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三日間の休暇

名探偵スチュアート

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「ど、どうしよう……」
 一気に青ざめたアデリアが、へたりと石畳に座り込む。追いかけようにも黒ずくめの人物の後姿すら、もう見失ってしまっていたからだ。
「……うーん……」
 その横でスチュアートが何やら考えを巡らすように、首を捻っていた。
「何ですか?何を考えているんですか?私はどうすればいいんですか!?」
「いえ……。おかしいなと思いまして」
「何がですか?」
「我々の今の恰好を見て下さい。あなたは令嬢然としたドレス、私は見るからに付き人のような装いです」
 実家に帰るならと、伯爵からプレゼントされた新作ドレスは明るい色で、アデリアの雰囲気に良く似合っていた。対するスチュアートはいつもの執事服よりかなりカジュアルダウンされた、良いとこの付き人風の服を着ている。
「まあ、確かに……?それが何ですか?」
「この恰好なら、私の方がお金をもっているように見えませんか?」
「確かに?!」
「しかし、あの犯人は迷わず貴方に近づいていった」
「ふむふむ……!」
「まるで貴方がお金を持っている事を知っているかのように」
「――なるほど。で、どうすれば良いんですか?」
 察しの悪いアデリアに呆れたようにスチュアートは笑う。
「――平民街や貧民街の悪い人に心当たりあるでしょう?」
「――ザックス!」
 アデリアは幼馴染の名を、嬉しそうに叫んだのだった。
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