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告げられる合否
スチュアートによる面接
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「では、次――アデリア・モントレ―、中へ」
ラスール伯爵家についたアデリアは、多くの受験者と共に豪奢な大広間で待たされた後、名を呼ばれた。モノクルをつけた若そうな男に持参した書類を渡しすと、一通り確認され、小さめの部屋へと通された。
「私はラスール伯爵の執事、スチュアートです。さあ、アデリア・モントレーあなたは何ができますか?」
モノクル男はスチュアートというらしい。細身の体に神経質そうな細い眉は普段一緒にいるザックスの仲間の男達とは似ても似つかない。わけもわからないまま、普段は着ないコルセットを付けられたアデリアは、息苦しくて仕方が無かった。
「――アデリア?」
「はい?」
「聞いていましたか?」
「えっとなんでしたっけ?」
大袈裟にため息をついたスチュアートを見て、アデリアはやってしまったと焦った。足代とお菓子を貰うまでは追い返されるわけにはいかないからだ。
「も、もう一度お願い出来ますか?緊張しちゃって……」
「仕方ないですね。一度だけですよ?アデリアは何ができますか?」
「何が……?えーっと何がとは何がでしょう?」
「……あなたメイドに応募したんでしょう?刺繍が得意だとか料理が出来るとか整理整頓が得意だとかそういう事です」
「あー!なるほど!……えーっとえーっと……」
アデリアは言い淀んだ。裁縫なんてしたことがないし、料理は食べる専門だ。整理整頓どころか掃除も苦手だったからだ。
必死に出来る事を探した。そういえば、少し前にザックスに褒められた事があったと思い出した。
「んー……あ、マッサージ得意です!」
「マッサージですか……?」
「はい!いつも兄……じゃなくて兄みたいな人の肩を揉んで、喜んでもらってます!」
「はあ……?」
スチュアートの眉がピクリと動いた。良くない表情に、自分がやってしまったのかと言葉に勢いを無くしたところで、低いくぐもった笑い声が聞こえてきた。
「くくく、マッサージが得意なのか。その技能で男を手玉に取るのか?」
「え!?誰?!」
スチュアートの後ろに置いてある、猫足のソファの上にはクッションがたくさん置かれ、その上に華美な布が敷かれていた。と思っていたのだがクッションではなく男の人が寝ていたらしい。
スチュアートより大きなその男は立ち上がり、アデリアの横へと歩いてきた。
「その可愛らしい見た目で、今まで何人の男を絆して来たんだ?」
「ん?ほだす?ほだすって何?!そして誰!?」
椅子に座ったままのアデリアを、見下す男には不信感しかわかない。アデリアは少しパニックになっていた。
「アデリア、落ち着いて。その方がラスール伯爵です」
「え!?伯爵?!伯爵ってもっとオジサンじゃないの?!」
「最近代替わりしたんだが、知らなかったのか?」
馬鹿にしてくる態度がいけ好かないが、伯爵と聞いて今までの自分の発言がまずかったことだけは分かった。
「は、伯爵?」
「ああ、伯爵様だぞ?」
二人のやり取りに、スチュアートが肘をついてため息をついたのが横目に見える。
「えーっとえーっと……ご、ごめんなさい、私失礼な事を……」
「そんな事は良い。それより俺の質問に答えろ」
「……なんでしたっけ?」
「ハハハ。もういい、最後の質問だ。お前、俺を見てどう思う?」
束ねられた金色の髪は、毛先までつやつやだ。赤く大きな目は自身に溢れていた。
「――髪の毛綺麗だなって思います……?」
しばらく考えた後のアデリアの言葉に、ラスール伯爵は高らかに笑い声を上げた。
「俺はしっかりと手入れをしているからな。何か他に言いたい事はあるか?」
これだけ笑われて、スチュアートにもため息をつかれたのだから、メイド試験は間違いなく落ちるだろう。元々働く気は無いのだからそれは良いのだが。
「えーっとえーっとお菓子と足代早く欲しいです。弟と妹にあげたいので」
貰えるものだけは貰いたいのである。
「ハッハッハ!分かった分かった、多めに菓子をやろう。スチュアート、この女に多めに土産を渡してやれ。後は任せた」
「……畏まりました」
スチュアートがお辞儀をすると、満足したようにラスール伯爵は部屋を出ていってしまった。
残されたアデリアはその後もスチュアートに質問を受けたが、疲れすぎて生返事しかすることが出来なかった。
ラスール伯爵家についたアデリアは、多くの受験者と共に豪奢な大広間で待たされた後、名を呼ばれた。モノクルをつけた若そうな男に持参した書類を渡しすと、一通り確認され、小さめの部屋へと通された。
「私はラスール伯爵の執事、スチュアートです。さあ、アデリア・モントレーあなたは何ができますか?」
モノクル男はスチュアートというらしい。細身の体に神経質そうな細い眉は普段一緒にいるザックスの仲間の男達とは似ても似つかない。わけもわからないまま、普段は着ないコルセットを付けられたアデリアは、息苦しくて仕方が無かった。
「――アデリア?」
「はい?」
「聞いていましたか?」
「えっとなんでしたっけ?」
大袈裟にため息をついたスチュアートを見て、アデリアはやってしまったと焦った。足代とお菓子を貰うまでは追い返されるわけにはいかないからだ。
「も、もう一度お願い出来ますか?緊張しちゃって……」
「仕方ないですね。一度だけですよ?アデリアは何ができますか?」
「何が……?えーっと何がとは何がでしょう?」
「……あなたメイドに応募したんでしょう?刺繍が得意だとか料理が出来るとか整理整頓が得意だとかそういう事です」
「あー!なるほど!……えーっとえーっと……」
アデリアは言い淀んだ。裁縫なんてしたことがないし、料理は食べる専門だ。整理整頓どころか掃除も苦手だったからだ。
必死に出来る事を探した。そういえば、少し前にザックスに褒められた事があったと思い出した。
「んー……あ、マッサージ得意です!」
「マッサージですか……?」
「はい!いつも兄……じゃなくて兄みたいな人の肩を揉んで、喜んでもらってます!」
「はあ……?」
スチュアートの眉がピクリと動いた。良くない表情に、自分がやってしまったのかと言葉に勢いを無くしたところで、低いくぐもった笑い声が聞こえてきた。
「くくく、マッサージが得意なのか。その技能で男を手玉に取るのか?」
「え!?誰?!」
スチュアートの後ろに置いてある、猫足のソファの上にはクッションがたくさん置かれ、その上に華美な布が敷かれていた。と思っていたのだがクッションではなく男の人が寝ていたらしい。
スチュアートより大きなその男は立ち上がり、アデリアの横へと歩いてきた。
「その可愛らしい見た目で、今まで何人の男を絆して来たんだ?」
「ん?ほだす?ほだすって何?!そして誰!?」
椅子に座ったままのアデリアを、見下す男には不信感しかわかない。アデリアは少しパニックになっていた。
「アデリア、落ち着いて。その方がラスール伯爵です」
「え!?伯爵?!伯爵ってもっとオジサンじゃないの?!」
「最近代替わりしたんだが、知らなかったのか?」
馬鹿にしてくる態度がいけ好かないが、伯爵と聞いて今までの自分の発言がまずかったことだけは分かった。
「は、伯爵?」
「ああ、伯爵様だぞ?」
二人のやり取りに、スチュアートが肘をついてため息をついたのが横目に見える。
「えーっとえーっと……ご、ごめんなさい、私失礼な事を……」
「そんな事は良い。それより俺の質問に答えろ」
「……なんでしたっけ?」
「ハハハ。もういい、最後の質問だ。お前、俺を見てどう思う?」
束ねられた金色の髪は、毛先までつやつやだ。赤く大きな目は自身に溢れていた。
「――髪の毛綺麗だなって思います……?」
しばらく考えた後のアデリアの言葉に、ラスール伯爵は高らかに笑い声を上げた。
「俺はしっかりと手入れをしているからな。何か他に言いたい事はあるか?」
これだけ笑われて、スチュアートにもため息をつかれたのだから、メイド試験は間違いなく落ちるだろう。元々働く気は無いのだからそれは良いのだが。
「えーっとえーっとお菓子と足代早く欲しいです。弟と妹にあげたいので」
貰えるものだけは貰いたいのである。
「ハッハッハ!分かった分かった、多めに菓子をやろう。スチュアート、この女に多めに土産を渡してやれ。後は任せた」
「……畏まりました」
スチュアートがお辞儀をすると、満足したようにラスール伯爵は部屋を出ていってしまった。
残されたアデリアはその後もスチュアートに質問を受けたが、疲れすぎて生返事しかすることが出来なかった。
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