冬月シバの事件簿

麻木香豆

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着物美人

その三

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 これは記録的豪雨の日であった。とある遺体が高架下から見つかったと通報があった。

 呉服屋の若旦那であった。彼は家族にようやくデートに誘えたと喜んで出かけて夜になっても帰ってこなかったそうだ。

 若旦那は着物を着ていた。首には手で強く締められた跡。

 冬月は上司から聞いてすぐわかり、ノートを見返した。
『大川原 真流』


 ◆◆◆

「だってね、どこに相談しても……取り合ってくれなかったの。私が男だからって。男が男をストーカーするなんて。そんなわけないって……

 だから私がやるしかなかった。

 私から連絡とったら若旦那、とても喜んだわ。すぐ約束を取り付けてくれたわ。着物デートしましょうって。

 本当にバカよね。いい雰囲気になって、私が男って分かった瞬間に顔引きつらせて騙されたとか言い出して。

 私は思いっきり首を締めてやったわ。……もし彼が私が男でも構わなかったらこんなことしなかったもの。


 いつもそうだった。大抵私が好きになった人は私が男と知ったらすぐ身を引くの。だから怖くて。

 ええ、若旦那のこと好きでしたよ。怖いとか言いながらも。
 怖いのは……私が男と知ったら私のことを嫌いになるんじゃないかと思って……でもやっぱり彼は……」

 大川原真流は取調室でそう答えたそうだ。涙を流しながら。


 しかし彼には余罪があった。この一年で何人かの男性の遺体が見つかっていた。なかにはラブホテルで見つかったものも。

「みんな、私を受け入れてくれていれば……」
ふふふ、と笑った。

 終
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