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三日間の休暇

ゴーゴー!お洋服屋さん

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 スリからお金を取り戻す為、この辺りのワルに顔が効くザックスに連絡を取ろうとしたアデリアだったが、そこに一つ関門があった。
「――どうしよう」
「ザックスに連絡を取り、スリの情報を集めるのが最適解でしょう?」
「ザックスに、連絡とったことないんです」
 俯いてそう告げたアデリアに、スチュアートは眉を寄せた。
「いつもザックスが来てくれるし……たまに会えなくなる時は、何日後に来るとか口約束してくれてたし……お屋敷に行ってからも数日毎に会いに来てくれていたし……」
「なんだか少し、ウォード氏に同情しそうです」
 額を抑えこむような仕草で、スチュアートはため息をついた。スチュアートはため息が多い。まあ、ため息の原因はだいたいアデリアなのだけれど。
「ううっ、連絡が主流なスチュアートさんみたいなちゃんとした御貴族様には分かんないんですよ!平民街のメッセンジャーは事故も多いし、直接会うのが一番確実なんです」
「ちゃんとした貴族?」
 まずい。これではアデリアが貴族ではないと言っているようなものではないか。
「あ、い、いえ、あの、スチュアートさんはしっかりしているという意味であの……!」
 慌てて言葉を紡いだが、そんな事お構いなしにスチュアートは御者と何かを話し始めた。話が終わると、馬車に乗せていた皮の鞄を持ってきた。その後ろで、馬車はどこかへと行ってしまう。
「あの、馬車は?」
「悪い人が多い所に馬車は目立つでしょう?まずは我々も着替えましょうか」
 慣れた様子でスチュアートが道を進む。この道を行った先には衣料店があるはずだが、貴族街の中心に住まうスチュアートがあまりにスタスタ歩くのが不自然に思えた。
「さすがにドレスで悪漢のいるところに乗り込みにくいですから。私も動きやすい服に着替えます」
 アデリアの記憶通り、そこには衣料店があった。貴族向けでなく、平民向けの。
 いつものようにドアを開け、アデリアをエスコートをして、二人は店の中へと入っていった。
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