あと3年の彼女は心の映像を盗み見る

響ぴあの

文字の大きさ
34 / 38

友達の定義

しおりを挟む
「最近、岸君に植物の話を聞かせてもらっていたら、家庭菜園や園芸が趣味になっちゃった」
 傍らには植物の本があった。雪月が読んでいるのは、野草図鑑だ。食べられる草の種類が書いてある持ち歩ける大きさの本だった。

「岸はいい奴だよな」
「時羽君よりもずっと気が利くし、ずっと優しいし。本当に良い人だよ。時羽君が言うように岸君に対して真面目に関わろうと思っているよ」
「真面目に関わるって……」
「付き合うことも視野に入れて……と思ったけれど、すぐ死ぬ予定だから、それって残酷だよね」
「でも、好きなら付き合うのもありじゃないのか。とは言っても、俺は恋愛したことないし、その感覚が全くわからないけれど」
「そうだよね。時羽君の考えている映像はいつも友達がほしいばっかりだもんね」 
「あまり人の脳内を見るな!!」
 時羽は赤面する。

「こんなネガティブ思考の気が利かない男子のどこがよかったのか自分でもわからないけれど……安心して。もう好きじゃないから」
 その一言が時羽の心に突き刺さる。グサリという音がするくらい容赦ない突きだ。 

「あれ、時羽君意外とへこんだ? 映像が急に真っ黒になっちゃったよ。何もない部屋でひとり取り残されたみたいな」

「そんなこと……あるわけないだろ」

「本当は時羽君の孤独に強いところに憧れていたんだ。仲が良かった人とぎくしゃくしていて、女友達に合わせていくことに疲れていたんだよね。SNSのグループに入らなければいけないとか、入れてもらえなければ友達じゃないとか、色々焦って八方美人状態。でも、いつも本気で笑えていなかった。そんな時に、いつも一人ぼっちでいても平気な顔をしている時羽君の強い心が羨ましかった。心の映像を盗み見ると、実は結構友達欲しい人で、自己否定が強く裏表がないってことがわかって。一緒にいたいと思って声をかけたの」

「一人ぼっち仲間を探していたってこと?」
 時羽は少し冷たい声を出す。

「あと、3年弱しか生きられないならば、一緒にいて本音で笑える人と一緒にいたいって思ったの。裏表がなくて、正直な人と一緒にいたい。岸君も愛想はいいし、万人受けする裏表はないキャラだしね。彼に向き合ってみようと思うの」

 時羽は何も言えなかった。とっさに出てきた言葉は実に彼らしいものだった。 

「友達の定義って何だろうな? たとえば、たまに話すだけの人、クラスが同じ人、友達と言っても深さは全然違うよな」

「恋人と友達の定義も私もわからないけれど、自分が友達だと思ったらそれが友達だと思うし、片思いの人でも、卒業して二度と会わない人でも友達だと思えばそれが友達なんだよ」

「そうか」

 図書室の本の整理をしながら時羽は、友達について考えていた。あんなに憧れていた友達というものは自分の解釈次第だということは、幻想の中に見た真実だった。喉から手が出るほど友達に憧れていた時羽は、実は解釈次第で友達だったのかもしれない人がいたということに気づく。自分が心を閉ざしていたせいで作ることができないでいた。でも多分、時羽が求めていた友達はもっと深く関わり成長しあえる同士だ。うわべの友達じゃない。そして、友達になれた岸と雪月がもしかしたら恋愛関係になるかもしれないという状況に戸惑いが隠せないだけだった。

「友達関係に疲れていたけれど、時羽君と岸君に救われたよ。一人ぼっちは耐えられなかったし、心が見える分、裏表が見えるから色々考えるようになっちゃって。だから、これからも土曜の夜は集まろう」

 関係が途絶えないということに時羽としては、少しうれしい気持ちもあった。しかし、岸と雪月が恋人になってしまったら自分の居場所がなくなってしまうのではないかという心配もあったのは事実だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...