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花咲き誇る宮

それぞれの美しさ

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「ふーん……城にはトゥフタ様しか男はいないのか?」
「警備に関わる事を部外者のお前に話すと思うか?」
「いやぁ、城も美人ばかりだと嬉しいなって」
 ニッカリと笑顔を見せると、エベツは呆れたように顔を歪ませた。
「逃げる算段の為ではないのか?馬鹿なのか?」
「逃げないって。この国高い壁に覆われてるんだろ?」
「どこからか侵入してきたお前がいうか。だいたい女ばかりだとしても衛兵として鍛錬を積んだ屈強な女ばかりだぞ。まあそもそも逃げられないがな」
「だから逃げる気無いってば。あと、そのさ『お前』ってのそろそろやめてくれない?俺はエベツさんって呼んでるんだし、名前を呼んでよ。俺にはタシュっていう良い名前があるんだ」
「……」
「ほら、タシュて言ってよエベツさん」
「タシュ」
「お、呼んでくれた!やっぱり美人に名前呼んでもらうって嬉しいもんだよね。この国の人皆美人だけど」
「タシュはトゥフタ様を見たんだろう?」
「え?あ、はい」
 軽口を叩くタシュとは対照的に、エベツは硬さをもった口調を一層硬くした。
「トゥフタ様を見た後だと私などかすむだろう?街の女たちはもちろん、ウユチュ様でさえ霞むはずだ」
「え、あ、えーっと……」
 さすがにこれを認めてしまうのは目の前の女性に失礼なのではないか。
 タシュの今まで流暢だった語り口は鳴りをひそめてしまった。
「良いんだ。分かっている。クロレバ様の美しさでさえトゥフタ様の前ではちり芥となるのだから」
「あ、クロレバ様って女王様だよね。ウユチュ様の娘さんの」
「ああそうだ」
「クロレバ様ってどんな人な?」
「ご自分にも周りにも厳しいお方が。もし、今回の不敬がクロレバ様の耳に入ればただでは済まないだろう」
「ひえーこわっ」
 ぶるぶると震える真似をするタシュに、少しだけエベツの空気が和んだ。
「あー……えっとね、さっきの話だけどさ。トゥフタ様は確かに綺麗だったよ。でも、その美しさとエベツさんの美しさはまた別だと思う。エベツさんはエベツさんで美しい。ウユチュ様もウユチュ様の美しさがあった。きっとクロレバ様もそうだよ。皆綺麗、それで良いと思うけど」
「……トゥフタ様を目の前にして、タシュが同じことを思うのか楽しみにしている」
 感情が読めない表情で言うと、それ以降は何を話しかけてもエベツは言葉を返してくれる事は無かった。
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