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告げられる合否

スチュアートが告げる

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 アデリアが通されたのは先程受験者たちが集められた場所とはまた違う広間だった。先程よりも煌びやかさがワンランクアップしたような広間には、アデリア以外の受験者はいない。
「おめでとうアデリア。合格です」
 広間の中央で振り返ったスチュアートの言葉が、アデリアは理解出来なかった。
「スチュアートさん、えっと、もう一度お願いしていいですか?」
「はい。伯爵専属メイド雇用面接の合格者はあなたです」
「え?え?わ、わた、私が!?私がですか?!」
「ええ、そう言いましたよね。アデリア・モントレー。何か問題でも?」
 モノクルが光を反射してきらりと光った。光の奥に、冷徹な青い瞳が見える。
「も、問題と言いますかぁ、えっとぉ、合格するって思って無くてぇ……」
「全く、まずはその話し方から矯正せねばなりませんよアデリア。さあ、泊まり込みの仕事です。まずはあなたの部屋へと案内します」
「うう……あ、あのぉ……」
「なんですかアデリア。私のスケジュールが秒刻みだと理解した上での振る舞いですか?」
「ひえっ、す、すぐに行きますですはい!」
「全く、どうしてこんな娘をラスール伯爵は気に入ったのでしょう……ああ、でも私の権限で一応試用期間を設けましたからね。使い物にならなければ即刻帰って頂きますから」
 なるほど、使い物にならなければ家に帰っても良いのかと解釈したアデリアには、どうしても聞いておきたい事があった。
「あのぅ、それで足代とお菓子は……?」
「ああ、もちろんお渡ししますよ。あなたには他の方より多くのお菓子を渡すように仰せつかってます」
 それならば良かったと、アデリアが胸を撫で下ろしたところで、細工が施された扉の前でスチュアートは足を止めた。
「ここがあなたの部屋です」
 開かれた扉の中は、昔母が寝物語に語ってくれたお嬢様のお部屋そのものだった。天蓋付きのベッドが中央に置かれ、大きな窓にはレースのカーテンが揺れている。三面鏡付きのドレッサーを見てテンションが上がらない女の子はいない気がした。
「わあ……!」
 太陽が射し込み、キラキラと輝く部屋はアデリアの憧れが詰まっていた。
「お気に召したようですね。勤務は明日からです。こちらに用意した雇用契約書をよく読んでサインしてもってくるように」
「は、はい!」
 こんな部屋で生活出来るのなら、ここでメイドとして働くのも悪くないかもしれないと、のほほんと屋敷での生活の妄想を始めたアデリアの肩に、スチュアートが手を置いた。
「少し、失礼します」
「……えっ?」
 肩をぽんと押された。細身だと油断していたがスチュアートもしっかりとした男性である。
 押された力と重力により、アデリアの体はベッドへと沈んだ。ふわふわのベッドのおかげで痛くは無いが、状況が飲み込めない。
 戸惑いながら目だけをきょろきょろと動かしていると、間近にスチュアートの顔が近づいてきた。
「ス、スチュアートさん?な、何ですか!?」
 手首を握られ、ベッドへと縫い付けられている。アデリアの太ももにスチュアートの片足が乗せられ、身動きが取れない。
「例えばこうされたなら、あなたはどうしますか?」
「え……?えっ!?」
狼狽えることしかできないアデリアを、冷たい瞳が射貫く。
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