルのサングラスをかけると三番路地へと向かったのだった。



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