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正しい事

異国の友人

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「一番って事は二番もあるんだろ?」
 誘うような言葉を使った自覚が出たのか、少しバツが悪そうに俯き口を手で覆う。照れているようにも見えた。
「笑わないと誓えるか?」
「もちろん、俺は月を信じてる。だから月に誓うよ」
 今は見えない月を指さすように、人差し指を立たせると、スドゥルは頭を掻いた。こんな仕草をするのも珍しい。 
「……タシュにだから言うんだからな」
「もったいぶらずにそろそろ言えって」
「……親子として暮らしてみたい。幼い時のように『母上』と呼んでみたいんだ」
 ぽつぽつと語られる言葉は、もったいぶった割りには肩透かしに思えたが、タシュは笑う事無く言葉を返す。
「スドゥルはホントに良くわからん事を言うな?呼べばいいじゃないか、母上でも母さんでもかあちゃんでも」
「そんな単純なものじゃないんだ」
「単純だって。多分お前は難しく考えすぎだと思う。……あ、ウユチュ様の願いってなんだ?」
 会話する内に、タシュの調子も戻ってきたようだ。口の動きも滑らかになってきた気がするし、頭の疼きももうほぼない。
「……父親の故郷を見る事だ。海と山が見える美しい街。それを見て、死にたいと願っている」
「最後の願いってやつか?確かにウユチュ様は体が弱そうだけど、まだ死ぬような年じゃあ……」
 そこまで言って、タシュたちとこの国の人の寿命がどうやら違うらしい事を思い出した。今までの話をまとめると、ウユチュの子供がクロレバでクロレバの子供がアイムだが、皆どれだけ高く見積もっても30代が関の山だ。タシュと年が変わらないと言われても、驚かないような容姿は、いつから留まっているんだろう。
「今更だが、お前たちの寿命ってどうなってるんだ?」
「ああ、そうか……それを説明していなかったか……我々の体の成長はお前たちで言う所の二十歳前後で止まる。それは、その期間が一番働ける体だからだ」
「お、おう?」
 またタシュの脳の処理が追い付かない話が始まった。だが、水を向けたのは自分であるし、気になっていたのも事実だ。なんとか話に付いて行こうと相槌を打つ。
「そして、老いない」
「す、すごいな」
「見た目は若いまま死ぬ。国民の平均年齢はお前たち外の者達と変わらない」
「ん?いや、でも……」
 タシュが何を聞こうとしているのかが分かっているかのようにスドゥルは頷いた。
「王族は違う。特に女王と王は特別長生きだ。その理由は、わかるな?」
「……最高の遺伝子をたくさん残すため……?」
「その通り」
「はあー……お前たち本当に人間か?もしかしたら異世界人か?」
「……あながち間違いで無いかもしれない」
「へ?!」
 冗談で言ったつもりなのに、真剣な表情を向けられてタシュの動きが止まる。
「お前たち外の者は猿から移行したらしいが、我々は違う」
「え?な、何?こ、怖いんですけど……?」
「我々は虫から移行したと教えられている。主に蜂から」
「は、蜂?!……それ本気で言ってる?」
 しかし、言われてみれば納得がいく事もある。異様に多い六角形のモチーフ。技術的に難しいとされている養蜂の成功。そして何より、蜂蜜のように美しい髪を持つ人々――。
「……冗談はこれくらいにして、そろそろ起きろ。ウユチュ様の所へ行くぞ」
「え?!冗談なの?!お前って冗談とか言うやつだったっけ?!」
 後ろを向き、ドアを開けるスドゥルの肩が小さく揺れた。これは吹き出した時の揺れ方だ。
 タシュにも色々あったが、スドゥルにも色々あったらしい。異国の友人の嬉しい変化に、こんな時だというのにタシュの心は暖かくなった。
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