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世界で一番長生きゼリー
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「死にたくない」
そう思った小学校6年生のライタ。最近、テレビや小学校の授業で「死」について考えることが多く、死ぬときの瞬間がとても怖いと思った。
死ぬときに人は何を思うのか? 無になるのか? 苦しいのか? さびしいのか? 辛いのか? 全く予想もできなかった。
高齢の老人にインタビューしたテレビでは「死んだことがないからわからない」とおじいさんは言っていたし、生きている人にはわからないことなのだろう。
毎朝、今日も生きているとほっとしている自分がいた。そんなとき、友達のうわさ話で都市伝説のお店の話を聞いた。友達も詳しくはわからないようだったので、自宅に帰ったライタはすぐにパソコンに向かう。早速検索してみる。それは、死に対する恐怖から逃れ、生きるための検索だった。力強く打ち付けたキーボードの指がじんじんした。
「あった!!」
都市伝説のうわさのサイトが見つかった時、神様を見つけたかのようにライタの目はとてもとても輝いていた。とはいっても、うわさの掲示板というサイトだ。そのサイトは実際に夕陽屋という店に行った人の体験談や行くための方法が書いてあった。
たそがれどきに強い思いをもったらいけるらしいよ。
ねがいごとを強くねがうといけたよ。
夕暮れの空に向かって叫んだらいけるよ。
本当かどうかもわからない書き込みがたくさんあった。インターネットの世界は無限で、情報の選択肢は自分にゆだねられる。だから、自分の判断力がとても大切になってくる世界だ。
とりあえず、夕方はもうすぐだ。ライタは庭に出て準備を進めた。生きるための儀式だ。夕暮れ時、空が少しずつ暗くなってきた。そろそろあの店に出会えるかもしれない。
「しにたくなーい」と叫んでみた。
すると、赤紫色の光が差し込み、それらしき店が庭に現れる。周囲の景色は、全く知らない景色となっていた。隣のうちもむかえのうちもなくなっていて、不思議な夕陽の光がさすのは夕陽屋と書かれた古びた店だった。
「いらっしゃい」
ライタがおそるおそる店に入ると不思議な商品らしきものがたくさん並んでいた。木造の建物は古びた木の匂いがする。店員は学生みたいだったが、思いのほか若いことに少し驚く。
「僕は死にたくないので、不死になるお菓子ってありませんかね?」
遠慮がちにライタは聞いてみる。
「君は不死に憧れているのかな?」
「だって、死ぬのはこわいよ」
「不死は危険だぞ。体がバラバラになっても、死ねないのは大変なんだ。たとえば、おぼれても死ねないのでは、ずっと苦しいまま死ぬことができない。死は最後のとりでなのさ。不死はとても辛いからおすすめできないよ。肉体には寿命があるのさ。永遠に歯も骨も元気ではないのだから」
鬼気迫る雰囲気で夕陽が語る。
「たしかに、体がどんなに痛くなっても死ねないのはむしろ大変だよね。じゃあ長生きしたいな」
「長生きってどれくらい?」
「世界一ってことで」
「かまわないけれど、健康ではない状態で生きるという可能性もあるよ。事故にあって、意識がないとか、寝たきりになっても長生きしたい?」
「だって死にたくないもん。不死がだめだったら長生きがいいよ」
「じゃあ長生きゼリーはどうかな? 10円だよ」
「これは?」
「このゼリーを食べると世界一の長生きができる代物さ。しかも、死の恐怖がなくなるっていうおまけつき」
「世界一長生き? 死の恐怖がなくなるの?」
ライタは目を輝かせる。
「君は死が怖くてここにきたんだろ?」
「怖い気持ちが消えるの?」
ライタはポケットから10円玉を差し出す。手のひらが少し汗ばんでいた。無意識に知らない店に来てしまい、緊張していたのだろう。
ライタは一口大のゼリーをほおばる。恐怖の気持ちはなくなったが、体自体は何も変わった感じはしなかった。
「なにもかわらないよ」
「長生きってさ、特別なことはなくても、毎日が続いていく。同じように朝起きてご飯を食べて、学校に行って、夜ご飯を食べたら歯磨きをして寝る。そんな普通の毎日だ」
