1 / 1
ボクと化け狐
しおりを挟む
ボク、輝宮柊馬(てるみやとうま)が化け狐を拾ってからもう三年も経つ。長いようで短いようなそんな気分だ。此処、花月神社には遥か昔巨狼も居たそうだ。そんなおとぎ話みたいな生き物さえこの神社に迷い込んでしまうのだから、化け狐の一匹や二匹どうとも思わないわけで正直なところを言ってしまえば興味すらわかなかった。
ボクは、猫の様な性格だと周りに良く言われている。確かに的を得た意見だと思う。だって、今でもその化け狐に興味すら示していないんだから。そもそも名前や住んでいた場所すら分からない化け狐の事を家族だとか思ってない。ただ住まわせている、という感じだ。
化け狐、と呼ぶのもあまりにも失礼だからボクは決してそうは呼ばない。まずどう呼べば喜んでくれるのかも分からないから話し掛けても居ない訳で、こんな新米神主をどう思っているのかも謎だから迂闊に声を掛ける事もできない。
「……、とーま、とーま」
色々な事を考えているとボクを呼ぶ声が聞こえた。ボクは辺りを見渡す。けれど、そこには誰もいなくて首を傾げるのと同時に足元に抱き着かれた感覚がした。ボクはビクッと身体を跳ね上げさせそろりと足元を見ると小さな幼子に化けた狐が其処に居た。
「……何?」
ボクは、ほっと息を吐くと狐にそう問い掛けた。狐は嬉しそうに微笑みながら桜の花をボクに見せた。
「…この花、綺麗。何て名前?」
こてんっと首を傾げる狐が可愛らしく見え思わず微笑んでしまった。
「これは桜と言って春になると咲くんだ。色んな桜があるから今度花見でも行く?」
「…さく、ら。……!いい、の?余、花見、したい」
目をぱちぱちと瞬きさせた後嬉しそうにする狐を見てボクはこの時初めて狐に興味を示した。この時の感覚は、後になっても消えずにボクの中に残っていると思う。だから、この化け狐に名前をあげようと思ったのもこれが初めてだ。
「キミに名前をあげる。…桜の季節だから、初めの文字は桜次の文字は一斗缶の斗。この二文字を合わせて桜斗(はると)。どうかな?」
ボクは、不安気に狐を見詰める。狐は、目を丸め初めて与えられた名前におどおどしていたが最終的に目を輝かせ嬉しそうにはしゃいだ。
「はる、と。余の名前。嬉し」
この時初めて狐…いや、桜斗は気の抜けた笑みをこぼしたかもしれない。
ボクは、きっとこの笑顔を見たかったのかも。そう思えて仕方がないくらいだ。
新しい家族とまた沢山の思い出を作っていこう。
end
ボクは、猫の様な性格だと周りに良く言われている。確かに的を得た意見だと思う。だって、今でもその化け狐に興味すら示していないんだから。そもそも名前や住んでいた場所すら分からない化け狐の事を家族だとか思ってない。ただ住まわせている、という感じだ。
化け狐、と呼ぶのもあまりにも失礼だからボクは決してそうは呼ばない。まずどう呼べば喜んでくれるのかも分からないから話し掛けても居ない訳で、こんな新米神主をどう思っているのかも謎だから迂闊に声を掛ける事もできない。
「……、とーま、とーま」
色々な事を考えているとボクを呼ぶ声が聞こえた。ボクは辺りを見渡す。けれど、そこには誰もいなくて首を傾げるのと同時に足元に抱き着かれた感覚がした。ボクはビクッと身体を跳ね上げさせそろりと足元を見ると小さな幼子に化けた狐が其処に居た。
「……何?」
ボクは、ほっと息を吐くと狐にそう問い掛けた。狐は嬉しそうに微笑みながら桜の花をボクに見せた。
「…この花、綺麗。何て名前?」
こてんっと首を傾げる狐が可愛らしく見え思わず微笑んでしまった。
「これは桜と言って春になると咲くんだ。色んな桜があるから今度花見でも行く?」
「…さく、ら。……!いい、の?余、花見、したい」
目をぱちぱちと瞬きさせた後嬉しそうにする狐を見てボクはこの時初めて狐に興味を示した。この時の感覚は、後になっても消えずにボクの中に残っていると思う。だから、この化け狐に名前をあげようと思ったのもこれが初めてだ。
「キミに名前をあげる。…桜の季節だから、初めの文字は桜次の文字は一斗缶の斗。この二文字を合わせて桜斗(はると)。どうかな?」
ボクは、不安気に狐を見詰める。狐は、目を丸め初めて与えられた名前におどおどしていたが最終的に目を輝かせ嬉しそうにはしゃいだ。
「はる、と。余の名前。嬉し」
この時初めて狐…いや、桜斗は気の抜けた笑みをこぼしたかもしれない。
ボクは、きっとこの笑顔を見たかったのかも。そう思えて仕方がないくらいだ。
新しい家族とまた沢山の思い出を作っていこう。
end
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる