毛利真伝

もうりん

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初陣編

兄の悲嘆と虎寿の涙

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郡山城 毛利隆元
わしは父上から弟たちと共に集められた。父上の自室に赴くと相変わらず力強い父上に似た瞳をした同母弟の虎寿の姿があった。虎寿はわしよりよっぽど才覚に優れ行く行くはわしの右腕引いては幸鶴丸の右腕へと期待される同母弟だ。若干、虎寿に嫉妬もあるが次郎や又四郎程歳が近くない故かそこまで腹が立たなかった。勿論、虎寿の並々ならぬ配慮もあるかも知れないが。
「隆元、元春、隆景。良く聞きなさい。今日、晴久が毛利家一門の人質を求め郡山城にやって来たのは知っているか?」と父上の口から出るとわしは無意識に虎寿の方を向くと虎寿が不気味に微笑んだその不気味さが何かはその時分からなかった。
「確かに知っては居ました。それで誰が選ばれたのですか?」と又四郎が言うと虎寿が口を開いた。
「…私ですよ、隆景兄上。」と虎寿が言うとわしも含めて父上と虎寿以外の全員が凍りついた。
その中でやっとの事で次郎が口を開いた。
「虎寿、悲しくは無いのか?俺や又四郎には分からぬが尼子に人質に行けば生きて帰れるかは分からない。それぐらい分かってるだろう?お主ほど聡ければ…。」と言った次郎に虎寿は呪うような声を出して
「じゃあ、元春兄上に問いますよ。尼子様から直々に人質に指名された私が断れると?今、戦になれば敗れるのは私たち毛利家だと言うのに!?」と言った。
その声はとてもでは無いが何時も温厚で優しい虎寿の物では無かった。虎寿の的を射た言葉にぐうの音も出なくなっていると父上がこれまた悲しみを抑えた声で
「そう言うことだ。それと虎寿が出立するのは3日後の朝だ。」と言うと虎寿が
「父上、その前日の夜に貞俊の居る福原城に行くことをお許し下さい。」と父上に許可を穿った。
すると、父上が虎寿に酷く無情な事を言った。
「お主と貞俊がどれ程望んでも貞俊を虎寿と一緒に尼子に行かせる事は出来ぬ。」と言われた瞬間虎寿の目から光が失われ殺気さえを放っているようだった。
「それはそうだろう、虎寿?貞俊は毛利の…。」
「筆頭家老ですよね!!」と虎寿は辛うじて自制心を保ったのかそう言うとわしや止めようとした次郎をも潜り抜けどこかに走り去ってしまった。
郡山城 毛利虎寿丸
私は隆元兄上や元春兄上、隆景兄上の止めるのを押し退けると貞俊との暖かみの残る己の自室に飛び込んでそのまま枕に顔を埋めて堰を切ったかのように泣いて貞俊を求める心を鎮めようとしたが心は鎮まることを知らずむしろ貞俊が欲しいという要求を強くしていくばかり。それじゃ駄目なんだよ。貞俊は父上の言った通り毛利家の筆頭家老。死地とも言える所に一緒に連れていける相手でもないし貞俊だって一緒にも行か無いだろう。だって、私とさえ居なければ毛利家で筆頭家老としての確固たる地位が貞俊にはあるのだから。あれだけ私は貞俊に確固たる地位に居ることを望んでたでは無いか…。
チリーン。その時場違いな優しい鈴の音が響いた。貞俊の声みたい…。私は涙を止めて床を見ると私が大切にして居た幼き日の私が貞俊に貰った鈴が懐から落ちていた。私はその鈴を大切にしまい直すと胸のあたりをキュッとおさえた。貞俊が遠のいてしまうようで…。置いて行かないで…!
私はそれから1日中食事も取らず兄上たちの説得にも応じずただただ貞俊の香りを探すかのように這いつくばるだけだった。
こんな私でも愛しくて大切な人は笑ってくれるかな怒ってくれるかな。馬鹿な自分はしてくれるはずもないそんな期待を愛おしい人に抱いてしまう。でも甘えたくてでも甘えられるその存在は今ここには居ない。もどかしいやり場の無い身勝手な怒りは己の胸に心に鈍痛となって襲い私はそれに身を委ねるように眠りに落ちたのであった。
自分の父である元就さんの宿敵である晴久さんの下に人質に行くことより貞俊さんが居ない生活になることが確実になってある程度予想がついていたのにいざ言われると悲しくて泣いてしまう虎寿丸君。それが駄目だと拒否する元就さんのことも理解している虎寿丸君はその気持ちを抑え込もうとするが…。
以上第三話の展開になりました。次回は虎寿丸君と元就さんの親子対決ターンになります。
よろしくお願いします。
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