「せっかくねがいをかなえたけれど、なにもかわらないや。つまんないの」
「でも、こわいという気持ちはなくなったから毎日が楽しい気持ちですごせるはずだよ」
特別な何かを期待していたライタは、いつもと何もかわらないことにつまらなさを感じていた。でも、心の中にある死の恐怖から逃れることができたのは幸いだと感じていた。
「毎日生きていくことは、単調な日々をどう生きるか、その人次第さ。その人次第で波乱もあれば栄光を手にするとことも注目されることもある。でも、毎日が栄光の連続なんてありえない。努力も本人の心次第。明日は素敵な時間にもつまらない時間にも代えられる」
「おにいさん、なんか難しいけれど、納得したよ。人生ってやつだろ。すてきな言葉をありがとう」
そう言ってライタは帰宅した。
♢♦♢♦♢
「人生は作り出すものだふぁ」
少年が見えなくなるとふわわは静かに言葉を話す。
「長く生きるということは、とっても大変なことだよな。大切な人が自分より早く死ぬわけだし、百年後に家族がいるかどうか、生きていても健康かどうかもわからないしね。死の恐怖を感じなくなったライタが、無茶なことしなければいいけど」
「怖い気持ちがないと、事故にあったり、ケガをしやすいんだふぁ。警戒心も大事だふぁね。それにしても、夕陽は不老不死に否定的だふぁね」
「普通は終わりがあるからがんばれるんだけどな。俺が不老不死だから、大変さを知っているんだよ。好きでやっているわけではないのに、この仕事を辞めることもできないってことだ。ずっと永遠にやっていかなければいけない、そういうさだめさ」
ライタはこのあと、死の恐怖を感じなくなり、車が来ているにも関わらず、道路を渡ろうとした。そして、交通事故にあった。意識はないけれど、世界一長生きを約束されているので、長生きできるだろう。しかし、歳を取って親も死んでしまい、身寄りがなくなったら身内がいなくなったさびしさも感じずに病院で一生を終えるのかもしれない。
短くても充実した楽しい生き方をするのか、長くても意識がないままずっと眠って過ごすのか、どちらがいいのだろうか。これは自分で選ぶことはできることではないかもしれない。しかし、長く楽しく生きられたら最高だと思わないか?
そう思った小学校6年生のライタ。最近、テレビや小学校の授業で「死」について考えることが多く、死ぬときの瞬間がとても怖いと思った。
死ぬときに人は何を思うのか? 無になるのか? 苦しいのか? さびしいのか? 辛いのか? 全く予想もできなかった。
高齢の老人にインタビューしたテレビでは「死んだことがないからわからない」とおじいさんは言っていたし、生きている人にはわからないことなのだろう。
毎朝、今日も生きているとほっとしている自分がいた。そんなとき、友達のうわさ話で都市伝説のお店の話を聞いた。友達も詳しくはわからないようだったので、自宅に帰ったライタはすぐにパソコンに向かう。早速検索してみる。それは、死に対する恐怖から逃れ、生きるための検索だった。力強く打ち付けたキーボードの指がじんじんした。
「あった!!」
都市伝説のうわさのサイトが見つかった時、神様を見つけたかのようにライタの目はとてもとても輝いていた。とはいっても、うわさの掲示板というサイトだ。そのサイトは実際に夕陽屋という店に行った人の体験談や行くための方法が書いてあった。
たそがれどきに強い思いをもったらいけるらしいよ。
ねがいごとを強くねがうといけたよ。
夕暮れの空に向かって叫んだらいけるよ。
本当かどうかもわからない書き込みがたくさんあった。インターネットの世界は無限で、情報の選択肢は自分にゆだねられる。だから、自分の判断力がとても大切になってくる世界だ。
とりあえず、夕方はもうすぐだ。ライタは庭に出て準備を進めた。生きるための儀式だ。夕暮れ時、空が少しずつ暗くなってきた。そろそろあの店に出会えるかもしれない。
「しにたくなーい」と叫んでみた。
すると、赤紫色の光が差し込み、それらしき店が庭に現れる。周囲の景色は、全く知らない景色となっていた。隣のうちもむかえのうちもなくなっていて、不思議な夕陽の光がさすのは夕陽屋と書かれた古びた店だった。
「いらっしゃい」
