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可哀そうなトゥフタ

離れる二人

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 スドゥルとエベツにこの国の事を学んでは、トゥフタと交わう。知識欲と性欲が満たされる環境の中で、タシュはすっかりクロレバ女王の存在を忘れかけていた。トゥフタによると、一度精を取るとしばらく来る事は無いという言葉も、タシュの頭を鈍らせる要因だった。
 しばらくというのが果たしてどれくらいなのか分からないけれど、不都合なことは考えない方が心が平和だった。
 歪だが、満たされた時間に満足していた。
 
 だが、そんなまがい物の平和はすぐに終わってしまう。

「タシュ!早く隠れろ!」
 エベツがトゥフタの部屋に走り込んで来るなり、そう叫んだ。
「どうしたんだエベツさん、そんなに息を切らして」
 ベッドの上のタシュは、眠るトゥフタを腕に抱いていた。その彼を起さないように唇に指を当て、エベツに静かにするよう求めた。
「トゥフタ様……!トゥフタ様も起きてください!女王がいらっしゃいます――!」
 女王の単語にトゥフタは形の良い眉を動かし、瞼を擦って体をゆるりと起こした。
「女王……?やけに早いな。何かあったのか……?」
「また来るのか?!あ、じゃあトゥフタも一緒に隠れればいいじゃないか!」
「それは無理だ」
「無理なもんか!俺がついてる!」
「タシュ……」
 ワガママをいう子供を宥めるように、トゥフタはタシュの頬を撫でた。
「確かに……いつか、お前とどこかに逃げられたらと思っているが、それは今じゃない」
「でも……!嫌なんだよ、トゥフタが凌辱されるって分かっていて俺だけが隠れるなんて!」
「それが王の仕事だ」
「それでもなんでも!俺はトゥフタが好きだ!好きな奴が他の人に体を触られるなんて許せられない!」
 二人の視線が真っすぐ合う。二人に流れる甘い時間――を打ち砕いたのは、ウユチュそっくりな、しかし全く似ていない声だった。
「まるで恋する乙女だな」
「――!女王様――!こ、これはその」
「下がれ」
「は、はいっ――」
 空いたままの扉から、音もなく入っていた美しい女性はエベツが言葉を取り繕うのを制し、部屋の外へと追い出すと、ベッドの方へと近づいてきた。
 聞いていた通り、ウユチュにそっくりな造形なのに、確かに違う人だと分かる。ウユチュは暖かく、春の野原のような空気を纏っていたが、クロレバはまるで冷たい冬の湖のようだ。
「――さあ、お前が侵入者だね。蜜月は終わりだ」
「あなたがクロレバ女王……?」
「ああ、そうだ。お前の横で小さく震えているトゥフタの妻だよ」
 彼女の言葉通り、トゥフタは体を出来るだけ小さくし、タシュの裾を掴みながらクロレバと目を合わすことなくカタカタと震えていた。
「何故……」
「何に対しての疑問だ?私はソレがこの国へ紛れ込んだ時から知っていた」
 ソレと呼ばれ、と冷たい目線で刺されたタシュはトゥフタの手を握った。また一歩女王が二人へ近づいてきた。
「少しの娯楽になればと、目を瞑っていたが……さすがに夫を寝取られるのは見過ごせない」
 クロレバは連れてきた衛兵に合図をし、トゥフタからタシュを引きはがした。
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