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可哀そうなトゥフタ

回想 初めての味

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 話はタシュがトゥフタと再会した時まで遡る。
 宮での規律を一通りエベツが説明した後、トゥフタは話を遮るように手を叩いてこう言った。
「ではそろそろ食事にしよう」
 エベツはすぐに他の女官たちへ伝達し、手際よくトゥフタの周りに料理が並べられていく。テーブルの向かい側にはタシュの席もきちんと用意されていた。
 トゥフタは促されるまま椅子に腰かけると、さも自然にエベツが横に膝をつく。そうしてスープを匙で救うと零さぬようにトゥフタの口元へと注いだのだ。
「……え……」
「どうしたタシュ、口に合わないか?」
「い、いいえ!」
 確かに美味いのだが、自分の事はなるべく自分でと育てられたタシュには、目の前の光景がカルチャーショックすぎて、正直なところ味がよくわからないのである。
 程よい焼き色が付いた肉も、エベツが一口大に切り取りトゥフタの口へと運んだ。 
 まるでひな鳥のようなやりとりに、何度か目を瞬かせた。
「一つ、聞いても良いですか?」
 タシュの問いかけに、口に中のものをゆっくりと咀嚼してトゥフタが口を開く。
「どうした?その言葉使いを早く改めよ」
「ああ悪い、つい――どうして、自分で食べない?」
「何を言っている?」
「いや、エベツさんも大変だろ?大人の食事の介助なんて!そんなの赤ん坊や病人がされる事だろ?」
「それはどういう意味だ?」
「だから、自分で匙をもって食べろってことだよ」
 僅かに眉を寄せたトゥフタに、当たり前の事を叫ぶ。
「トゥフタ様は王です。王は必要以外の体力を温存するよう決められております」
 少し迷いが見えたトゥフタの瞳を覆うように、エベツが落ち着いたトーンで割って入ってきた。
「それは分かるけど、自分で食事を取る事くらいで体力削られないでしょ?」
「王を迷わすような余計な事を申すな!」
「それにさ、自分のペースで食べた方が美味しいよ。せっかく俺も一緒に食事を取るんだから、少しくらい会話してさ……食事って楽しむモノだろ?」
「楽しむ……?」
「タシュ!いくらトゥフタ様の許しがあるからと言っても言って良い事と悪い事がある!トゥフタ様は王だ!王とは――!」
 声を荒げたエベツを、トゥフタは手で制した。制した手がエベツから匙を奪い取る。
「タシュ、お前の国では王だろうが自分で食べるのだな?」
「あ、ああ、俺の国どころか、俺が巡ったいくつもの国全てがそうだよ」
「トゥフタ様?!」
 タシュの言葉にわずかに口角をあげ、小さく頷く。すぎこちなく掬い取り口元に運ぶと、スープを口の中へと注いだ。一筋垂れて、顎から服へと落ちてしまった。
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