ライタがおそるおそる店に入ると不思議な商品らしきものがたくさん並んでいた。木造の建物は古びた木の匂いがする。店員は学生みたいだったが、思いのほか若いことに少し驚く。
「僕は死にたくないので、不死になるお菓子ってありませんかね?」
遠慮がちにライタは聞いてみる。
「君は不死に憧れているのかな?」
「だって、死ぬのはこわいよ」
「不死は危険だぞ。体がバラバラになっても、死ねないのは大変なんだ。たとえば、おぼれても死ねないのでは、ずっと苦しいまま死ぬことができない。死は最後のとりでなのさ。不死はとても辛いからおすすめできないよ。肉体には寿命があるのさ。永遠に歯も骨も元気ではないのだから」
鬼気迫る雰囲気で夕陽が語る。
「たしかに、体がどんなに痛くなっても死ねないのはむしろ大変だよね。じゃあ長生きしたいな」
「長生きってどれくらい?」
「世界一ってことで」
「かまわないけれど、健康ではない状態で生きるという可能性もあるよ。事故にあって、意識がないとか、寝たきりになっても長生きしたい?」
「だって死にたくないもん。不死がだめだったら長生きがいいよ」
「じゃあ長生きゼリーはどうかな? 10円だよ」
「これは?」
「このゼリーを食べると世界一の長生きができる代物さ。しかも、死の恐怖がなくなるっていうおまけつき」
「世界一長生き? 死の恐怖がなくなるの?」
ライタは目を輝かせる。
「君は死が怖くてここにきたんだろ?」
「怖い気持ちが消えるの?」
ライタはポケットから10円玉を差し出す。手のひらが少し汗ばんでいた。無意識に知らない店に来てしまい、緊張していたのだろう。
ライタは一口大のゼリーをほおばる。恐怖の気持ちはなくなったが、体自体は何も変わった感じはしなかった。
「なにもかわらないよ」
「長生きってさ、特別なことはなくても、毎日が続いていく。同じように朝起きてご飯を食べて、学校に行って、夜ご飯を食べたら歯磨きをして寝る。そんな普通の毎日だ」
「せっかくねがいをかなえたけれど、なにもかわらないや。つまんないの」
「でも、こわいという気持ちはなくなったから毎日が楽しい気持ちですごせるはずだよ」
特別な何かを期待していたライタは、いつもと何もかわらないことにつまらなさを感じていた。でも、心の中にある死の恐怖から逃れることができたのは幸いだと感じていた。
「毎日生きていくことは、単調な日々をどう生きるか、その人次第さ。その人次第で波乱もあれば栄光を手にするとことも注目されることもある。でも、毎日が栄光の連続なんてありえない。努力も本人の心次第。明日は素敵な時間にもつまらない時間にも代えられる」
「おにいさん、なんか難しいけれど、納得したよ。人生ってやつだろ。すてきな言葉をありがとう」
そう言ってライタは帰宅した。
♢♦♢♦♢
「人生は作り出すものだふぁ」
少年が見えなくなるとふわわは静かに言葉を話す。
「長く生きるということは、とっても大変なことだよな。大切な人が自分より早く死ぬわけだし、百年後に家族がいるかどうか、生きていても健康かどうかもわからないしね。死の恐怖を感じなくなったライタが、無茶なことしなければいいけど」
「怖い気持ちがないと、事故にあったり、ケガをしやすいんだふぁ。警戒心も大事だふぁね。それにしても、夕陽は不老不死に否定的だふぁね」
「普通は終わりがあるからがんばれるんだけどな。俺が不老不死だから、大変さを知っているんだよ。好きでやっているわけではないのに、この仕事を辞めることもできないってことだ。ずっと永遠にやっていかなければいけない、そういうさだめさ」
ライタはこのあと、死の恐怖を感じなくなり、車が来ているにも関わらず、道路を渡ろうとした。そして、交通事故にあった。意識はないけれど、世界一長生きを約束されているので、長生きできるだろう。しかし、歳を取って親も死んでしまい、身寄りがなくなったら身内がいなくなったさびしさも感じずに病院で一生を終えるのかもしれない。
短くても充実した楽しい生き方をするのか、長くても意識がないままずっと眠って過ごすのか、どちらがいいのだろうか。これは自分で選ぶことはできることではないかもしれない。しかし、長く楽しく生きられたら最高だと思わないか?
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