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告げられる合否

花が咲き誇る庭とザックス

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 面接試験が終わった後、お菓子と足代を配るから中庭で待つように言われたアデリアは、手入れされた庭に佇んでいた。
「ああ~恥ずかしい恥ずかしい……!」
 ラスール伯爵にはあざわらわれ、スチュアートにはため息をつかれた事実に、アデリアは頭を抱えて座り込んだ。
「どうだった?」
「ひえ?!……ザックス?!どうしてここに?!」
「しー!――人間なんだから鉄壁なんてありえないんだ。色々あるんだよルートがな」
 しゃがみ込んでいたアデリアの前に現れたのは、朝ラスール邸まで送り届けてくれたザックスだった。
「もう最悪だよー!伯爵には笑われちゃうし、執事の人には呆れられるし!全然楽じゃないじゃないー!」
「アッハッハ、そうかそうか。じゃあ後は菓子を貰って帰るだけだな――髪が乱れているぞ?」
 ぽかぽかとザックスの厚い胸板を叩くアデリアの頭を、優しく撫でる。先程伯爵によって乱された髪を整えてくれた。
「よし、これで良い」
「もう~!適当なんだから!」
「似合ってるよ。この服買い取ってプレゼントしようか?」
「えー?」
 スカートの裾を持ち上げる。フリルのついた服がふんわりと揺れた。確かに可愛い。可愛いけれど。
「……プレゼントされるならお肉がいい。ママに焼いてもらって食べる」
「そうだよなぁ、アディはそうでなくっちゃ。いつかも、もっと良いドレス着せてやるからまっとけよ」
 唇を尖らせ、照れたように家族に思いを馳せるアデリアを見て、ザックスは嬉しそうだ。
「もっと良いドレス~?」
「ああ。もう少しオレが稼げるようになったらな」
「ザックス、皆のリーダーじゃない。これ以上凄くなってどうするの?」
「まあ男には色々あるんだよ。あ、呼ばれてるんじゃないか?」
 遠くからスチュアートがアデリアを呼ぶ声がして慌てて返事をした。
「じゃ、また後でな」
「うん!やっとお菓子貰えるー!」
 ぴょこん、と飛びあがり、アデリアは再び屋敷の中へと入っていった。横でスチュアートから何やら小言を言われているようだが、何を言われているかまではザックスには聞こえない。
「純白のオートクチュールのドレス、オレが着せてやるからな」
 花が咲き誇る庭で、伯爵家には似つかわしくない風体のザックスはぽつりと呟いた。

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