あと3年の彼女は心の映像を盗み見る

響ぴあの

文字の大きさ
24 / 38

デートしましょう

しおりを挟む
 学校があるので、気まずい状態だった二人も必然的に顔を合わせる。席が近いので、折を見て時羽が謝った。

「この前は、言い過ぎた。ごめん」
 時羽は雪月に対して感情的になりすぎたことを認め、謝る。

「時羽君は思いやりがある人だってわかった。だから、別に怒ってはいないよ。悪いと思っているならば、デートをしましょう」

 謝ったことをきっかけに、時羽に向かって雪月が無理な提案をして来る。まさか、そんなことがあるはずはない。嫌われ者の自分にそんな明るい話があってはならないと、時羽はスルーしてみる。時羽はスルー力が高いのが自慢でもある。正直なんの自慢にもならないのだが。

「ねぇ、聞いているの? 時羽君」
 名指しで言われると、さすがの時羽も無視するわけにもいかない。

「俺にできることはない」
 自分には無関係だといわんばかりに視線を逸らす。

「時羽君しかできないこともあるって。デートの相手になってほしいの」

「ハードルが高すぎる」

「じゃあお出かけの相手ということでいいから。残り少ない人生を楽しませてよ」

「残り少なくなっちまったのは、自己責任だろ」
 私情を挟んではいけないと思っていた。これからは、余計な感情を挟まないようにしないと、雪月に対してまた怒りをあらわにしてしまうかもしれない。

「岸に頼めばいい。奴ならば、快諾間違いなしだ」

「私は時羽君がいいと思って、お願いしているのに」

 時羽はため息をつく。正直なぜ客のアフターフォローをしなければいけないのだろうか。面倒なことは苦手分野だ。
「私の友達紹介してあげるから」

 友達というワードに時羽は胸が高鳴る。お金では買えない崇高な存在。それが友達だ。

「仕方ない、協力しよう」
 時羽は快諾した。つまり、友達に飢えた単純な男だということだ。

「ちょっと最近、風花と時羽君って仲いいよね?」
 遠巻きに見ていたクラスの女子グループに囲まれる。時羽にとってこれ以上怖いことはなかった。どうせ、嫌われ者の時羽と人気者の雪月がなぜ一緒にいるのかどうかと難癖付けられていじめを受けるのだろう。時羽の思考はマイナス一直線だ。

 ただ、秘密を共有しただけだ。それだけの関係だ。

「時羽君って結構面白いんだよ」
 雪月がにこやかに紹介する。

「もしかして、二人は付き合っているとか?」
 クラスメイトが野暮な質問を投げかける。あるわけがない。時羽金成だぞと思われるに違いない。全くみんな好奇心が旺盛すぎるんだよ。

「付き合ってないよ。私なんかと付き合っているなんて、時羽君がかわいそうだよ」

 愛されキャラの雪月は自分をへりくだって付き合っていないことをアピールする。さりげない優しさだな。本当は、こんなきもい奴とかありえないとか思っているのだろうと時羽は思い込む。

「ちょっと風花が羨ましいってみんなで言っていたんだよね」
 羨ましい? どういう意味だ? 時羽は困惑する。

「時羽君って滅多に女子と話さないじゃない? 男子とも話していないし。風花には心を開いているあたりが恋愛関係なのかなって勘繰っちゃってさ」

「時羽君ってクールで冷静沈着で、私たちの手が届かない人だと思っていたから。羨ましいって思っていたんだ」

 女子たちは少し恥ずかしそうにおだてたような言葉を放つ。きっとおだててあとで何か頼みごとをしてくるのだろう。持ち上げて落とす作戦だな。新たないじめの手口か。そんなことを時羽は真剣に思う。

「時羽君はクールでかっこよくてイケメンだからねー」
 雪月はそう言うと、時羽の肩に手を置いて反応を見る。
 みんなの手前邪険に手を振り払うことができず、硬直する時羽。

 時羽の心の中は疑心暗鬼の渦に包まれていた。真っ暗な闇と青空のような中に真っ白の雲が混ざり合った混沌とした映像だった。それは、雪月にしか見ることはできない映像で、時羽の困惑ぶりをわかりやすく示した映像のようだった。うれしい気持ちと疑いの気持ちと警戒の気持ちが混じりあう人間はそんなにいるわけではないので、時羽の映像をみることは雪月にとってちょっとした楽しみでもあった。

「俺のこと、ディスっているのか?」
 ひとこと、時羽はクラスメイトに言い放つ。

「まさかぁ。結構時羽ファンっているんだよ。でも時羽バリアがあると話しかけにくいよね」
 
 時羽の話しかけるなオーラは通称時羽バリアといわれているらしい。本人も無意識にネーミングしていた時羽バリアがクラスメイトにも浸透していたとは。

「こうやって話すことも貴重だよね。私なんて、ファンに睨まれまくってるんだから」

 時羽の心はピンク色の空に変わる。それは、うれしいと感じる力が強くなったということだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...