上 下
22 / 35
秘密の関係

誰の部屋?

しおりを挟む
 足音はきっとスチュアートのものだろう。一定のリズムで歩を進め、遠ざかっていく。ほっと息を吐き出した。
「行ったか……?」
「多分……もう!あの人に見つかったら多分すごくヤバいんだから!」
「まあまあ、ほら、見つかってないし。それに俺が前に入ったのはここだ」
 指さした先にはたくさんのモノクルが並んでいる。先程開けた扉は、よく見るとアデリアの部屋の扉より質素で年代物だ。この屋敷の感じからすると用具入れの扉だと言われても信じられるくらいの代物だった。
 部屋の中にはこれまた年代物の簡素なベッド、そしてテーブルと椅子。部屋の端にはいくつかの服が掛けられている。
「……スチュアートさんの服だ」
 服のほとんどは執事服だ。多分、洗い替えや、パーティに出席する時用とかそういうの。
 整理整頓された、伯爵家の執事から連想するには程遠い清貧のような部屋の中で、高級品のモノクルが美しく並べられているのは異様とも言えた。
「あ、そうか。この部屋だけボロすぎて物置きかと思ってた。それにこのモノクル観賞用だし」
「観賞用?」
「ほら。度が入ってない」
 ガラスを覗き込むが、確かに窓ガラス越しに見た時と同じようにしか見えない。
「って事はスチュアートさんはこれいらないの?」
「わかんねぇけど、金持ちのオシャレとかじゃねぇの?まあ。バレたなら今度返しに来るよ」
「……ん?」
 ちょっと待て。この部屋はスチュアートの部屋で、モノクルはスチュアートのもの。そしてザックスはこの部屋から盗んだと言う事は……。
「前もこの部屋に入ったの?!どうやって?!この区画は鍵を――」
「掛かってなかったからさ。アディ、鍵はしっかり閉めなきゃだめだぞ。アディの部屋には鍵付けてもらおうな」
「私の部屋にも入ったのー!?」
「いやあ……ここホント警備緩いよなあ」
「乙女の部屋に無許可で入るなんて!」
 アデリアは怒ってザックスを追い出したのだった。

しおりを挟む

処理中です...